第266話

 ドリートからの報告書は簡潔かつ分かりやすくまとめられていたが、ひとつだけ、大いにボクの興味を引く記述があった。


「島最西部で発見された燃える石について」


 タイトルにはそう書いてある。新たに葡萄畑の耕作に適した土地を探すためにハンターに依頼したところ、そのハンターが持ち帰ったという。島の最西部というと、スノック港の真反対になる。スノック島は、以前は一国であっただけあって島とはいえかなりの広さがある。南側は開け、北側は荒れ地が広がっており、最西部など、人も住んでいない。スノック港からは、だいたい歩けば十日ほどはかかるだろう距離がある。もちろん、真っすぐに道などない。スノック港を中心に栄えてはいるだけで、あとは小さな村落がある程度だ。そこに今は約二万人ほどの悪魔たちが暮らしている。

 石は青みを帯びた黒色をしており、火にくべると燃え上がると報告にはある。以前から一部のハンターなどは活用していたらしいが、その石が島西部で大量に採掘できる可能性が高いらしい。

 もちろん世界中のあちこちで採れるはずだし、その存在も知られているに違いないが、大規模に採掘されているとは聞いていない。またその利用価値も良く分かっていない可能性もあるのだ。


「そうか、島で石炭が採れるのか……面白い」


 もしかしたら、スノックは歴史に名を刻むかも知れない。それだけでも充分な価値がある。しかし、二十年、三十年後を見越して考える必要がある。一度は島に渡らなければ詳細も分からない。

 ボクは引き続きの調査と、近いうちに島に向かう旨を記した手紙を書きあげると、ジュンシを呼び手渡した。


「遅くにすまないね。明日の朝一番に出してもらえればいいのでお願いするよ。それじゃあおやすみ」


 ジュンシは深々とお辞儀をすると手紙を受け取り下がっていった。

 ベッドの寝転がりながら、あれこれと空想を巡らす。いろいろな可能性が浮かぶ。様々な技術が生まれるだろうが、さてどうしたものか?


「とりあえず、見てから考えるとしようか」


 学院のテラスに置いてあるテーブルは六人掛けだったのだが、こちらの頭数も増え、手狭になったため、ユリスのちょっとしたわがままで、八人掛けの大きなテーブルをいくつか置くようにした。そのうちの一つは、実質的にボクたち専用だけれども……。そのテーブルに全員が揃った昼休み、ボクは次の休みに島に視察に行くからとみんなに伝えた。


「里帰りのルアは当然として、今回は、キナにも一緒に来てもらいたいんだけれども、予定はどうかな?」


 キナはいきなりの指名にびっくりていたが、特に予定はないというので、是非にとお願いすると、快く了解してくれた。


「今度は何を企んでいるのかしらスミタマは。キナを連れていくなんて珍しい」


 ユリスが怪訝そうな顔でボクを見つめる。


「今はまだ内緒だよ。そのうち分かるようになると思うから、楽しみにしててくれていいよ」


 キナには道中の馬車なり船で説明するから、心配しないで、ちょっとした調査をお願いしたいだけだから。そう説明しておいた。


 ドリートの執務室はいつものように整理整頓され、とても仕事がしやすいような環境になっている。懈怠なく業務を行っているなによりの証拠だ。その後の追加調査の依頼では、それ以上は分からないという回答だっただけに、今回はキナを連れてきて正解だった気がする。


「あら、たしかあなたは会議の時に……」


 ドリートは覚えていたようだ。


「はい、姫様と一緒に同席していました。キナ・ルーリーです」


 キナは聖獣女王の一人娘で、次期女王の予定なんだ、と説明すると、ドリートはかなり驚いていた。


「じゃあキナ、しばらくは部屋で休んでいてもらえるかな? 今からルアを送り届けてくるから。その間にドリートにも例の蜘蛛を」」


 ボクはドリートの対応をキナに任せると、ルアを連れて外へと出る。この島ではボクが昼間から飛んでいても誰も驚かない。みんな知っているからだ。もちろん、取引が行われている港には普通の人間もいるから、見つからないように、ルアを抱いて北側へと飛び立っていく。


「ルア、今回は調査が目的なんだ。ニ、三日はかかると思うから、ゆっくりしてきていいからね。こちらが終わったら連絡するから。迎えにくるから大丈夫だよ」


 ルアの耳元にもキナが着けてくれた蜘蛛が張り付いている。水の中に入るときは、耳の穴の中にまで潜るから溺れる心配はないそうだ。何とも器用な蜘蛛たちだ。

 ルアを島の北側、かなりの沖合まで連れて行くと、ルアを放り投げる。ルアは怒って手を上げたり、声を上げたりと騒々しいが、ボクは笑いながら手を振って、その場から飛び立っていく。

 官邸に戻ると、二人はまだ執務室にいた。

 テーブルの上には、採取されてきた黒い石が青光りを放ちながら置かれてある。

 ボクはキナの隣に腰を下ろすと、尋ねてみる。


「キナ、最果ての深森で、こんな石、見かけるかい?」


 すると、首を振って否定する。


「今日、見るのが初めてですよ。この石が燃えるなんて信じられないですね」


 いかにもキナらしい返答に、ドリートは笑いながら、じゃあ実演してみましょうか? ボクたち三人は、そろって厨房へと向かう。かなりの火力でなければ燃えない性質らしく、厨房のかまどを利用して燃やす。


「こうやって火にくべておくと、バッと燃え上がるのよ」


 しばらく眺めていると、急にかまどの中の火か大きくなった。


「ほら燃えだした」


 ドリートは火ばさみで、燃えた黒い石を取り出して、鉄板の上に置く。確かに発火しているのが良く分かる。


「燃える石の存在自体はだいぶん前から知られていたみたいだけれども、大量に採とれるかもしれないとは知られていなかったみたいなの」


 キナは実物を見て驚いていたが、ドリートの説明は、報告書の域を出ていない。


「さて、この燃える石なんだけれども、単に薪やロウソクの代わりとして使うにはもったいない代物なんだよ。それは追々、説明していくとして、明日から早速調査に出かけよう」


 ボクはキナに島の地図を見せながら、この黒い石が見つかった場所を指した。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139556934012206#reviews

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