第33話
ユリスが立ち去ると、ボクはまたしても多くの男性に誘われたが、ボクが手を取ったのはオルガスだった。
帝国でも指折りの貴賓であるオルガスも流石にユリスの父親だけあって、センスあふれる紳士だった。ユリスよりも相当背も高いため、まるで大人と子供のダンスみたいに見えたかもしれないが、その姿は、先程の驚きとは違った、微笑ましいものに見えたようだ。
「ミス・ミタマはいつダンスの練習をしたんだね? まるで優勝とこの祝勝会が分かっていたみたいな身のこなしじゃないかね」
オルガスが心底から褒めてくれたのは正直、嬉しかった。ただ、オルガスの最後の言葉を除いては。
「疲れているところ、引き続きになってしまって申し訳ないが、こういう行事は熱いうちにしてしまう方がいい。明日は、身内だけでの祝宴を予定しているので、ぜひ私の屋敷まで足を運んで欲しい。迎えの馬車をやるから」
オルガスがユリスとそっくりなウインクをしたのには少し笑ってしまい、ああそう言えば晩餐に招待されたら断るな、ともユリスに言われていたはずだったともボクは思い出した。
「ご招待ありがとうございます。ぜひお伺いいたします」
ボクが応えたのが昨日の夜の話だ。
そして、今日は昨日の明日。
つまり今夜も宴会が待っているのだ。
「今日はそんなに心配しなくてもいいわよ。ドレスに着替える必要もないし、私とスミタマ、それに両親と兄と兄嫁ぐらい。父の側室にも遠慮してもらってるから。だから口を閉じて、普通に座ってちょうだい」
ユリスも紅茶を注文してからスカートの裾を揃えて静かに座る。
「そうだユリス。昨日表彰式で、望みがあれば叶えてくれるって陛下は言ってたよね。君のお父さんにも相談したいんだけど、迷惑じゃないかな? ユリスはどうするの?」
普通に座り直し、ユリスと同じようにスカートの裾を直しながらボクは尋ねた。
「私は皇家なので、報奨は辞退するつもりなんだけど、一体何をおねだりするつもりなのかしら、スミタマは? まあ、何をもらうにせよ、お父様に打診するのはいい手ね、感触がつかめるものね。でも、スミタマは士爵の叙任も受けてるし、王宮へは自分で行かないとダメよ。そんなに心配しないの。私も一緒に行ってあげるから」
そうこうしているうちに執事長が、オルガス家から迎えの馬車が到着したと告げにやってきた。
一見普通で、地味とすら言える誂えであったが、さすがにそこはオルガス家差し向けの馬車だった。造りも丁寧な馬車は宝物を運ぶようにゆっくりと王宮へと向かう。皇弟でもあり、廷臣の中でも要人であるオルガスの私邸は、王宮内にある。
ユリスの屋敷も見事なものだが、その屋敷がとりあえず間に合わせで手をいれました、といえるほどの荘厳さと歴史の重さとをまとった造作だった。なんでも大昔の皇帝が離宮として建てたものの、使われなくなって久しかったため、皇弟であるオルガスに下賜されたらしい。
馬車から降りると、家宰や侍女以下、ずらりと並んでボクたちを出迎えてくれた。ユリスにとっては普通なのだろうが、やはり庶民感覚のボクはいちいち面食らってしまう。
そのあたりは肝が細いというか、得意な分野や教養がユリスに比べて著しく狭くて偏っているボクだ。
「ようこそお越し下さいました、ミスミ・ミタマ様。そして、おかえりなさいませ姫様」
そう言ったのは家政全般を取り仕切るオルガス家の家宰だ。
どことなくユリスの執事長と似ていると思ったが、後で聞くと、従兄にあたる人らしい。玄関をくぐるとホールにも侍女たちがズラリと並び一斉にお辞儀をする。一糸乱れぬその姿に、オルガス家の緩まない家風を感じさせる。隣を悠然と歩くユリスにボクは問い掛ける。
「君の戻る時もいつもこうなのかい?」
尋ねると、お客様が来るから、今日は一層丁重だけれども、だいたいこんな感じよ、と教えてくれた。
通された部屋は思ったほど広くはなく、控え目ながら瀟洒な、気分の良くなる部屋だった。
「スミタマをもてなすのに、少人数だと広間は変な感じになるだろうからって、わざわざこの部屋を造ったんだって。この間、招待するからって言ってからそう経ってないのに、ちょっと力みすぎじゃない? 私が帰って来る時には、そう特別な何かをしてくれる訳でもないのに……」
ユリスはちょっとむくれている。
それでも自分の両親がボクをユリスの友達として大事に思ってくれているのを感じて、新しい部屋を作ってくれただけに、ユリスも悪い気分はしていないようだ。
ボクとユリスが食卓に着くと、程なくオルガスとテンデルそして一組の男女が部屋へ入ってきた。その後ろには先程案内してくれた家宰とユリスの執事長、侍女数名が従うのみだ。ボクは立ち上がり、招待の礼を述べると、まあまあ、と手で制したオルガスが着席を促した。
「今日は私の招待に応じてくれて感謝するよ、ミス・ミタマ。そしておかえりユリス。しかし、昨夜のユリスとミス・ミタマには驚かされたよ。まるで前もって打ち合わせしたみたいだったじゃないか? 大会のために訓練所を見繕ったそうだが、練習していたのはダンスだったのかい?」
そう言いながらオルガスは一組の男女を紹介してくれた。
【拙い文章ですが、最後までお読みいただきありがとうございます。ちょっと堅めだけど、こういう小説嫌いじゃない、先がちょっとだけでも気になっちゃったという方、★評価とフォローを頂戴できればありがたいです。感想もお待ちしています。作品の参考にさせていただきます】
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