第40話
扉を開けてみてボクは唖然としてしまった。
前の部屋の十倍ほどの広さがあり、天蓋付きのベッドがドンと置かれてある。床は深い青色のカーペットが敷かれ、テラスになった広い窓が四つも並んでいる。開かれたクロゼットには何着もの服が吊るされ、一番端に申し訳無さそうに、ボクの制服が並んでいた。
部屋にはベッド、クロゼットの他に、鏡台から、テーブルにイス。応接セットから書見台まで置かれているが、それでも空いているスペースの方がはるかに広い。書見台のテーブルには勉強道具の入ったボクの手提げ鞄が置いてある。鏡台の脇にはボクの小さい鞄が置かれてあるが、鏡台にはすでに新品の手回り品が置かれてあるため、中を開く必要はなさそうだ。
そして扉の脇には紐でくくられた布団セットが置かれてあり、ひどく場違いな印象だ。
「ベッドにはすでに新しい夜具をセットしてございますし、こちらのお布団一式はどうすればよろしいかとお伺いしたかったのですが、なかなかお見えにならなくて、お屋敷の中で迷子になられたか、散策にでもお出掛けになられたのかと、心配で心配で……」
ジュンシはホッとしたのか、一気にそこまで言うと、大きく深呼吸をしていた。
心配してくれたのは大変ありがたい。
しかし、部屋と部屋とを結ぶ控えの間を自分の部屋と勘違いして、あろうことかヨダレを垂らして眠ってしまったとは。しかも今まで使っていた布団のなんともくたびれた様子ときたら。何か一生の不覚というか、しばらくはユリスに笑われるに違いないと思うと何だか悔しくて仕方がない。
「ありがとう。そして申し訳なかったね、ジュンシ。これから色々面倒を掛けると思うけれどよろしくね」
ボクは手を差し出した。
ジュンシは差し出された手を掴んで良いものかどうか、分からない様子だったので、ボクは彼女の手を取って、握手を交わしながら、こんなボクなので、いつここを追い出されてもいいように、あの布団はどこかに保管しておいて欲しいとお願いした。
ボクたちの話し声が廊下に届いていたのか、部屋の扉がノックされた。
ボクが頷くとジュンシは扉の前まで行ってから、こちらを向いて、執事長様です、とボクに告げた。
特別に美人という訳ではなく、どちらかと言えば可愛らしいタイプの娘だが、挙動がテキパキしている上に、しゃべり方にも抑揚がありはきはきとしている。そこには育ちの良さと、ここでの生活で自分自身を磨いていきたいという向上心が加わって、一緒にいても苦にならない感じの良さがあった。
更にボクが頷くと、ジュンシは扉を開けて、執事長を迎え入れた。
「お二人ともこちらにおられましたか。いかがでしょうか、お嬢様? お部屋はお気に召していただけましたでしょうか? 何か不備や要望がございましたら、このジュンシか私めにお申し付けください」
執事長は深々と頭を下げる。
お遣いの方がお見えになりました。一階の南応接室にお待ち頂いております。ぜひお出ましを、と告げ下がっていった。
一階の南応接室と言われても、ボクには場所が分からない。
後で屋敷の地図をジュンシにでも書いてもらうとして、とりあえずはユリスにくっついて行くしかない。
くっついて行きながらボクは苦情を言う。
「ねぇユリス、やっぱりお嬢様っていうの、止めにしない? なんだか大げさな気がするんだけれど」
小声で聞いてみると、前だけを見てユリスは言った。
「ダメ! 絶対にダメ! 大丈夫よ、すぐに慣れるから」
あっさりきっぱりと却下されてしまった。
ボクたちが応接室へ入ると、二人の使者がお茶を飲みながら待っていた。
形式は大げさではないとはいえ、そこは皇帝陛下の使者である。ボクたちが、来訪の礼を述べると、立ち上がり、ボクたちにうやうやしくお辞儀をした。廷臣とはいえ、皇帝陛下の私臣であるため、地位はそれほど高くはない。
勅使ともなれば、高位の廷臣が派遣される場合もあるし、何と言っても皇帝陛下の代理人として、逆に仰々しくお迎えしなければならないが、オルガスの配慮もあって形式は省かれていたのには助かった。
二人の使者は、ユリスに一通、ボクには二通の書簡を手渡した。
書簡は皇家の紋章で封がしてある。ジュンシに手渡されたペーパーナイフで封を切り、中身を確認する。一通は冒険者ギルドSランクへの承認証書と、ボクが提出していた新紋章を許可する旨の通知書だった。ユリスに手渡された一通はもちろん冒険者ギルドへの証書だ。
「近日中に、冒険者ギルドにお出向きください、ギルド総長に証書を提出していただければ、Sランクの印章を受け取れます。ギルド総長へはすでに皇帝陛下の勅命が下っておりますので、何の心配もございません……。では、我々はこれにて失礼致します」
ボクたちは二人にさらに礼を言うと、玄関まで見送った。
「ご褒美ももらったし、引っ越しも終わったし、これで少しはゆっくりとできるね。と言いたいところだけれど、冒険者ギルドについて少し話をしておいたほうがいいかもしれない。話を聞いてそれでもSランクの印章がほしいのなら、一緒にもらいに行くとしようか、ユリス」
ボクはそう言ってユリスを誘った。
ボクが居眠りをしていた例の部屋に移動して、ソファに腰かけると、ジュンシに紅茶をお願いして、ボクは冒険者ギルドについて知っているあれこれを話し始めた。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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