第16話 作戦決行

「あぁ! また負けた。もっと一発デカいの当てたい!」


 本心なのか演技なのかアークが地団駄を踏んで叫んでいる。

 この前負けた男の元に再びやってきたのだ。


「もっと稼げるところかぁ」


 男はそう口にしながら俺達を眺め、マリアを舐めるように見た。


「うん。いいかもしれないな。紹介しようか?」


「ホントに!? やった!」


「お仲間さんも付いてくるだろ?」


「あぁ。心配だからな」


「その方がいい!」


 男はそう言うと立ち上がって街の中心部に向かって歩き出した。


「なぁ。紹介ってのは結構するもんなのか? 俺達みたいな二回遊んだだけのやつを紹介するなんて、いいのか?」


「大きい勝負をしたいって人には誰でも紹介できることになってるんだ」


「そうなのか」


「さっ、ここだ。ちょっと待っててくれ」


 建物の入口から少し離れたところに俺達を立たせて何やら少し奥に男だけが向かう。

 何やら中の人と話しているようだ。


 視線を感じる気がする。

 誰かが見てる?

 ここからもう監視されるんだな。


「お前らー。入っていいってよ。俺はここまでだから先にはお前らだけで行ってくれ。じゃあな」


 手を振ると去っていく男。


「君達かな? 大きい賭けをしたいと言うのは?」


 怪しいスーツを着た男が立っていた。


「はい! 僕は一気に稼ぎたいんだ!」


「なるほど、わかりました。では、奥へどうぞ。お仲間さんも……あっ! 武器類はこちらでお預かりします」


 武器を預かるのは聞いてねぇぞ。

 まぁ、武器がなくてもやりようはあるか。

 

 それぞれが武器を預ける。


「オデの盾もなんだな?」


「そうですね。一応盾もお願いします」


「盾でもだめなんだな?」


「ドンガ、置いていけ」


「むー。分かったんだな」


 本当は万が一の時に盾で凌いで俺が攻撃ってかんじに話してたんだけどなぁ。

 何とかドンガには、素手で頑張ってもらうしかないか。


「では、奥へどうぞ」


 奥に案内される。

 厳重な扉を抜けた先には何台ものテーブルがあり、賭博を行っている者達がいる。


 コイツらも巻き込むかもな。

 まぁ、しょうがねぇか。


「こちらのお席にどうぞ」


 アークが案内された席に座る。


「よーっし! 大金稼ぐぞぉ!」


 演技なのか素なのか楽しそうに意気込んでいる。


「では、ゴールドジャックで勝負しましょう」


 ブラックジャックじゃねぇんだ。

 なんでゴールド?


「では、賭けるゴールドを出してください」


 ゴールドからしか賭けれねぇのか。

 だから、ゴールドジャックか。


「一ま────」


「大きな賭けをしたいんですよね? まずは、勝ったら倍の額になります」


「よしっ! まずは、五枚だ!」


「では、始めます」


 二枚のカードが配られる。

 配られたカードは八と九。


 中々いいカードだ。


「僕は、勝負する!」


 普通なら二枚の合計を二十にするこのゲームでは強いカードだろう。


「私もこのままでいいです」


 自分のカードを表にする。


「おぉ。いきなり強いですね……。私の負けですね」


 そう言って出したのは、一と五であった。

 一は十一としても使える。

 数字としては十六である。


「やった! 十ゴールドもらい!」


「はははっ。お強いですね。次は更に倍で四倍にしましょうか。ただし、負けたら倍の額貰いますよ?」


「いいねぇ!」


「アーク?」


「大丈夫だって!」


 一応止める演技をと思って声を掛けたけど、これは本格的にのめり込んでるな。

 アークのやつすっかり作戦忘れてるんじゃないか?


「次は十枚だ!」


 流石に負けた場合の二十ゴールドなんて持ってない。

 後には引けなくなった。

 作戦通りやるのみ。


「良いですね! では、配ります」


 配られたカードは二と五。


「もう一枚! こい!」


 来たカードは、六。


「んーーー。もう一枚!」


 来たカードは、七。


「よっしゃ! 勝負!」


 カードを表にする。

 こっちはゴールドジャック。

 二十だ。


「おぉ。お強い。でも……」


 相手のカードは一と九でゴールドジャック。


「はははっ。引き分けですね」


「なっ!? くっそぉ! 勝てると思ったのに!」


「強いですねぇ。どうします? 配当金を更に上げて掛け金含めての十倍にしましょうか? ただし、負けた場合も掛け金含めての十倍の額頂きます」


「はははっ! そうこなくっちゃ! 十枚賭けるよ!」


 おいおい。

 負けたら借金地獄だな。


「良いですね! 楽しくなってきましたね!」


 カードをきり、配る。


 配られたカードは、一と二。


「もう一枚だ! こい!」


 配られたカードは、六。


「ぐぁぁぁぁ! 惜しい!」


 アークが騒いでいるのをニコニコしてみているディーラーの男。

 手元を見ていると何やらゴソゴソしている。


 おいおい。

 イカサマがお粗末すぎるだろ。


「よっし! 勝負だ!」


 アークが勝負を決めた。

 カードを表にする。

 こちらは十九。


 ディーラーが表にしたのは一と九。


「はぁぁぁぁ!? そんなことあるぅぅ!?」


「はははっ。運が良かったです。では、百ゴールド頂きます」


「えっ?…………い」


「聞こえませんでしたよ?」


「百ゴールドなんてない!」


 すると先程までニコニコしていたディーラーが鬼の形相で怒鳴り散らしてきた。


「テメェ、ないなんて通用すると思ってんのか!? 出せるもん全部出せ! そして、そこの女も置いていけ!」


「えっ?……マ、マリアは置いていけない!」


「おい。あんた、イカサマしただろ?」


「なっ! なんだと!? いいがかりだ!」


 腕を掴み捻りあげる。


「な、なにをする!? いでででっ」


 袖元から一と九のカードが大量に出てきた。


「ほら。ここから出していつでも勝てるって訳だ。そうやって皆からも金を巻き上げてたんだろう?」


「だったら何だ!? おい! コイツら捕らえろ!」


 周りの屈強な男達が取り押さえにやってくる。


「エアバレット」


「ぐぁぁぁ!」


「ドンガ、来たやつは片っ端から倒せ!」


「分かったんだな!」


「エアバレット!」


 男達と壁に無数の穴を空けていく。


 横から男が襲いかかってくる。


「させないんだな!」


 ドンガが巨体を活かして組み合う。


「アームクエイクなんだな!」


 男の身体に拳を叩きつける。

 すると、身体が痙攣して倒れた。

 地震の振動を腕から伝えたのだ。


「よくやったドンガ! 出るぞ!」


 入口から出ようとすると、奥の方から黒い影が姿を現した。

 こちらにゆっくりと歩いてくる。


「エアバレット」


 空気弾を放つが、ヒラヒラと避けられる。


 カジノ部屋から出て装備品を取り出して装着する。

 装備品の管理の男は逃げたようだ。


「もう少しだ! 出るぞ!」


 建物から出た。

 下がりながら入口を警戒する。


 何かがキラッと光った。

 咄嗟に頭を傾ける。


「がぁぁぁ!」


 後ろにたまたまいた通行人に針が刺さっている。


 苦しんでもがいている。

 そこにマリアが駆け付ける。


「痛いの痛いの飛んで行けー!」


 身体が光を放つが、苦しんだままだ。

 いつものやり方では毒には効かないようだ。


「苦しいの嫌! 苦しいの飛んでって!」


 倒れた人の手を握り、祈る。

 すると、いつもと違う色に光を放つ。

 いつもは緑色なのだが、今回のは紫色であった。


 男は、正常に戻ったようで寝息を立てている。


「よかった」


 ホッとしているマリアだが、正面からは屈強な男達が大勢と黒い影が迫っていた。


「奴が外に出た! 合図するぞ! エアボム!」


ドガァァァァァァンッッ


 空で爆発が起きる。


 すると、地鳴りのような音が聞こえてきた。


「「「オオオォォォォォォオオオォォォ」」」


 十悪会に苦しめられた男達の逆襲が今始まる。

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