第8話 本当の貧困

わたしと篠崎さんは、町の中心部から外れた路地裏を歩いていた。

もうすぐ夜明けが近づいているためか霧が薄くなってきた。

ここまで歩いてくる途中にわたしは篠崎さんに質問しようとした。しかし、これは必要ないことがすぐにわかった。篠崎さんは人の心が読めるのだ。わたしの疑問に篠崎さんは独り言のように答えていった。

「ここの時間の進み方は現在の私たちがいる日本の時間の進み方とリンクしているわ。簡単にいうと、1秒たてば日本でも1秒経過するわ。」

わたしは篠崎さんの説明を聞きながら一つ一つの事柄を吟味し、整理していた。

「やっぱりメイちゃんはお利巧さんね。」

わたしは心の声のボリュームをマックスにして、というかもう口からあふれ出していたことを篠崎さんに伝えた。

「子ども扱いしないでください!わたしはもう大人です!」

そうね。篠崎さんは小さくいってから、

「でもあなた、心の奥では褒めらえることを喜んでいるわ。」

どうやら篠崎さんの能力はひとの深層心理まで読み取ってしまうらしい。

「それは、そうかもしれませんけど、ほめるなら大人をほめるようにほめてください。」

「ドレスが着たいだの、子ども扱いしないでだの、注文が多いわね。」

「また話を蒸し返す!わたし、篠崎さんのそういうところ好きじゃありません!」

ちょっとからかいすぎたわね。ごめんごめん。

そういって篠崎さんはわたしの前を歩き始めた。

「時間がないから、手短に言うわね。ここにあなたを連れてきたのはあるものを見せたかったからなの。」

篠崎さんの口調が真剣なものに変わったので、わたしは少し戸惑った。

最初に篠崎さんにあった時自己紹介をしてすべったことを思い出していた。

「あれを見て」

篠崎さんの指さす方向をみると、ぼろ雑巾のようなものがいくつも動いているように見えた。

わたしは一瞬ぞっとしたが、すぐにその正体がわかった。

子どもだ。

年齢や体格はまちまちだけど、みんな寒さをしのぐためにぼろぼろになった布をかぶっている。よく見ると女の子もいる。

ふと違和感に気づいた。子どもはいるけど大人の姿が見当たらない。

もうすぐ日の出とはいえ、まだ薄暗い街の中を子どもだけがうろついているのは変だ。

「あの子たち、どうして親と一緒にいないんですか?そもそもなんでこんな時間に出歩いているんですか」

わたしはなんとなく察しがついていたが、実際に目の当たりにした光景をまだ現実のものとして受け入れられないでいた。だから、篠崎さんが違う答えをしてくれることを期待していた。

「残念だけど、メイちゃんの想像通りよ。あの子たちは孤児、そしてこれからしごとにいくところ。」

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