第6話 隠れた才能

篠崎さんは、ポケットから単語帳を取り出して、めくり始めた。あったあったと篠崎さんが指を指した先にはわたしの名前、東雲メイと書かれたカードがあった。

「どうして、わたしの名前?」

言いかけた時、篠崎さんはそのカードをわたしの前でちぎって破り捨てた。

「!」

わたしは驚くと同時に一瞬頭が真っ白になった。その後で、わたしの頭の中に篠崎さんに関する記憶が次々と思い出されていった。

篠崎さんと夜の公園で出会ったこと。その後居酒屋で篠崎さんにからかわれたこと。

「思い出したようね」

篠崎さんは口角を少しだけあげて、小さく笑った。

「...ッツ!」

わたしは怒りが込み上げてきた。

「どうゆうことですか!わたしの記憶を書き換えるなんて!」

「相変わらず、察しがいいのね、メイちゃんは。私の見込んだ通りだわ。」

「説明になってない!」

篠崎さんはまあまあと手で制しながら

「あなたが思っているとおりよ。説明するほどのことではないわ。」

とまるで他人事のように言った。

「こんの・・・」

わたしがまだ篠崎さんに嚙みつこうとすると、

「ほらほら、いい子だから大人しくしなさい。可愛い顔が台無しよ。」

と子供に言い聞かせるように言ってきた。

ムカつく。

「どうしてだと思う?」

篠崎さんが少し真剣な眼差しでわたしを見つめている。

「? 何がですか?」

篠崎さんの真意が掴めない。

「どうして私が自分の秘密をあなたに話したか、理由を知りたくない?」

知りたい。でも素直に知りたいと言いたくない。

「それは」

わたしが言葉を探していると篠崎さんが言葉を被せてきた。

「それはね、あなたには才能があるからよ。」

「才能?」

わたしには最も縁遠い言葉に耳を疑う。

「嘘、そんなの」

「嘘じゃないわ、私、人を揶揄うのは好きだけれど、嘘は嫌いだもの。」

篠崎さんは真剣な眼差しのまま口元だけ少し笑った。

わたしは頭の中が混乱してきた、篠崎さんに記憶を操作されてた怒りはもうどこかに消えていた。篠崎さんのいうことが全て本当ならわたしにはまだわからないことがある。

「ひとつ聞いても良いですか?」

いいわよと篠崎さんは答えた。もう目も笑っている。

「篠崎さん、カナメさんの目的は何ですか?」

「いい質問ね。」

わたしは真剣に聞いているのに、篠崎さんはどこか小馬鹿にしているような気がしてならない。

「でも説明すると長くなるから、実際に体験してみるのが手っ取り早いわ。それに、、」

あんまり時間がないのよね。

そう言って篠崎さんは例の単語帳を取り出し何かを書き出した。

わたしはまた記憶を書き換えられると思い、身構えていると、

「心配しなくてもいいわ。これから起こることは全て本当にあった事実だもの。」


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