第17話 クーデター

「「「オオオォォォォォォオオオォォォ」」」


 スラム街の男達が押し寄せてくる。


 屈強な男達とスラムの男達が激突する。


「エアバレット」


 屈強な男達と黒い影の男に魔法をばら撒く。

 何人か倒れるが黒い影のやつは生きているようだ。


 突如モーリーの横に黒い影が現れる。


ドンッッ


 咄嗟に足の裏の空気を爆発させて駆け付ける。


キィィィンッ


 毒入りの針を剣で弾き飛ばす。


「クーヤ! 悪い!」


「いいから、行け!」


 モーリー達は駆けていく。


「おい。お前の相手は俺だ。余所見すんな」


 剣を振り下ろすと、腕で受け止めた。


ギィィィンッ


 ただ腕で受け止めた音じゃない。

 何か仕込まれているとしか思えないような音がしている。


 すると、黒い影がハイキックを放ってきた。

 受け止めようとするが何かがキラッと光った。


 咄嗟にバックステップで避ける。

 よく見るとつま先からナイフが出ている。


 モーリー達が意味もわからずやられた意味がわかったわ。

 コイツ、暗器使いに近い感じか。

 あれにも毒塗ってんだろうな。


 攻撃を受け止めるのは危険だ。

 回避する方向で動こう。


 黒い影の蹴った後の硬直を狙って再び、肉薄する。


「フッ!」


 切り上げの一撃を放つ。


ギィィィンッ


 また弾かれた。

 しかし、今度は上がった剣を再び振り下ろす。

 ここで賭けに出た。


「バイブレーション」


 剣を振動させ高周波ブレードの効果を発揮させる。

 そして、渾身の一撃を放つ。


「オラァァァ!」


ズバッッッッ


 黒い影が縦に真っ二つになった。


 手応えはあったぞ。

 斬ったはずだ。


 黒いローブは真ん中からパックリと切れて風で飛んでいく。


 その中の姿があらわになった。


 細い身体には鎖帷子が全身に巻かれ。

 胴回りにはナイフが何本も収納されている。

 腕には針が収納され、脚にもナイフが仕込まれていた。


 その腕が一本無くなり血を流している。


「なんなんだその剣は?」


 初めて口を開いた。

 不機嫌そうに聞いてくる。


バリィィィィンッッ


 剣が砕け散った。

 残ったのは持ち手の部分だけ。

 それは捨てて予備の剣を出す。


「ただの剣だ」


「ふっ。ただの剣で俺様の装備を切り裂くなんて有り得ないだろう」


「脆くなってたんじゃねぇのか?」


「それは有り得ない。何かカラクリがあるようだな?」


「さてね」


「俺様にこんな負傷をさせたものは初めてだ。名は?」


「クーヤだ。そういうあんたは、十悪会だろう?」


「そうだ。俺様は十悪会、十悪の一人。ベガだ」


「ベガ? お前、俺達に刺客送っただろ!?」


「ん? なんのことかわからん」


「コーザってやつを倒したら十悪会のやつらに襲われたんだよ!」


「……あぁっ! 俺様は子分が何人かいてな。コーザは一番の下っ端だったから忘れておったわ」


「ふざけやがってぇ。お前が居なくなれば十悪会からは狙われなくなるな」


「はははっ! それは無理だな。片腕でも負けんよ」


 いつの間にかベガの腕の血は止まっていた。


 これは……。

 時間稼ぎされたか?


「話は終わりだ。続きを始めよう! そらっ!」


 キラキラッと光る物が飛んでくる。


キキキンッキキンッ


 全て剣で叩き落とす。


「まだまだ!」


 再び投げてきた。

 当たる物だけ弾き飛ばす。


「ほらほら!」


 何本持ってんだよ!

 また当たる物だけ───


「余所見してていいのか?」


 ナイフがすぐ目の先にあった。


「うおっ!」


 後ろに仰け反って避ける。

 そのままの勢いでベガを下から蹴りあげバク転する。


「へぇ。やるねぇ。でも、避けきれなかったな?」


 なに!?


 身体を確認する。

 アドレナリンが出ているからか痛みを感じない。

 左腕に赤い筋が走っていた。

 ジワジワと紫色になって来ている。


 クソッ!

 針が掠めたんだな。

 毒が回ってる。


「毒が回りきる前に決める!」


「はっはぁ! できるかなぁ?」


「エアバレット」


 ベガが振り払うように魔法をかき消す。

 やはり、何か装備品に魔法を無効にする効果があるようだ。


「エアボム!」


ドガァァァァァァンッ


「エアウォーク」


 宙に舞う。

 ベガを上から襲う。


 砂埃が少し晴れ、影が見えた。


「そこだ! バイブレーション!」


 高周波ブレードを起動させて切りかかる。


「おおぉぉぉ!」


 上空からの打ち下ろしを放つ。


ズバァァァァァァンッッッ


 地面も切り裂き。

 剣が地面に埋まる。


「はははっ! それは囮だ!」


 横からナイフが迫る。

 冷静に剣をはなし、身体を沈める。

 くるっと横に回ってベガに肉薄する。


「震脚(しんきゃく)」


ズゥゥゥゥゥンッッ


 ベガのボディに蹴りが突き刺さる。


「グフッ」


 口から血をこぼす。

 が、ナイフを振り下ろしてきた。


ザクッ


 何とか左手でガードしたが。

 まともに攻撃を受けてしまった。

 毒が回る。


クラッ


「ぐっ! 毒が回ってきたか」


「グフッ! ハッハッハッ! これでお前も終わりだな!」


 まだ立っているベガ。

 血を流してはいるが倒れてはいない。


「お前はここで終わらせる」


 フラつきながらも再び向かい合う。


「俺様は負けない」


 手を開きかかって来いという意思表示をしている。


「エアボム!」


 足の裏で空気を爆発させて踏み込み肉薄する。


 全ての勢いを乗せて掌底を放つ。


「震掌(しんしょう)」


ズゥゥゥゥゥゥンンンッッッ


「グフゥゥゥッ」


 身体中から血が吹き出す。

 手を開いたまま倒れていく。


 そう。

 動かなかったのだ。

 なぜ動かなかったのかはわからない。

 もしくは動けなかったのか。


 ベガは俺の攻撃をモロにうけ、息絶えた。

 しかし、まだ戦いは終わっていない。


 周りを見ると乱戦になっている。

 ドンガが盾になりチクチクとアークが攻撃しながらマリアを守っている。


「みんな聞けぇぇぇぇ! 十悪会のベガはぁぁ! この俺が討ち取ったぁぁぁあああ!」


「「「ウォォオオォォ!」」」


 スラムの皆が士気を高めていく。

 十悪会を飲み込み始めた。


 これで……勝利……でき……る。


「クーヤァァァァ!」


 悲鳴のようなマリアの声が聞こえた。


 視界が暗転する。


◇◆◇


 身体がいてぇ。


 あー。毒回ってたんだったわ。


 目を開くと知らない天井だった。


「あれ? 生きてた?」


 ガチャと扉が開く。


「あっ! クーヤが起きた!」


 アークがすぐに出てどこかに行った。

 しばらくすると、戻ってきた。


「クーヤ! 大丈夫!?」


「んー? 身体中痛てぇ」


「そりゃそうよ! なんで毒を受けたのにすぐに私のところに来ないの!?」


「いや、ベガとの決着を付けなきゃならなかったから……」


「一回回復してからにすればよかったでしょう!?」


「あっ、あぁ。まぁ、助かったからよかったよな!」


 ベシッと頭を叩かれる。


「いてっ!」


「凄い危ない状態だったのよ!? 全身に毒が回ってて、どうにか毒は抜けたけど、三日も起きなかったんだからね!」


「えっ!? そんなに寝てたのか!?」


「そうよ! 心配したんだから!」


 目に涙を浮かべて手を握りしめている。


 そんな顔すんなよ。

 俺が悪かったよ。


「……そうだよな。悪かったよ……」


「もう。無茶しないで……」


「それはわかんないけどな。頑張るよ」


「もう!」


「…………なんだ…………きた!」


「おい!…………達に…………ろ!」


 何やら外が騒がしい。


「なんか騒がしくねぇか?」


「何かあったのかしら?」


 ガチャと扉が開く。


「おう! クーヤ起きたのか! 十悪会の奴らが街に報復に押しかけてきてる!」


 まだ、この街での戦いは終わっていなかった。

 

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