第5話 日常に潜む違和感

わたしはため息をついた。

別につきたくてついたんじゃない。

ただ自分が何をしたいのか、私の人生このままでいいのだろうかと思うようになっていた。

特に1か月前にすい星のごとく現れた向かいの席の篠崎さんの仕事ぶりを見てから、その思いはより一層強くなっていた。

篠崎さんはとにかく仕事が早くて正確であった。そのうえ見た目も美人ときたものだ。

ああ、神様はどうしてこうも人に不平等を課すのだろう。

「お疲れさまでした。」

篠崎さんはそういって、ロッカールームへと消えていった。

時刻は午後2時。

お昼休みが終わってちょうど1時間が経過していた。

ちなみに、篠崎さんが出社してから1時間しか経過していない。

そう、彼女は超時短労働者なのだ。

彼女に欠点があるとすれば、1日1時間しか働かないというところだろうか。

それに比べてわたしときたら、仕事の量、質ともに平均よりもはるかに下であった。

もともと、人より秀でたものはこれと言ってなかった。

だから、いまのような一流メーカーに就職できたのは幸運であった。

しかし、ポテンシャルが平均値なら、優秀な人が多い会社に入れば、相対的に自分は、平均以下の人間になってしまう。考えてみれば、当たり前のことであった。

最近は、仕事のミスが多いうえに、雑務が多すぎていつも時間に追われていた。

わたしはこのままでいいわけない。と思っていたものの、どうしたらいいのかわからなくなっていた。

考えても仕方ない、そう考えたわたしは4階の休憩スペースへ向かった。休憩時間はまだ先だが、食後の眠さで仕事にならない。コーヒーでも飲んで目を覚まそう。とかんがえた。

ちなみに、2週間ほど前から私たちの事業部は完成した新社屋に引っ越してきていた。わたしは真新しいエレベーターで4階に向かい、休憩スペースへと向かった。

薄暗い休憩室に人影があった。わたしはすこし不気味に感じながらも、休憩スペースのドアを開けた。

「あら、誰かとおもったら、メイちゃんじゃない。」

そこには、コーヒーを片手に壁によりかかり、足を組んでいる篠崎さんがいた。

わたしは驚いていた。篠崎さんとは自己紹介の時に話した程度だ。

なのに、いきなり、なれなれしく下の名前で呼んでくるし、まず何より、キャラが違いすぎる。

「あ、いまなれなれしいしいつもとキャラが違うって思ったでしょ?」

「!?なんで」

「ふふふ、その顔を見るのは2度目ね。」

「どういうことですか?」

わたしは問い詰めるような形で篠崎さんに近づいた。

「百聞は一見に如かずってね、いま思い出させてあげるわ。」

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