第268話
早速、巨大蜘蛛の姿になり、周辺の木を切り倒し始める。この作業であればボクにも手伝える。キナの指示に従いながら、森を切り開いていく。ある程度の広さを確保したところで、ボクは木をさらに細かく刻んて薪にしていく。その間に、キナは斜めに穴を掘り進め、まずはボクたちの寝床を確保する。
人の姿に戻ったキナは、まるで煙突掃除をしたかのように、頭の先から足の先まで真っ黒になっている。ボクは裸のキナに腕を伸ばして、空へと駆け上がる。途中見つけておいた小川までいくと、そこにキナを下ろして、ボクは周辺を警戒する。
「あのあたりは、地表からすぐ下は例の燃える石になっています」
鼻を衝く独特の臭いもあるし、あの周辺に寝床は確保しずらいので、南側か北側に移動した方がいいだろうとキナは説明してくれた。
「それなら、あの切った木を使って簡単なシェルターでも作ろうか。そちらの方が手っ取り早いし、せっかく切った木を無駄にはしたくないからね」
身体を洗い終わったキナは服を着ると、ボクの前まで来て、背中を見せる。ボクはキナに抱き着くようにして、腕を絡める。
「スミタマさんとなら、どこまでも一緒に飛んでいけそうです」
ボクたちは空へと舞い上がる。先程の地点まで戻ると、まずは周囲を調査する。北側はすぐ行けば岸壁になっているので、調べる必要はない。主に南側をキナに調べてもらう。
キナが切り倒した木をボクが運んで、枝を落とし、蔦を使って屋根に仕上げていく。これを斜めに建て、太目の木で支えれば、簡易シェルターの出来上がりだ。二日から三日を過ごすのであればこれで充分だ。
ボクがシェルターを作っている間に、キナは相当遠くまで進んでいた。一直線にキナが切り開いた道が続いている。ボクはキナの上に飛び乗る。
「今度はボクが運んでもらうからね」
ボクは笑いながらキナの背にしがみつく。
先程の小川の手前まで来て、キナはようやくその動きを止めた。
「この川の先にも鉱脈は続いているようです。かなりの量が地面のすぐ下に眠っています」
ボクは飛び上がって南を見る。南北を隔てる中央の山地はまだ先で、裾野すら見えない。岸壁から山地の裾野までの平原がすべて燃える石の鉱脈である可能性が出てきた。相当な量になる。
一旦、先程作った広場まで戻ったボクたちは、シェルターをキナに背負ってもらって、小川の手前に再度シェルターを設置する。水場が近い方が何かと便利だからだ。
「日も傾いてきたし、今日はこれぐらいにしようか」
小川から手頃な大きさの石をいくつか拾い上げてくると、それを組んでかまどを作る。薪をさらに細かく割ってから小さな櫓をかまどの中に組んでいく。もってきたスコップで少し掘れば、簡単に燃える石が手に入る。その石を数個、櫓の上に並べる。ファイアボルトで櫓に火を点ける。しばらくすると、石が燃え始める。
獣類がいれば、捕獲して今日の晩御飯にするところだが、ここ周辺には動物の類の気配が全く、感じ取れない。鳥のさえずりだけが、耳に届き、どこか不気味ですらある。
「キナはどう思う?」
ボクはこの気色の悪さをキナに伝えると、キナも同じような感覚を持っているという。
「ワーム類が出るという話は聞いていないけど、何かしらのモンスターが出る可能性があるね。今晩はボクが不寝番をするから」
キナは食事が済んだら仮眠を取っておいて欲しい。何か起こったらすぐに起こすから、ボクはキナにそう言うと、二人で簡単な食事を摂った。
結局のところ、何も異変は起こらずに夜が明けた。モンスターの類でも寝床には帰ってくる。それを考えると、この森は鳥類たち天国ではあっても、動物たちには暮らしにくいところなのかもしれない。
「推測ですが……」
キナによると、地下にある燃える石の鉱脈が関係している可能性があるのではないかという。
「確かに地表を覆っている土の層はそれほど厚くはないね。この妙な臭いを嫌って動物たちは寄り付かないのかもしれないね。それでもこうやって樹々は育っている。森は偉大だね」
シェルターを起点に、調査を進めていくが、西側はすでに通路が出来ているので、裾野までの東側と、北側、南側にどれほどまで鉱脈が広がっているのかを調べれば一応の作業は終了となる。ボクは東側を調査した。といっても、スコップを手に一定間隔で穴を掘って確かめるだけだ。背丈ほどの穴を掘るのにも四苦八苦だが、土の層は背丈の倍ほどはあるので、一苦労だ。
その間にも、キナは猛スピードで地面を掘り進んでいた。鉱脈ギリギリまで掘り下げて、調査を進めていく。流石に洞窟の支配者だ。
「交代しましょう」
ボクが穴を二つ三つ掘ったところでキナに声を掛けられた。もう南北方面の調査は終了したらしい。ボクはキナから引っ張り上げられて穴から抜け出すと、キナに首尾を聞いた。
「海岸付近までは同様です。森が切れてからも鉱脈は広がっているようです」
ボクは東方面の調査をキナに委ねると、食事になりそうな鳥類を狩りに出掛けた。穴掘りは苦手でもこちらは得意だ。やはり人には得手不得手があるものだ。昼前までにはキナの調査が終了し、こちらも数羽の鳥を捕まえていた。
鳥を調理しながらキナの報告を聞く。南北は海のすぐそばまで、東側も山の裾野を超えて山自体が巨大な燃える石の集まりである可能性が高いとキナは言う。
「その山のどこまで続いているかはわかりませんが、山地全体に点在している可能性もあります。もっとも東に行くほど少なくなっているはずですが」
山地全体に鉱脈が点在しているとなるとその量は膨大だ。
ボクたちは焼いた鳥を頬張る。格別においしいという訳ではないが、野趣あふれる味がした。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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