第15話 同じ境遇の仲間

「十悪会か……」


 怪訝な顔をしていると、男は驚いたような顔をした。


「あんた、知ってんのか!?」


「あぁ。ちょっと目ぇ付けられててな」


「マジかよ! 丁度良かったぜ!」


「ん? 丁度いい?」


 頭を傾げる。


 何が丁度いいんだ?

 まさかコイツらも十悪会に関わりが?


「あんた達、ついてきてくれ」


「あ、あぁ。何処に行くんだ?」


「すまないが、今は言えない」


 今は……か。

 監視でもされてんのか?

 また厄介事?


 黙って後ろをついていくとグネグネと角を曲がり小屋の中を突っ切り、道無き道を行く。


「ここだ」


 目の前には何の変哲もない扉があった。


ギギギギィィィィ


 扉が開くとそこには屈強な男達が円を作って座っていた。


「おい! 何故部外者を連れて来た!?」


 一人の筋肉隆々の男が立ち上がって詰め寄ってきた。


「コイツは役に立つぞ。十悪会に目をつけられるほどの実力者だ」


「なに? それはホントか?」


「目は付けられてるが……実力もあるとは思う」


 男達は目を釣り上げる。


「モーリー! 実力が本物かどうか手合わせしてやれよ!」


「ハッハッハッ! そうだ! それがいい!」


 この筋肉達磨はモーリーと言うらしい。

 周りの男達が煽ってくる。


「そうだな。おい! お前、名前は?」


「クーヤだ。後ろは俺の仲間だ」


 皆の視線が一点に釘付けになる。


「女だ! 女がいる!」


「ひょーっ!」


「おい! お前らマリアに手ぇ出したらこの世にお別れだぞ?」


 睨みつけて言うと、モーリーがパンパンッと手を叩いて場を鎮めた。


「俺がクーヤと戦う。実力が申し分なければ俺達の仲間になってもらおう」


「なっ!? そんなの─────」


「やってやれ! モーリー!」


「そんなガキひとひねりだぁ!」


 周りが騒ぎ始めた。


 はぁ。

 もう後には引けねぇ。

 仕方がない。

 さっさとカタをつけよう。


 クーヤとモーリーを中心として輪ができる。


「モーリーからいいぞ?」


「……はっ! 舐められたもんだな。じゃあ遠慮なく」


 ダァンッという音と共に大きな身体が迫ってきた。

 拳を大きく振りかぶり力任せに拳を下ろしてくる。


 下に身体を沈めて、振り下ろされた拳に手を添えて一緒に回転する。

 その回転した力を利用し、バックスピンキックを放つ。


ズドンッッッ


 巨体が宙を舞った。

 輪を作っていた男達がなんとか受け止める。


 モーリーはというと、白目をむいていた。


 それを見た男達は狼狽えて、モーリーの頬をペシペシと叩いている。


「おい! しっかりしろ!」


「大丈夫か!? 目を覚ませ!」


 すると、ゆっくりを身体を起こした。


「……俺は……何してた?」


「アイツと戦って吹っ飛ばされたんだよ!」


「はっ!……そうだ。何が起きたかわからなかった。一体……?」


 戸惑ったようにこちらに聞いてくる。


「俺は、拳を受け流した力を利用して蹴り飛ばしただけだ」


「そうか。実力の差が大きいようだな。クーヤ、是非俺達の仲間になってくれないか?」


 少し悩み。


「まず、話を聞かせてくれないか?」


◇◆◇


「俺達は大体が冒険者だ。この街に一人で来た者もいれば、パーティーで来た者もいる」


 目を瞑り、過去を思い出すように話し始めた。


「俺は、当時四人のパーティーで来ていた。最初は冒険者稼業をしながら賭博で遊ぶ程度だった。だが……ある時仲間が大損した。話を聞くといい話があると賭博を持ち掛けられたらしい」


「その話を持ちかけたやつは?」


「この街にはもう居ない。街を買いに行くと出ていったからな」


「そうか」


 あの街の話をしようとしたが、今は一先ず話を聞く事にしよう。


「それで、仲間の男は服と所持していた物全てを失ったんだが、それだけで終わりじゃなかった」


 拳を震わせながら話す。


「奴らはこれじゃ足りたいといって、仲間の女を寄越すように言ってきたんだ!」


「はぁ。そういう輩は揃ってクズだな」


「あぁ! クソ野郎だ!」


 ダンッとテーブルを叩く。


「で、どうしたんだ?」


「無論、力で抵抗しようとした……」


 そこで、疑問に思った。


「その女を寄越せって言ったやつには抵抗できただろ?」


「やつらのトップが出てきたんだ」


「トップ?」


「あぁ。痩せた小柄な男だった。クーヤにやられた時と同じで何が起きたか分からなかった。ただ、毒で動けなくされたと思う」


「毒か……」


「そうだ。それで、何もかも奪われた。仲間も金も装備も」


 仲間を奪われる辛さは俺も最近感じたんだ。あれは、かなり辛いものがある。


「辛かったな」


「あぁ。どん底に落とされ、このスラムに行き着いた。そしたら、同じような境遇の奴らがいた」


 皆、ウンウンと頷いている。


「そこで、クーデターを起こそうと思って集まっていたんだ」


「クーデターか。これだけ居れば確かに組織の奴らを叩けるかもな」


「あぁ。だが、トップのやつの相手が出来るやつが居なかったんだ。誰も適わないと思っていた」


 下を向いていたモーリーだったが、こちらを見つめる。


「……だが、クーヤが現れた」


「俺?」


「あぁ。俺では計れない程の実力。ヤツに対抗できるのはクーヤ、お前だけだ」


 十悪会には目を付けられてるし、根絶やしにしてやりたいと思っている。

 十悪会を潰したいのは一緒だ。


「わかった。協力しよう」


「本当か!? 感謝する!」


「よっしゃ! クーヤが加われば負けねぇぞ!」


「ハッハッハッ! 勝ったぞ!」


「モーリーをぶっ倒したんだ! 負ける訳がねぇ!」


 周りの人もかなり盛り上がっている。

 これで、後は作戦を練るだけ。


 トップを出すにはどうしたらいいか。


「それで、作戦はあるのか?」


「それなんだがな、街の外の下僕の盗賊みたいなやつから女と金を受け取る時はトップのやつが来て気に入った女を受け取ったりしていたんだ。そこを狙おうと思ってたんだが、毎日来てたやつらが、何故か昨日は現れなかった」


「盗賊……」


 昨日か……。


「あー。俺達が潰した盗賊かもしれねぇ」


「十悪会の息のかかった盗賊を潰したのか!?」


「……あぁ。すまないが」


「はっ! やっぱり実力に間違いはねぇな」


 笑顔からすぐに考え込むように拳に顎を乗せて真剣な顔をする。


「ただ、そうなるとトップが出てくるところを狙うのは難しくなるな……」


「そうか? トップが出てくる状況を作ればいいんだろ? だったら────」


 こうして、クーデター作戦が急速に動き出したのであった。


 

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