第272話

 謁見の間から場所は移された。タニヤテクも鎧を脱いで、正装ではあるが、ごく軽い服装だ。


「それで、ミス・ミタマは島と言ったが、そのあたりから説明を聞くとしようか」


 まだこのドルガントまで話しは伝わってはいないらしい。ボクは悪魔の国の領主となった経緯を簡単に話し、伯爵にも叙任されたと伝えた。


「ほお、悪魔の国か、その話しもまた興味深いな」


 そちらにも、関心を惹かれたようだが、それはまた別の機会に置くとして、本題に入る。


「その島で採れたのがこの石なのです。キナと共に調査したところ、かなりの量が採掘可能だと判明しました」


 なるほど、それを売りつけにやってきたというわけか? タニヤテクの即断をボクは首を振って否定する。


「あれを」


 ボクはサキノアの部屋で行った実験をそのままタニヤテクの前で披露すると、顎に手をあてて、タニヤテクはじっと考え込む。


「おそらくこの国の天才の頭脳と技術力があれば、これが何を意味するのか一目瞭然でしょう」


 聞くとところによると、この大陸中央部では、大きな鉱脈は見つかっておらず、良質のものを集めるだけでも苦労が多いらしい。タニヤテクは唸り声を上げる。


「我々は材料と研究のための人員を、そちらも研究のための人員、それと技術力を、それぞれの国が出し合って、国家百年の計を立ててはいかがかと」


 ボクは単刀直入に使者としての来訪の理由を述べる。


「うむ、話は分かった。しかし、すぐに答えは出せない。もしかしたら、とんでもない結果を招く可能性もある。歴史が変わる。じっくりと考えさせて欲しい」


 今夜の晩餐会では、ぜひ一曲、キナに向かってそう言うとタニヤテクは席を立ち、部屋を出て行った。


「一応こちらの意図は伝わったみたいだから、あとは判断次第ってところかな。ボクたちの仕事は一旦は終わりだよ。タニヤテクが言ったみたいに、今夜を楽しく過ごすとしようか」


 ボクはキナの手を取ると、立ち上がり、ちょっと踊る仕草をしてみせた。キナは王女でもあるので、ちゃんと教養としてダンスは身に付いているが、ボクは社交界に付き合いはないし、晩餐会に出る機会もない。付け焼刃で覚えたダンスは流石に多少の不安がある。

 それでも一般人以上には踊れるから問題はないとしておこう。別に大会や競技会に出るわけではないから、一般レベル以上あればそれでいいのだ。

 その夜の晩餐会の主役はキナとタニヤテクだった。キナのダンスは流石に洗練されていて、優雅だった。胸板が厚く筋肉質のタニヤテクとキナは、とても良く似合っているように見えた。

 ボクもそれなりに関心を集めているようで、踊りに誘われ、何曲も踊った。


「ミス・ミタマもそれなりに踊れるのだな。踊るたびに銀髪が光輝いて何とも言えない美しさだな」


 それに、キナとボクの着けている真珠にも、女性を中心に関心が集まっているようだった。


「先ほどミス・ミタマは悪魔の島と言っていたが詳しく話を聞いてもいいだろうか?」


 タニヤテクがテーブルにボクとキナを誘う。ボクたちはグラスを手に取ると、タニヤテクに進められるままに席に着く。


「先日、白ゴブリンが人と同様の扱いを受けるようになったのは、陛下もご存じでしょう。この度、帝国では悪魔も同じように、人として扱われるようになり、ボクが封建された島に世界中から悪魔たちが集まってきたのです」


 それでも全部で二万人ほどしかおらず、まだまだ発展はこれからだとボクは伝える。


「今回の献上品には、ボクの島の特産品も含まれています。もちろん、石は入れていませんけれど」


 笑いながら言うと、タニヤテクは人差し指を唇に当てる。


「その話は今晩は無しにしておこう。おそらく国家機密扱いになるはずだ、両国にとってな」


 それにしても、その耳飾りは見事だな。献上品の目録にも入っていたし、それも島で採れるのか? タニヤテクは問い掛ける。


「流石にお目が高い。その通りです。これも島の特産品の一つで、せっかくなので今晩は二人とも、真珠を着けて参上させていただいております」


 ボクは笑いながら指で髪をかき上げて耳に掛ける。すると大粒の黒真珠が揺れて輝く。


「ふむ、悪魔の島に黒真珠か。まるでおとぎ話のようだな」


 いえいえ、悪魔とは言っても、見た目は人と全く変わりなく、区別するのすら難しいほどですよ。ボクは悪魔について若干の説明を加えると、タニヤテクも了解したようだ。ドワーフも人間とは種族が違うだけに理解は早い。


「その島を裁量しているとなると、ミス・ミタマも悪魔なのか?」


 ご存じなかったのですか? キナが笑いながら話しに加わってくる。


「ボクの場合は少し特殊でして、生まれながらの悪魔ではないのですが、まあ、悪魔ですよ。ここで披露できないのが残念ではありますが……」


 ちょっとだけお茶を濁すように、ボクは控え目に秘密を告げると、タニヤテクは驚いていたようだ。確か前にもそれとなく伝えておいた気がするが、ボクもタニヤテクも記憶からは消え去っているようだった。機会がくれば、それだけを約束するのに今晩は留めておいた。

 晩餐会は盛況の内に終了した。ボクが持ち込んだ果実酒もかなり好評だったようで、新たな顧客が付く可能性も高そうだ。


「キナ、ボクは自分の島の特産を過小評価していたようだ。ドリートを一緒に連れてこなかったのは大失敗だったかもしれない」


 互いの部屋に引き取るときにボクはそっとキナに耳打ちした。その耳にも大粒の真珠が揺れていた。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139556934012206#reviews

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