第274話
ボクは再び席に着くと、タニタテクに、秘策を打ち明けた。当初は驚いていたようだが、ドルガントに痛みはない。むしろ厄介払いできる。
「もちろん、帝国では、その成果を形にはできないのですから、すべてドルガントに委ねなければならないでしょう。どうです、全く得ばかりの取引になるとは思いませんか、陛下?」
タニヤテクは大きなため息を漏らす。
「奴は悪魔的だったが、ミス・ミタマ、貴方はまさに悪魔だな」
ボクは静かに笑っただけだった。
「奴はそれほどの力は持ってはいないが、魔導術の達人でもある。気を付けるように」
それで決行は、タニヤテクの問いにボクは即答する。
「今晩です。ですからキナをお願い致します、親父殿」
うむ、タニタテクはそれだけを言う。話の流れがいまいち掴めていないキナは、一体、何が行われるのかまだ分からないようだ。
「今夜、タニヤテク陛下が直々に、キナを安全なところまで脱出させてくれるから、準備をしておくように。侍女たちはしばらく、尋問など受けるかもしれないけれど、大丈夫だから、キナ一人で脱出するようにしてほしい」
陛下、そのあたりの打ち合わせは、今からキナと綿密に行ってください。ボクはさっそく今から向かいたいと思いますので、もちろん彼女の同意が大前提ですから、その時は失敗ですので、陛下も、いろいろと諦めてください。ボクはタニヤテクに圧力を掛ける。
「うむ、悪事に手を貸すようで、気が引けるが、時にはこのような手段も必要なのだろう。それで、失敗した場合だが……」
その時は改めて燃える石の取引交渉をしましょう。大丈夫ですよ。全ては陛下の御心のままでございますから。ボクはタニヤテクにそれとなく、伝える。
ドルガントの牢獄は、国の北部にあり、馬車で半日ほどの距離だった。すべて伝令によって手配されているのか、ボクは丁重に迎え入れられた。
「あのアキラに面会なんて、それが許されれたのは貴方が初めてです。とにかく危険な奴なので、お気を付けて」
面会したのはこの獄を預かる責任者だろう。この獄長には多少気の毒ではあるが、そこはタニヤテクの裁量になる。悪くはしないだろう。
アキラの牢獄は、最深部だった。厳重な警戒の元に置かれ、始終歩哨が立ち、見張られている様子だった。
しかし、国王からの面会許可状だ。通さない訳にはいかない。
想像していたよりも、アキラは若かった。まだ二十代の前半といったところだろうか。やや黄色味を帯びた髪は整えられていないが、艶があり、目は濃い砂色をしていた。目の下には泣き黒子があり、化粧っ気のないその姿と共に、彼女の印象を幼く見せている。王家の血だろうか、力強い瞳が印象的な整った顔立ちをしてした。
手には手枷が嵌められていた。
ボクは獄卒から鍵を受け取ると、無造作に鍵穴突っ込んで鍵を開ける。ボクが牢獄の中に入ると、それとなく歩哨たちは、その場を外し始めた。
中に入ると、いきなりファイアボルトが飛んできた。無詠唱だ。ボクは弾くでもなく、防御魔導術を展開するでもなく、掌でその炎を簡単に吸収すると、手を伸ばして彼女の首を強い力で絞めつけた。
力を緩めると、アキラは大きく咳き込む。
「一体、どういうつもりだ」
それはこっちせりふなのだが、それはまあいいだろう。
「せっかく面白い話をもってきたのに、いきなりの歓迎で興覚めだな、アキラ。ボクはすべてを知っていて、何でもできると言うのに」
ボクは、アキラの前に燃える石を置く。するとそれを両手でつかんで、ボクに投げつけてくる。タニヤテクが言っていた通り、魔導術には精通していても、身体能力は普通の人と同じようだ。ボクは瞬間移動で簡単にかわし、その石をつかみ取る。
「馬鹿な女だ。この石がどんなに価値のあるものか。天才と聞いていたが……」
手に取った石をまた彼女の目の前に置く。
「価値は分かっている。分かってはいても、どうにもならないから投げつけたんだ。それを分かっていないお前こそ馬鹿な女だ」
彼女は石を手に取る。
「上質だな、しかもかなり。この国では普通の石を集めるのでさえ苦労しているというのに、一体どこで手に入れた」
ボクは彼女の質問を無視して、例の実験セットを彼女の目の前に広げてセットする。彼女には子供じみた実験だ。途中から意図がわかったのか、せせら笑っている彼女だったが、ボクは真剣だ。彼女が意図を理解するなど、最初から分かっている。ようはその気にさせなければ意味がないのだ。
「水車は水を、風車は風を使う。さて、この石は何をしてくれるのか、ボクはそれを聞きにきた」
考える時間は山ほどあったはずだ。様々な分野に思いを致しただろう。先ほどの無詠唱の魔導術もここで会得したに違いない。その気になれば、この牢獄など簡単に出れたはずだが、彼女はそうしなかった。それはなぜなのか?
「さっきのファイアボルトは無詠唱だった。それもここで会得しものだろう。この牢獄から出ようと思えばいつでも出れるのに、貴方はそうはしなかった。それはなぜだろう?」
ボクは率直な疑問を口にする。
「簡単だ。お尋ね者では逃げる、生きるのが精一杯で何もできないからに決まっている。私は、自分の頭の中のすべてを形にしたいのだ。逃げ隠れせずにな」
やはりボクが思っていた通り、かなり聡明だ。ユリスと同じような勘の冴えを感じさせるが、切られた感覚さえ残さないのがユリスならば、アキラは、鈍い痛さを感じさせる感覚と言えば、分かりやすいだろうか。ボクの例えは間違っていない自信がある。
「それでは、この石を使って何ができるのか形にしてみて欲しい。これは歴史を変える力を持った石だ」
ボクは石を手にとって、弄ぶ。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます