第3話 日課
「さて、朝食も済んだし、いつもの始めるけど、シェフィはどうする?」
「もちろん見てるわよ、飽きないもの」
ま、それはわかる。洗練され、極まった動きというのは美しい。自分の太刀筋や体術が極められていると、うぬぼれるわけではないが、僕の数少ない友人の動きはとても美しいものに見える。それこそいつまでも見ていられるほどに。
「大したものじゃないよ、僕のは」
「あの剣馬鹿とまともに渡り合うだけで十分でしょ、あの阿呆と剣1本でまともに打ち合えるのは国内でも五指に足りる。大陸全土で見ても二十人はいないはずよ」
「ジンと比べないでおくれ。どうやったって敵いっこないよ」
シェフィの言う剣馬鹿、もとい僕の数少ない友人ジン。彼はアダマス王国の守護を担う騎士団団長、本名はジン=アグラス。彼はアダマス王国の公爵家の次男として生まれたが、長男は病死。本来なら家督はジンが継ぐはずだったのを、彼は無理やり武者修行の旅へ出て行った。当時は確かジンが十歳とかだったかな。三人の年齢に関してはシェフィとジンが同い年。僕が一つ下。今は十八歳で僕が十七歳。帰ってきたのは約二年前。当時の騎士団団長に挑み、その実力を認めてもらえたそうだ。幼いころから剣一筋で鍛錬を重ねていて、国内にいたときの師匠は団長さんだったそう。「これで心置きなく引退できる」と言って後の全てをジンへ。前団長さんは若手の育成監督として今なお騎士団に所属しているそう。
「ま、あれで全力じゃないものね。なんせ『不滅剣デュランダル』に選ばれたんだから」
千年前、終焉戦争を終わらせし六英雄は自らの武具を封印した
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「デュランダルだけじゃない、全て見てみたいんだよ、なんせ六英雄がつかったんだから」
「まぁ、それは確かにそうね」
「さて、外で日課の訓練だ」
二人はそろって外に出た。天気は快晴、雲一つないとても心地いい天気。季節は既に春。日課の訓練さえ終われば外でお昼にするも良し。本を読むのも良し。どちらにせよ紅茶ははずせない。後で棚から滅多に手に入らない茶葉を出してシェフィと一緒に飲むとしよう。シェフィは既に魔法の訓練を始めているようだ。
「さて、僕も始めるか」
一呼吸おき、腰に下げている剣へ手をかける。音すら立てず抜き放ち、一閃。
近くの木から葉が舞い降りてきたが、二枚に別れ地に落ちる。だが切れ目は一直線ではなく微妙に斜めになっている。もちろんしっかりとみないとわからないくらい、ミスと言えないレベルで。だが、もしこれが戦場であれば別。このほんのわずかなズレが致命的な結果をうむ。命に危険が及んでもおかしくない。
「ちっ、この体たらくじゃ‥‥‥‥もう一度」
成さねばないならない、絶対の一閃。一刀のもとに相手を斬り伏せる絶対無慈悲の一撃。居合とすら歌われる剣を学び、生きる者にとっての奥義にして終着点。空の域とも呼ばれるその領域まで。この程度のことすらできないようではジンにすら追いつかない。鞘に戻し、もう一度構え、呼吸を整える。
「……すぅ……はぁ……」
「(……いつ見てもとても綺麗な太刀筋、ほんとにもう)」
「…………ふっ!」
もう一度同じように舞い降りてきた葉を狙う。今度こそ……鞘から気を荒立てずに、しかしながらも高速の一閃。太刀をぶれさせずに虚空に剣を抜く。以前ジンが言っていた。『剣や槍は体の一部。力を入れ過ぎても抜きすぎてもいけない。まずは一閃を極めること。この一閃が全てであり始まり』なんだって。もう一度二枚に斬れた葉を見る。どうやら先ほどよりかはまっすぐになっている。今日はこのくらいにしておくか。
「ふぅ、やっぱり汗はどうしてもかくね」
「いつ見ても見事としかいいようのないほどに綺麗ね」
「そんなことないけど、ありがとう。この後紅茶を入れるけど飲むかい?」
「えぇ、せっかくだもの、私もいただくわ」
「それじゃあ、汗を流してくるからキッチンの左上にある茶葉を出しておいてくれるかい?」
「左上ね、わかったわ」
そう言ってシェフィは先に家に入っていった。ん?こんな時間に誰だろう?こんなところにやってくるなんて。ここを知ってる人は限らけるけど。現れたのは……
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