第7話 ロンドン

わたしと篠崎さんは光に包まれていた。

周りの景色は歪み、やがて見えなくなっていった。

これは一体なんだろう。不思議と恐怖はなかったが、意識が遠のいていくのを感じた。


気がつくとわたしはどこかの路地裏にいた。

レンガで建てられた三角屋根の家並み。石畳の床。あたりは暗いからどうやら夜のようだ。


「ここはどこ?」

わたしは独り言のように呟きながらあたりを見回していたけど人影はない。

篠崎さんはどこに行ってしまったのだろうか。

わたしは不安になってきた。寒い。その上薄霧がかすめていて視界が良くない。

ただ、じっとはしていられなかった。わたしはあてがなかったが、少しずつ歩き始めた。

歩き始めてわかったのはどうやらここは日本ではないということ。

街灯はまばらにあるけど、どれもアンティークな造形だ。まるでハリー・ポッターのような街並みであった。

わたしはふと足を止めてこの状況を整理してみることにした。

篠崎さんと休憩室にいて、篠崎さんが単語帳を取り出して何かを書き出してから周りの風景が変わりだした。篠崎さんは時間と空間を移動することができるタイムトラベラー。そしてこの街並みから察するに。

ゴーン。

私が結論を導き出そうとした瞬間、大きな低い音が響き渡った。

わたしは音のするほうへ駆け出していた。私の推測は確信に変わりつつあった。

急に景色が開けてきた。どうやら大きな川に突き当たったらしい。

「やっぱり。思った通りだ。」

わたしのにらんだとおり、川の対岸には巨大な時計塔、ビックベンがそびえたっていた。

「ここは、イギリスの首都ロンドン。それも現在じゃなくてむかしの。」

私がつぶやくと後ろから声がした。

「さすがはメイちゃんね。」

私が振り向くと篠崎さんがそこにいた。ただ、その服装はこの前公園で見た、シンデレラのようなドレス姿に変わっていた。

「篠崎さん、一つ聞いてもいいですか?」

篠崎さんはくすくすと笑っている。

「ていうか、心の中読めるんだから、わたしが何を言いたいのかもうわかりますよね。」

わたしはありのままの不満を篠崎さんにぶつけることにした。そう、路地裏にいたときから違和感を持っていたが篠崎さんの姿を見て不満に変わったのだ。

「どうして私の格好はスーツのままなんですかー。」

ついに篠崎さんは吹き出してしまった。

あははとお腹を抱えて大笑いしている。

「あなたって本当に面白いわね。そんなにドレスが着たかったの?」

まだ笑いを抑えきれない篠崎さんを見てるとわたしは余計に腹が立ってきた。

「当たり前です!急にこんなとこ連れてきて自分だけきれいにお色直ししてずるいです!」

わたしが頬を膨らませて怒っているのを見て篠崎さんは

「あら、私メイちゃんはその恰好が一番かわいいと思ったからあえてそのままにしたのよ。」

なんていうもんだからわたしは篠崎さんの性癖にドン引きしたのだった。

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