第3話 秘密

篠崎さんが伝説の社員と呼ばれている理由が分かった。

彼女は一日一時間しか働かない超時短勤務者だったの。

それでよく今までクビにならなかったかというと、篠崎さんはとびぬけて優秀な社員だったから。

彼女は一般社員の10倍仕事ができた。だから、一日一時間でも一般社員がこなす一日の仕事量をはるかに上回っていた。

まあ、だとしても普通一時間で帰りますかね。

篠崎さんは何の悪びれもなく荷物をまとめて、オフィスを後にした。

驚いたことに、このことに驚いているのはわたし一人だけだった。

石上さんも部長もああ、お疲れ様。とさも当たり前のように篠崎さんをねぎらった。


わたしは悔しかった。

容姿がよくて、仕事もできるなんて才色兼備もいいところだ。

お昼休みにわたしは、悔しさと苛立ちから、社内の売店で菓子パンを4個も買って、無心で食べた。いや、正確には怒りに身を任せていたといったところが正解かもしれない。


午後からの仕事は苦痛でしかなかった。お腹は痛いし、仕事ははかどらないし、一体何してるんだろう。

結局、予定の半分も終わらないまま、私は退社のカードリーダーに社員証をかざした。

駅に向かう途中でコンビニでも寄って立ち読みして帰ろうとしたとき、コンビニの向かいにある公園で何かが光っているのが見えた。

私は何となくその光の方に昆虫のように吸い寄せられていった。


公園といっても、トイレと鉄棒と、お椀をひっくり返したようなコンクリートの丸い山みたいな遊具があるだけの簡素な公園だった。

光は奥のトイレの方が光源のようであった。

わたしは、丸い山の影からトイレの方を覗き込んだ。

「!!」

わたしは息をのんだ。

シンデレラのようなドレスを着た女性が高さ5メートルくらいのところに浮いていたのである。


その女性は少しずつ下降しながら、なにやらぶつぶつと独り言を言っていた。

わたしは怖くなって、逃げようとしたとき、聞き覚えのある声が耳の入ってきた。

「うーん、Z軸方向の調整が甘かったか。まあ、マイナスに振れなかっただけよしとするか。」

「篠崎さん!?」

私は思わず、声を上げてしまっていた。


それは、信じがたい光景ではあったが、確かに篠崎さんだった。

ただ、朝見た時と、様子が違うのは、シンデレラのようなドレスを着ていること。

そして、黒縁の眼鏡をしていないことだった。

「あなたは、確か、東雲メイさんね。」「東に雲と書いて」

「はい、あの・・・」

わたしが言いかけたとき、察したかのように篠崎さんは言った。

「このことは、会社の人には秘密にしてもらえないかしら。」

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