第20話 魔物が多い?

 街を出た後は、皆で組手しながら移動をしていた。


 マリアには俺が剣しか教えられないってことで、結局剣を教えることになった。

 アークとドンガも俺と組手をしている。


 俺の師匠である、ダンテ師匠との修行で実践経験が大事だと思い知らされていた。

 だから教えられた通りに俺も教えることにした。


 西に移動して一週間経った辺りだろうか。

 街道沿いなのに魔物と遭遇することが多くなってきていた。


「ねぇ? なんで、街道沿いなのに魔物に遭遇するのかしら?」


 マリアが怪訝そうに聞いてくる。


「恐らくだけど、この周辺の地域で冒険者が機能してない……つまり……」


「つまり?」


「近くの街が潰れている可能性がある」


「えぇっ!? そんな事ある!?」


「魔物に潰されたか、別の何かの要因か……」


「行ってみるしか無いわね」


「そうだな。魔物を駆除しながら……エアバレット!」


 近くにいた大きめなゴブリンが魔素に変わる。


「これはホブゴブリンだな……まずいかも」


「何がまずいのよ?」


「辺りを警戒する下っ端がホブゴブリンだという事は、それより上のゴブリンが居るってことだ。もしかすると、キング……最悪エンペラーがいるかもしれない」


「えぇっ!? エンペラーってAランクよね?」


「そうだな。Sじゃないのが救いだがな」


 ホブゴブリンを追い掛けていたアークとドンガも戻ってきた。


「南に居たのは少し始末してきたよ」


「西に向かうほど多くなってるみたいなんだな」


「西か。ここで一旦休憩にして、進んでみよう」


 少しの休息を終えると菱形の形で進む。

 先頭にクーヤ、右にアーク、左にドンガ、後ろにマリアとういう順番である。


「先程ホブゴブリンを始末したのを見られたかもな。囲まれてる」


「ホントだ。段々と狭めてきたんだね。今は逃げ場がないね」


「これで確信した。この統率は、キングが確実にいる」


「クーヤ、どうする?」


「そんなの決まってるだろ? 押し通るんだよ! エアバレット拡散!」


 細かいエアバレットが飛んでいき、広範囲にばら撒かれる。


 少し動きの鈍ったホブゴブリン達をアークとドンガが打つ。


「それっ!」


「シールドバッシュなんだな!」


 アークはレイピアで急所を突き、ドンガは凹凸のある大盾をホブゴブリンに叩きつけて吹き飛ばしている。


「二人ともナイスだ!」


「りゃあぁぁー!」


ズバンッ


 ホブゴブリンが真っ二つ。

 マリアの持っているのは大剣なのだが、魔法で加工されており、持つと軽く感じるのだ。


 十悪会の根城から出てきたものなのだが、モーリーが持って行っていいと言うので譲ってもらったのだった。


 この剣を見たマリアは自分が欲しい!と猛アピール。根負けしたというわけだ。


「ふふんっ! どんなもんよ! 私の剣捌き!」


「もう少しコンパクトに振らないと隙が大きいから気をつけろよ?」


「ふんっ! 分かったわよ!」


 包囲網は抜けたがまだ十数体は残っている。

 ホブゴブリンはそれぞれ武器を持ち、皮の防具を来ていて装備が充実している。


 なんでこんなに装備を手に入れられるんだ?

 そんだけ冒険者達が犠牲になってるって言うのか?


 双方見合って膠着状態である。

 ここで仕掛ける。

 チラッと視線をそらす。


「グゲゲゲッ!」


 ワザと視線を逸らして見ていないふりをする。

 そうする事で隙ができたと思い、飛び込んでくるのだ。


 左からの振り下ろしを最小限の動きで避ける。

 通り過ぎながら胴を切り裂いて上下をお別れさせる。


「ミスト!」


「行くんだな! アースクエイク!」


 盾を地面に突き刺す。

 するとその地点から10メートルほどが揺れ、地割れが起きる。


「グゲッ! ゲゲゲッ!」


 地割れに巻き込まれ数体が魔素に変わる。


「ドンガ! 出来たじゃねぇか! その魔法!」


「出来たんだな! やったんだな!」


 最近練習していた魔法で、地震属性ならもしかして地割れができるかもと思い付いたのだ。


 そこで、ドンガに地震とは激しく揺れて地面も割れるんだというイメージを植え付けたのだ。

 その結果できた魔法である。


 この世界はイメージ次第での魔法が変わる。

 それを俺は発見した。

 だから、この世界ではイメージが出来ればできない事はない!……と、思う。


「私だってぇ! はぁぁ!」


ズバババンッ


 三体を一気に切り飛ばした。

 ココ最近の組手で一番実力を発揮し始めたのはマリアだろう。


 まぁ、剣のおかげの所が大きい部分はあるが、それでも一からここまで剣を振れるようになったのは凄いことだろう。


「とりあえず片付いたな」


「この先は凄そうだね。僕とドンガが前に出るよ」


「あぁ。頼んだ」


 話し合いをしてからというもの、アークとドンガは前に出たがるのだ。

 でも、口だけではない。きっちりと仕事をこなすので助かっている。


「ドンガお願い!」


「シールドクエイク!」


ズゥゥゥゥゥンッッ

 

 突進してきた一体のホブゴブリンを倒す。


「そこっ!」


 魔物のコアが人間の心臓部分にあるので、そこを一突きする。


「私にも残しておいてよぉ」


 マリアがグチをこぼしている。

 バトルジャンキーになってしまいそうだ。


「ソナー」

 

 探索の魔法で周りを探る。すると、前から何やら群れが来る。


「おい! 前から来るぞ! 出鼻をくじく! エアボム!」


ズゥゥゥゥンンンッッ


 空気の爆発に何体か巻き込まれる。


「オデだって! アースクエイク!」


ゴゴゴゴゴッ


 地割れにも数体巻き込まれる。


「はぁぁぁぁ! 乱れ突きぃぃぃ」


ザクザクザクザクッ


 レイピアによる乱れ突きである。

 急所をつかれた魔物は魔素に変わっていく。


「いっくよぉ! 一閃!」


ズバァァァァンンンッッ

 

 マリアの横への切り払いが炸裂する。


 前面にいたホブゴブリンを倒す。


 すると、奥の方に見えたのは一際大きなゴブリン。


「巣が近いのか? でも、直々に出てくるなんて……やっぱりエンペラーがいるのか?」


「クーヤ? どうしたの?」


 アークが心配そうに顔を覗き込んでくる。


「見ろ。あれがゴブリンキングだ」


「えっ!?」


「えっ!? なに!? キングがいるの?」


「キングってなんなんだな!?」


 皆口々に驚きの声をあげる。


 クイッと顎で指し示す。


「あれが……」


「あれがキングなのね……」


「大きいんだな」


「あぁ。まぁでも、キングはどうって事ない。問題はエンペラーだなぁ。エンペラーは賢いんだよなぁ。めんどくせぇ」


「エンペラーと戦ったことあるの?」


「俺は、あの修行を忘れないよ……数々の魔物を相手にしたあの時を……」


 遠くを見て過去を思い出していると。


「なんか進んできてるよ!」


 アークが慌てたように言う。


「キングが仕掛けてきたな。俺達も突っ込むぞ」


「私が道を開けるわ!」


 マリアが突っ込んでいく。


「ちょっ!……あぁ。作戦もクソもねぇ」


「クーヤ、マリアはずっと前線に立ちたかったんだ。大目に見てあげてよ」


「オデもサポートに行くんだな!」


 ドンガも後を追って駆けていく。


「おりゃゃゃゃー!」


ズバァァンッズバァァンッ


 右へ左へと滅多切りしている。

 剣の特性がなきゃできない事だろう。


 ドンガが後ろから来るホブゴブリンを吹き飛ばしている。


「俺らも行こう。薄いミストを頼む。全体的にな。アーク、やってやれ」


「うん。わかった! 薄めミスト!」


 ホブゴブリン全体を覆うように薄い霧がかかる。薄いものでも近くしか見えなくなる。


 こちらからはキングは見えない。

 キングからもこちらは見えていないだろう。


 さて、俺も行こうか。


「ミニエアボム」


 足裏でボンッと爆発させて推進力にし、マリアとドンガが開けてくれた道を突き進む。


 霧を抜ける。


 キングが見えた。


「オラァァァ!」


 跳躍し、上からの打ち下ろしを放つ。


ギィィィンッ


 ガードされる。


 しかし、それで良い。


「フッ!」


 ハイキックを放つ。


ズンッ


 受け止められる。

 今度は逆に鉈のような物が打ち下ろされる。


 バックステップで避ける。

 剣を構えてキングと正面から見合う。


グサッ


「グゲゲェェ!?……ゲッ…………」


 キングが魔素に変わる。


「アーク、良くやったな!」


「僕、キング倒したよ!? 凄くない!?」


「あぁ。すげぇ。よくあの一瞬で決めたな?」


「でしょでしょぉ!」


 キングの意識を俺に向けておく。その隙にアークがトドメを刺す。

 それが今回の作戦だった。


 俺一人でも大丈夫だったけど、この前のことで学んだからな。

 みんなで勝たないと。


 マリアとドンガも残りのホブゴブリンを倒して合流した。

 先の街がかなり怪しい。

 慎重に進まないとな。

 魔物達が北方向へと四人は進む。


◇◆◇


 とある部屋。


コンコンッ


「何でしょう?」


 入ってきたのはゴブリンキング。


「グゴ! ゴギゲギギグゲガ、ギギガギガ」


「そうですか。わかりました」


 返事をしたのは人間に形は似ているが顔がゴブリンで、シュッとしたゴブリンと言った感じの容姿の魔物。


「どうした?」


 聞いた男は無精髭を生やして顔に傷がある、いかにも悪そうな男。


「いえね、キングが一体やられたそうです。そのパーティはここに向かってきているとか」


「そうか。やれるか?」


「お任せあれ。私達の力をお見せしましょう」


 怪しい二人。

 なぜ魔物と……人間が?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る