第265話
「あと一歩足らなかった。半分は私の責任でしょうね、慙愧に堪えません。色々と今回もお手間をお掛けいしたようです。ありがとうございました」
ここは帝都の執政執務室。ボクとユリスは、キナ、ジュンシを伴って、サキノアを訪れていた。
「いえ、貴方に、責任はないわ、サキノア。まず第一に軽率な行動を取った二人が責められるべきで、その責任は死をもって償われたわ」
ただ、あの洞窟調査が適切なレベル設定であったかどうかは疑問が残る。
しかし、学生の両貴族から救助隊なりが出ていたとしたら、むしろ被害はもっと広がっていたのは確かだ。
「むしろ、私たちを頼った貴方の判断は適切だったし、私たちとしても光栄に思うわ。結果的には残念ではあったけれども……」
ユリスは語尾を濁す。
「その後の判断も、申し分なかったのではないでしょうか? 帝国全土に、あのように洞窟に擬態するワームが存在するといち早く伝わったのですから」
ユリスの言葉を引き継ぐように、ボクはサキノアの対応の良さを語ると、サキノアは微苦笑する。
「母様にも伝えておきました。聖獣国でも注意を怠らず、警戒を強めています。もし洞窟内部に入り込まれていれば、森どころか緑の都にも影響が出ますから」
キナは早速にもシャナに伝えたようだ。
「最後になってごめんなさいね。これ、彼らの遺品と遺髪。時間がなかったから、これぐらいしか取れなかったの。両家に下げ渡してもらえるかしら」
逸脱した行為だったとはいえ、任務中に当事者は死亡している。一応、形としては殉職扱いになるそうで、皇帝からの見舞いがでるそうだ。その折にでも渡されるように、サキノアに手配を頼んだ。
「本当に、姫様とスミタマさんの二人が出張って正解だったと思います」
帰りの馬車の中でキナがぽつりと呟く。
確かに巧妙な相手だったと思うが、もう少し早く気が付いていればという悔いもまたある。ユリスにとってはクラスメイトの死でもあるのだから、受け取り方もより厳粛だ。ジュンシを除いてボクたち三人は冒険者でもある。それなりの力は持ってはいても、やはり目が曇ったり、逆に眩んだりしていては、大切なものを見逃してしまう。やはり、彼らの死を教訓とすべきなのだろう。
屋敷に戻ると、みんながサロンに集まって、ボクたちの帰りを待ってくれていた。
「今回は、特に手柄もなければ、落ち度もない。何にもなかったわよ。ただ報告に行っただけですもの」
身軽な服装に着替えたユリスは、今日は果実酒を飲みながらみんなに話をしている。
「それでキナ、最果ての深森では見つかってないのね」
ユリスが尋ねると、キナはいつものように、コクリと頷く。
「ただ、私とスミタマが調べた範囲は結構広くて、かなりの数いたのよね。それこそ、野ウサギの巣のような小さな穴にも潜伏していたほどにね」
全く同じ、とは言えないけれども、前に洞窟で倒した奴とそう大差ない外見だったような気がするんだ、溶解液なんかも吐いていたしね。ボクが付け加える。ワームには穴を掘る能力も備わっている。東部から西進してこない保障はどこにもないのだから、警戒を強めてもらうしかない。
「キナ、何かあったら必ず私に報告するように、勝手に動いちゃだめだからね」
早速にユリスからキナは釘をさされている。キナにしてみれば、一度やられそうになった相手だけに敵愾心もまたあるのは分かるのだが、ここはユリスの言う通りだろう。
「キナが襲われたマザーワームの何倍もの大きさだったんだ。地表に出てみると、その大きさが逆にピンとこないぐらいだったんだよ」
ボクの説明が信じられないのか、キナもランも首を傾げる。ボクも果実酒の入ったグラスを傾けながら、説明にも徐々に熱が入る。
「上空から見ると、ユリスなんてほんの豆粒ぐらいにしか見えなかったよ。あれで良く勝てたと思うよ」
今回はボクは見ていただけで、ユリス一人で片付けたと説明する。
「そんな話しはどうでもいいのよ、スミタマ。二人で行って、二人で帰ってきた。それでいいじゃない。それにしても……」
ユリスは果実酒を飲み干し、ボトルから自分でグラスに注ぐと話しを続ける。
「スミタマの腕にぐるぐる巻きにされた時にはどうなるかと思ったけれども、意外と心地良くてびっくりしたわ。機会があれば、貴方たちも飛ばせてもらうといいかもしれないわね。馬で行くよりも数倍は早いしね」
スミタマが領地の島まで一日で行きつくのも頷けるわ。ユリスの言葉に、みんなは興味を引かれたようで、何か用事がないかどうかを必死に考えているようだった。
「まあ、悪魔だけあって、人目に付かないように夜にしか飛べないのが難点ではあるけれどもね」
ユリスの言葉にボクは反論できない。一般的には悪魔も人と同じ姿形をしていると認識されているからだ。
「さて、今日はこんなところでお開きかしら? あら結構、飲んじゃったのね」
テーブルの上には数本のボトルが並び、ソファの足元にも瓶が立ててある。
「この果実酒、特上なのはいいけれども、飲み過ぎるのが難点ね。ついつい杯がすすんじゃうんだもの」
頬をかすかな桜色に染めたユリスは、それじゃあおやすみ、そう言うと部屋を出て行った。それに合わせるように、みんなが部屋へと引き取っていく。
部屋に戻ると、机の上に大き目の封書が置かれてあった。
中は見なくても分かる。ドリートからの報告書だ。好きにやってもいいと言っているのではあるけれども、性格なのか筆まめなのか、色々と報告をしてくれる。ボクが決済が必要なものは今のところなく、彼女の判断に間違いもない。任せていてこれほど安心できる存在もそうはいない。例えるならば、ジュンシの存在と似ているところがある。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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