第41話

 ギルドは世界各地に存在するが、街々にあるギルドはそれ自体は単体で運営されている民間の組織で、横のつながりで情報を共有している。そのためギルドの会員の証である印章を持っていれば、出入りは自由にできる。ただし、クラスや等級によって差別化されているギルドがほとんどだ。

 ギルドには様々な種類がある。例えば職人ギルド、商人ギルド、学術ギルドなどが有名なところだが、その中にあって最低最悪、もっとも品性下劣なギルドが冒険者ギルドと言われている。


 職人ギルドは各生産物によって、更にいくつかに分かれるが、多くが、頑ななまでに中世的徒弟制度にこだわっていて、ほとんどは紹介なければ入れない。逆にそのような閉鎖性が技術の精度を代々ごとに高め、さらに継承を確実にしている。名工と呼ばれる職人の作る生産物は、俗に銘入りと呼ばれ、同じ製品でも値段が三倍から四倍は違ってくるが、それだけに質も格段に良い。


 次に商人ギルドだが、これも扱う商品によって細かく分かれているが、それら分かれたギルドを束ねる総合ギルドを俗に商人ギルドと呼んでいる。ここは商人が主役だけあって開明的で、どのような商売をしている人でも会員になれる。ただし、会費が必要になるケースがほとんどだ。会員になれば情報の提供から、取引先や人材の紹介、商売の規模によっては融資などの相談にも応じてくれる。そして、商人ギルドのもっとも大きな特徴は、税の徴収という業務を国に代わって請け負っているケースが多い点だ。税の徴収権はいわば国家の大権。それを、代行しているのだから、それだけ不正や癒着の温床にもなりやすい。そのため国家は商人ギルドへの監査権を持っていて常に目を光らせている。ギルドの代表が役人である国も多い。本当か嘘かは知らないが、商人になりすまして、商売を行い、不正がないかをチェックしているスパイ的な役人もいるらしい。


 最後に、学術ギルドだが、これも様々な学問があり、細分化されている。有名なところで言うと武術や魔導術も学術ギルドのひとつに組み込まれている点だ。ほとんどが一年一度大きな学術研究発表会を行っており、自身の研究の成果を発表する場がある。これによって、程度や人材の差はあるものの、世界各地で研究成果が平均化される。帝国においては、大学院の全教員と図書館司書、担当行政府職員は学術ギルドへの加入が必須になっていて、これは各地によって異なり、全ての教育者が加入しなければならない国もある。画期的な研究成果や機密事項などに触れる可能性も高く、職人ギルドや商人ギルドなど他のギルドとの横の連携も必要なため、国が介入しているのだ。


 そしてボクたちが入ろうとしているギルドが、最も低俗な冒険者ギルドだ。

 冒険者というと聞こえはいいが、その実は、寄る辺のない根無し草であったり、街のゴロツキであったり、家を継げない農家の次男坊であったり、脱走した他国兵であったり、元盗賊なんて代物もいる。市民権すら持たない何も生み出さない徒食の集団、それが冒険者ギルドだ。

 中には、しっかりと街に根をおろし、依頼をこなして生計を立てている者もいるにはいるが、圧倒的に少数だ。依頼は様々とあるが、その日出される依頼は。簡単なものから埋まっていく。それで少額の報酬を得ては、酒代に消えていくその日暮らしの者がほとんどなのだ。ランク的にはEランクからDランクが大半を占め、厳しい依頼に当たると、そのまま逃げ出し戻ってこない者だって珍しくはない。冒険者ギルドに入るくらいなら、マフィアにでも就職したほうがマシと言われるほどに世間からの目は冷ややかな存在、それが冒険者ギルドの正体だ。


「ボクが知っているのはこの程度かな? どうだいユリス、お父様が反対なさるのももっともだとは思わないかい? 冒険者ギルドというのは、出来損ないで鼻つまみ者の吹き溜まりみたいなところなんだよ」


 ボクの話を聞きながら、少し考えている風情のユリスだったが、特に世間の評判などは気に留めない様子だ。


「少数でも、地に足を着けて、頑張っている冒険者もいるんでしょ? スミタマとなら大丈夫よ。心配しないで、約束はちゃんと守って、二人で一緒だから」


 何ともいつものユリスそのものだ。


「それじゃあ、どうだろう。時間もあるようだから、これから冒険者ギルドにでも行ってみようか?」


 ユリスを誘ったのだが、今日はダメだと断られてしまった。なんだか悪い予感がした。良い予感よりも、悪い予感は良く当たる。


「今日は、あなたを迎えた記念日よ。だから、ちょっとした饗宴を予定しているの。そんなに堅苦しいものじゃないから、正装である必要はないわ。あとでジュンシにでも見繕ってもらって」


 そういえば、ボクは制服のままだった。

 ままだが、制服以外の着替えはもっていない。それをユリスに告げ、制服のままでも構わないかと聞いてみると、


「部屋のクロゼット、見たでしょ? あの服は全部あなたのだから好きに着ればいいわよ。サイズはこの間と変わってないようだから、大丈夫よね? 胸の大きさもそのままのようだし」


 そんなに短期間に大きくなるはずはない。

 身体だってそうだ。でも、あのクロゼットに吊るされた服が全てボクのなんて、何がなんでも至れり尽くせり過ぎやしないか? 両手を胸にあてながら、それをユリスに問いただす。


「だって、あなた私が思っていたよりもずっと、何も持ってないんですもの。服の一着でもあるかとも思って、やり過ぎるのもなんだかおこがましいと思ってたぐらいなのよ、あれでも」


 全く答えになっていない。


「いや、あんな豪華で広い部屋に、備え付けの家具、それだけでも家賃に見合わない。その上に誂えられた服なんで分を過ぎていると言ってるんだ、ユリス」


 やっと言っている内容を理解したユリスだが、答えは全く裏腹なものだった。


「過分? 過分どころか、全く足らないのよスミタマ。何度も言ったでしょ? 貴方は私の同居人で扱いは一緒だって。最初だから、少し背伸びをしないといけないのよ。だからその背伸び分を私が足してあげただけ。いずれ何かの形で返してもらうから、今はそれでいいのよ」


 ボクはユリスの理屈に唸るしかなかった……。


【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】

https://kakuyomu.jp/works/16817139556934012206#reviews

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