第19話 別れ
「んあぁあぁぁぁー」
ベッドで手を天に伸ばし目一杯身体を伸ばす。
昨日十悪会の大人数を相手にした後はゆっくり休んでいたのであった。
部屋を出ると、皆も出てきたところだった。
「皆、休めたか?」
「僕はぐーっすり寝たよ」
「オデは寝足りないんだな……ふあぁぁ」
「私はもう充分。お腹がすいたわ」
「飯にするか」
宿屋の一角にある食堂で朝ご飯を食べることにした。
「おばちゃーん! こっちにご飯ちょうだーい!」
「はいはい! ちょっと待ってな!」
おばちゃんも忙しそうだ。
パンとスープを持ってあっちに行ったりこっちに行ったりしている。
ここにも小走りで運んできてくれた。
「はいよ。お待ちどうさま」
「ありがと。忙しそうだね?」
「ここんとここの街がいい街になったからねぇ。だから、人が来るんだよ。前までは金の亡者しか泊まってくれなくてねぇ。そういう街だったから」
「そうだよなぁ。自警団もできたでしょ?」
「そうさ! 喧嘩とかね、私達が絡まれてたりすると駆けつけてきて注意してくれるのさ! 本当に助かってるよ!」
「はははっ。そいつはよかった!」
モーリー達がやってる事はホントにすげぇ事だなぁ。
街の人達がこんなに笑顔になる。
俺はこの国のみんなが笑っていられたらいいのになぁって思うんだよな。
けど、十悪会っつうどうしようもねぇヤツらがのさばってる。
関わった以上放っておけねぇ。
何とかしないとな。
「クーヤ、食べないのぉ? 美味しいよ?」
マリアが顔を覗き込んできた。
「おっ、おう。ちょっと考え事してた」
「難しい顔してたけど大丈夫? クーヤは変に色々考えるからなぁ」
「そうそう。僕みたいに行き当たりばったり生きればいいのに!」
「それでこの前お金取られて大変だったんでしょうが! 反省しなさい!」
マリアにお説教されて叩かれるアーク。
「オデも考えるの苦手なんだな」
ドンガもアークの話に共感している。
「あんた達は考えなさすぎるのよ! 少しは考えて行動しなさいよね!」
「わ、わかったよ。僕なりに考えるよ」
「オ、オデも、オデなりに考えるんだな」
二人とも、それはちゃんと考えられるのか?
非常に疑問なんだが……。
「はぁぁ。まぁ、あんた達は仕方ないわ。昔っからだから」
マリアの今までの苦労が目に浮かぶようだ。
スープにパンを浸して食べる。
「うん。美味い」
出汁の効いたスープだ。
この辺ではこんなスープない。
出汁を摂ることをしないからだ。
「おばちゃん。このスープ凄く美味いよ。どうやって作ってるの?」
「それを言ったら私が食っていけなくなるだろう?」
「そうだよな。すまん」
「いいよ。美味しいって言ってくれて嬉しいさ。ありがとさん」
ニッコリ微笑むとまた調理場に入っていった。
苦労して考えた末に行き着いたスープなんだろうなぁ。
いや、美味いわ。
「このスープも、またこの街に来るまで食えないなぁ」
「もう街を出るの?」
マリアが寂しそうに聞いてきた。
いい人達ばっかりでマリアも寂しいよな。
仲良くなった人もいるみたいだから。
三人にそれぞれ目を合わせる
「そうだ。俺達は十悪会に狙われているというのもあるが、平和な国にするには十悪会を潰さないといけない。それは俺達にしかできないと思っているんだ」
「どうしたの? なんか急に力入ってない?」
マリアが怪訝な顔で聞いてきた。
「あぁ。モーリーを見てたらな。俺も皆を笑顔にしたいなって思ってきた!」
「あはは! クーヤが熱血なんて珍しいじゃん!」
アークがバカにするように笑う。
「オデも、クーヤじゃないとできない事だと思うんだな! できると思うんだな!」
ドンガが真剣に言うとアークも真剣な顔になる。
「僕も、クーヤなら出来ると思うよ……でも、それには僕達は、足でまといじゃないかな?」
「なんだと!?」
ダンッ!
テーブルを叩く音が響いた。
「アーク! 自分が足でまといなんてそんなこと思ってたのか!?」
アークを怒鳴りつける。
すると。
「実は……オデもそう思ってたんだな」
「私もよ」
驚きのあまり目を見開く。
「みんな俺の足でまといだと、そんなこと思ってたのか!?」
「そうよ。私達は守られるだけ」
「僕はずっとそう思ってるよ」
「オデも結構前から思ってたんだな」
「そりゃないぜ! 俺はアークとドンガに背中を任せて、マリアに回復してもらえる! いいパーティだと思ってるけど!? お前らは違うのか!?」
「私は……」
「僕は……」
「オデは……」
「もういい」
立ち上がって宿を出ていく。
なんなんだよ!
せっかくいいパーティーだと思ってたのによぉ!
そう思ってたのは俺だけだったっていうのかよ!
くそっ!
肩を怒らせて歩いていく。
気がつくと、昨日見た家であった。
コンコンコンッ
「はぁーい」
女性の声で返事が聞こえる。
ガチャッと扉を開けるとちょっと待ってて、と声をかけると奥に消えていく。
大きな影が姿を現した。
「おぉ。クーヤじゃねぇか。どうしたんだ? そんな怖い顔してぇ」
顔を表したのはモーリーであった。
「それがよぉ────」
さっきあった出来事をモーリーに話す。
すると、笑いだした。
「アッハッハッハッ! お前達、仲がいいな! そんな事で言い合いしてバカみてぇ! ハッハッハッ!」
なんでそんなに笑われるか全然わかんねぇ。
俺が何かダメだったのか?
「そりゃ、クーヤぐらい強ければ周りのヤツは不安さ。しかも、背中守らせてんだろ? 自分達はそんなに強くねぇとそう思ってんじゃねぇか? だから、不安になる」
「あいつらは強いんだよ! それぞれ武器になるものがあるんだから!」
「お前が強すぎるからだろうよ」
「はぁ!?」
「あいつらは強さの基準がお前になってるから、自分が強いって自覚できないんだろうな。それはお前とずっと戦ってきて一番近い所でお前の強さを間近にみてた弊害みたいな感じじゃねぇか?」
少し考えてみる。
今までも背中任せることはあったが、前に出てたのは俺だ。
俺が暴れ回って後ろに逃がした敵を倒して貰ってた。
マリアも守ってもらってた。
俺はその形がいいんだと思ってた。
それは、俺が思ってたことだ。
アークは、ドンガは、マリアはどう思ってたのか。
あいつらがどうしたいか聞いたことがあったか?
ない。
今まで、俺がこうした方がいいと勝手に思って行動してきてた。
……自分勝手なのは俺の方だったのか。
「俺はいつも背中にあいつらを背負って戦ってた。それが一番いいと勝手に思ってた」
「あぁ。それがよくなかったんじゃねぇのか? それじゃあ、アーク達は自分が重荷になってると思うわな」
「そうだよな。一回、ちゃんと話し合わねぇとな」
「あぁ。それがいい」
「有難う。また来る」
モーリーの家を後にして宿に駆けて行く。
まだテーブルに座ったまま暗い顔をしていた。
「みんな、俺……今まで勝手に自分の好きなようにやってきて、すまなかった! モーリーに話聞いてもらって、初めて自分の独りよがりだったって気付いた!」
頭を深々と下げる。
「僕も今まで言えなかったんだけど、守られるだけじゃ嫌なんだ……前でクーヤと戦いたい」
「オデも、もっと一緒に戦いたいんだな。クーヤは、一人でも戦えるかもしれないんだな。でも、オデは、オデ達は並んで戦いたいんだな!」
「私も守られてるだけじゃ、いや! 何か戦えるようにクーヤが考えてよ!」
「おれが!? うーん。何がいいかなぁ……じゃあさ────」
しばらくの間、四人での議論が続くのであった。
◇◆◇
「行くのか?」
「あぁ。十悪会は俺達が壊滅させる」
「はははっ! 俺とは言うことが違うな。頼んだぞ」
ガッチリ握手を交わす。
「仲間とは仲直り出来たのか?」
「あぁ。前以上に仲が深まった。モーリーのおかだ。ありがとな」
「ならよかったぜ。必ず、また来いよ?」
「あぁ」
ハグで称え合う。
横を見ると皆それぞれ街の人との別れを惜しんでいるようだ。
街の門に四人で並ぶ。
「じゃあな! また必ず来る!」
「絶対くるからねぇ!」
「また戻ってくるんだな!」
「私達を忘れないでねぇ!」
手を振りながら叫ぶ。
「「「行ってらっしゃい!」」」
「またな!」
「くたばんなよ!」
「絶対、また来いよ!」
街が見えなくなるまで手を振り続けたのであった。
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