第14話 やつら再び

 野営の後に街道をしばらく歩いていると、街が見えてきた。


 何やらこの街は至る所で賑わっているようだ。

 ここは一応門番がいる。


「観光かい?」


「そんなとこです」


「まぁ、身ぐるみ剥がされねぇようにな」


「ん? はぁ」


 この時はなんの事やら意味が全く分かっていなかった。

 街の中に入った四人は後にその意味を理解することになるのであった。


◇◆◇


「にぃちゃん達、遊んでいかねぇか?」


「ん? 何をやってんだ?」


「この1つのサイコロには一つから四つまでの点が刻まれてんだ。何が出るか当てたら二倍の金を上げるぜ?」


「えぇ!? それホント!? 僕やる!」


「アーク!」


 咎めるが、何も分かっておらず意気揚々と席に座ってしまう。


「大丈夫だって!」


「じゃあ、いくらかける?」


「じゃあ、一ブロンズ」


「堅実だね。点が何個の面が上に出ると思う?」


「じゃあ、二!」


 丸い缶の中にコロコロとサイコロを転がす。

 出た目……二。


「やった! 簡単! もう一回! 次は一シルバーかける!」


「アーク、やめといたほうがいいぞ?」


「大丈夫だって!」


 引き止めようとするが、忠告を押し切って二回目をやるみたいだ。


 アーク。

 いいカモにされてるぞ。


「次は、一だ!」


「じゃあ、転がすぞ?」


 再び缶にコロンコロンとサイコロが跳ねる。

 出た目は……四。


「くそっ!」


「じゃあ、この一シルバーは貰うな?」


 銀の硬貨を男が懐にしまう。


「もう一回だ!」


「お兄ちゃん、次当たったら換金を四倍にしてやるよ。けど、外れたら掛け金の二倍貰うぜ?」


「よぉーーっし! じゃあ、一ゴールドだ!」


 あちゃあ。

 完全にカモにされてる。

 こりゃ痛い目見ないと分かんねぇかな。


「気前がいいねぇ。さぁ、なんの目が出るかな?」


「今度こそ、一だ!」


「じゃあ、行くぞ」


 また缶の中にサイコロが投げられる。

 出た目は……二。


「あらら。運がなかったね兄ちゃん。後、一ゴールド貰うぜ?」


「……です」


「聞こえねぇよ?」


「もう一ゴールドないです」


「そりゃ行けねぇな。着てるの全部おい────」


「ほら。これでいいだろ? 文句ねぇよな?」


 一ゴールドを渡す。


「おっ。おう。あるなら文句ねぇさ。へっへっ。儲けたぜ」


 嫌らしい笑みを浮かべて喜んでいる。


「アーク、行くぞ」


 肩を掴んで立たせる。

 項垂れている。


 少しは自分の考えが甘かったことを反省するといいんだけどな。


「くっそぉ。もっと金があれば……」


 ブツブツ喋っている。


 コイツは懲りてなかったみたいだな。


「クーヤ、アークはこういうの好きでしょうがないんだな。お金がかかるととことんやっちゃうんだな。前にも無一文になった事があったんだな」


「そうなのか。昔からなのか……」


「私達も止めたんだけど止まんないのよねぇ」


 ドンガもマリアももうどうしようもないと諦めているようだ。


「まずは、飯食おう」


 見つけた店に入る。


「いらっしゃい!」


 メニューを見ると、思わず目を見開いてしまった。

 なんと料理が最低でも一シルバーからなのだ。


「えっ? ここの店高くない?」


 マリアが怪訝な顔をしている。


「こりゃ金がある人しか店で食えねぇってことか?」


「なんか、酷いんだな」


「すまないねぇ。ここはそういう街なのさ」


「あぁ。いえ。この肉丼下さい」


「オデは、肉丼大盛りで」


「私は、肉そば」


「僕は、パンで……」


 アークが下を向いて小さい声で言う。


「アーク、好きなの頼めよ」


「いいの!? じゃあね、肉うどん大盛り!」


 注文を終えるとなにやら計算し始めた。


「では、六シルバー頂います」


 おいおい。大盛りで一シルバーかよ。

 しかも前払い?

 聞いたことねぇよ。


「あっ、この街では食い逃げが横行しまして、前払いが普通になったんですよ」


「なるほど、わかりました。これで」


 一ゴールド出して四シルバーが帰ってきた。

 高ぇ。

 高すぎる。


「はいよ。ちょっとお待ち」


 ちょっと待って出てきたのは茶色いご飯の上に肉を焼いたものが持ったもの。

 他のも似たようなものだった。


 パクッと食べ。


 うん。まぁ、こんなもんだろうな。

 期待はしてない。


 そそくさと食べて帰る準備をする。


「食べ終わったのを片付けましょうか? 一シルバーになりますけど……」


「「「「片付けます!」」」」


 なんてガメついんだ。

 ここの街は何でも金なんだな。


 店を出て少しメインストリートを外れると薄ぐらい地区に入った。


「ここは、スラムか?」


「随分大きいんだな」


「僕たちがいたとこよりかなり大きいね」


「入っていって大丈夫かしら?」


 これがスラムか分からないが、かなり大規模だ。

 色んな匂いがそこら中からする。


「おい! お前ら、ここ初めてか?」


「あぁ。そうだ。あんたらは長いのか?」


 みすぼらしい格好をした男に話しかける。


「俺達は、賭けで負けてこの有様さ。街を出るにもこのまま出たんじゃ魔物に食われて終わりよ」


「何処かで働けないのか? 冒険者ギルドは?」


「働くのは限られたとこだけだ。そして、そこに入るには口利きをしてもらわなきゃいけねぇ。しかも、報酬が少ねぇ。俺も昔は冒険者だったが、装備を全部取られちまったから何も出来ねぇってわけよ」


「なるほどな。身ぐるみを剥ぐのが常套手段なわけだな」


 そうか。

 賭け事が弱い者達はみんな街を出られなくなる。だから、スラムが大きいのか。


「そうだ。奴らには何故か勝てねぇ。俺達は皆強運の持ち主だった! 負けるはずがねぇ!」


「でも、現実的に負けた……だろ?」


 男たちは落ち込んだように下を向いてコクリとうなづいた。


「なんの勝負だ?」


「カードだ。一から九までの文字が書かれたカードがあってな。一は、一か十一として使えるんだが、先に二十にした方が勝ちなんだ」


 ルール的には前世のブラックジャックと同じ感じか。

 絶対に勝てないとなると何かあるな。


「それでな、この街で金をすげー集めた奴は何年か前に街を買いに行くって出てったらしいんだよ」


 街を買う?

 なんか最近似たような状況になっていた街があった気がしたが……。


「そうなのか。そいつがこの街のトップだったのか?」


「いや、違うらしい。この街はある組織が関わっているって言われてんだ」


「ある組織?」


「あぁ。この国の悪行の大半はその組織が関係していると言ってもいいらしい。その恐ろしい組織の名は……十悪会」


「十悪会か……」


 関わっちまった以上、面倒だが根絶やしにしたい所だな。


 再び十悪会と相見える時がやって来る。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る