第279話

「お嬢様、レイ・ダインとおっしゃる方が、おみえになっておられますが」


 ジュンシはボクに告げる。

 レイ・ダインか、あれ以来、会ってはいないが元気にしていたのだろうか? ボクはジュンシに南側の応接室に通すように伝えると、ユリスの部屋へと足を運ぶ。

 今日は、学院も休みで、それぞれがのんびりとしているはずだ。ボクも、このところバタバタとしていたが、今日はゆっくりと休日を満喫していたところだ。そうだ、ボクは思い付いて、ユリスの部屋の前に立つ。ボクはユリスの部屋をノックすると、中から開いてるわよ、声が掛かる。


「ユリス、時間はあるかい……」


 声を掛けるまでもなく時間はありそうだった。ユリスはまだパジャマのままだ。


「王宮暮らしじゃなくてよかってね、ユリス。きっと、こんな時間までパジャマでは過ごせないと思うよ」


 あら失礼ね。今から着替えようと思っていたところよ、ユリスは反論するが、今から着替えるにしても相当に遅い時間だ。


「ところで、レイ・ダインが来ているみたいなんだけれども、一緒に会わないかい?」


 ユリスを誘うと、よほど暇を持て余していたようで、いいわよ、と即答だった。それじゃあ、着替えが終わるまで外で待っているから、なるべく早くね。そう伝える。

 ジュンシが様子を見に来たが、ユリスも一緒に会うけれども、着替えに時間がかかりそうなので、少し待ってもらえるように伝えて欲しいとお願いする。

 しばらくするとユリスが出てきた。白いブラウスに、紺色のプリーツスカート、黒のハイソックスといういで立ちはいかにもお嬢様らしく、ユリスにはよく似合っている。髪はスカートと同じ生地のリボンで飾られていた。相変わらずユリスは本当にセンスがいい。ボクは、ジュンシがいないと服すらまともに選べないほどなのに、自分で選んでそれが間違いないのだから、大したものだ。

 ボクは正直に感想を伝えると、ユリスは嬉しそうに笑って言う。


「あら、ありがとう。これでも妙齢のお嬢様ですからね。最低限の身だしなみかしら? スミタマだって同じよ。少しは自分を磨く努力をしないといけないと思うわ。同世代の親友としては」


 遅くなってすいません。お待たせしました。そう言いながら扉を開けると、ダインは窓から、例のプールを眺めて不思議そうに聞いてきた。


「あの建物は一体……」


 ボクが、あれは巨大な水槽で、あそこで泳いだりするんですよ、丸見えだと恥ずかしい思いをしますから、回廊で覆っているんです、というと、なんとも言えない表情で聞き返す。


「巨大な水槽ですか……」


 ボクは、あちこちに出回っていたせいもあって、結局、この夏、プールで遊ぶ機会には恵まれなかったが、ルアにも好評で、いかにも嬉しそうに飛び付いてきたものだ。


「あっ、これは失礼しました。ご挨拶もまだだったのに、あまりに不思議な建物だったものですから。ご無沙汰しております。お会いするのは久しぶりですね」


 ダインは、ボクとユリスに挨拶をする。


「こちらもご無沙汰しております。スノックさんはお元気でしょうか? 顔を出していろいろとご報告をと思いつつ、バタバタしていて行きそびれてしまって失礼をしております」


 三人が席につくと、ここぞというタイミングで、ジュンシが紅茶のセットを持って入ってくる。

 ダインはまず、スノックの近況から語ってくれた。

 悪魔会議の議長という重責から退き、とても穏やかな毎日を送っているという。


「まだ、悪魔の国の独立という話もあったはずなのですが、それは、自分ではなく、他の誰か適任者が出てくるはずだから、議長職はもうお終い。そう言っていますよ。日当たりのいいテラスで、島から届けられる果実酒をちびちび飲みながら、一日中、読書を楽しんでいます」


 話しはほとんど前に進んではいなかったが、悪魔会議の議長としての役割や、スノック島という自分の領地をなげうっての行動などは称賛に値する。


「帝都での暮らしに不自由がないか、聞いておいてください。もしあるようでしたら、すぐに対応させていただきますから」


 ユリスもスノックの身を気遣ってくれている。戦乱の首謀者としては望外に厚遇な扱いを受けているスノックとダインだ。生活に支障はないはずだ。確かに、見張りは付いているが、見張りというよりは護衛に近い。


「それで、島の統治ですが、思いがけず領主になどなってしまって、戸惑っていましたが……」


 ドリートが島に残ってくれて本当に助かっている。ボクは、ダインに伝える。


「何せボクの本業は学生ですから、領地に居続ける訳にはいかないのです。おそらくこれからもずっと、帝都暮らしだと思っていたものですから、どうしようかと悩んでいたのです」


 そこにドリートが名乗りを上げてくれたのだ。ドリートも屈託なく政務に当たってくれている。そして何より有能だ。


「そうですか、それは結構ですね。果実酒も以前の品質に戻った上に、新しい品種の開発もしていると聞いています。それに、この帝都でも、スノックの人魚の瞳は大評判ですよ」


 ダインが知っているとなると評判は上々のようだ。ボクは名前を広めたいなど考えず、とてもお気に入りなので割と頻繁に着けて出掛けている。ジュンシなどは結構、気を遣ってくれているようで、実家に帰るときや、ちょっとしたお出掛けにも、着けてくれているようだ。


「少し込み入った話になるのですが、というよりもお願いに近いかもしれません。お時間はよろしいでしょうか?」


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139556934012206#reviews

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