第13話 掃討戦

「あぁぁぁ。相変わらず硬いベッドだったなぁ。よく寝れたけど、身体がいてぇ」


 身体を解して準備をすると部屋を出る。

 隣のマリアの部屋をノックする。


コンコンッ


「マリアー! 大丈夫かぁ?」


「……みず」


 こりゃヤバいか?


 おばちゃんの所に行って急いで水を貰って帰ってきた。


「開けるぞ?」


 開けるとベッドに毛布にくるまって横になっているマリアがいた。

 恐らく下着だけ着ているんだろう。

 はだけた毛布の下の素肌が見える量が多い。


 目のやり場に困るが、平静を装い看病する。


「おい。大丈夫か? ほら、水だ。起きれるか?」


「ぅーん。ありがと」


 なんとか起き上がるマリア。

 露出が多くなってしまい、そっぽを向く。


「ゴクッゴクッゴクッ……はぁ。美味しい…………?……なんでそっち見てるの?」


「いや、何でって自分の格好確認してから言えよな!」


「んー?」


 自分の格好を確認しているようだが、特に驚く様子はない。


「クーヤだから良いんだよ」


 どういう意味だ?

 俺には見られてもいいって事だよな?


「だって、家族でしょ?」


 はいー。

 そうですよね。

 そういう意味ですよね。


「はははっ。そ、そうだよな! 家族だもんな!」


「着替えたら出発するぞ? ロビーで待ってるから」


 そう言い残して部屋を出る。


 はぁ。

 変な期待をするなよな俺。

 マリアは家族だ。


 そう思うと同時に、同じ感情を抱いて居るであろうアークとドンガにも同情する。

 あの子は強敵だぞ。


 しばらくすると、アークとドンガもロビーにやってきた。


「クーヤ、今日出発するの?」


「あぁ。そうしようかと思ってたぞ。マリアが少し具合悪そうだからゆっくり行くけどな」


「えっ? マリア大丈夫そう?」


「さっき水持っていったから大丈夫だと思う。着替えたら来るように言ったから」


「そっか」


「昨日はオデ達が止めなかったらお酒沢山飲んじゃってたんだな」


 ドンガが後悔したように言う。


「そうだな。でも言っても聞かなそうな雰囲気あったけどな」


「まぁ、それもそうなんだな」


 三人で話していると、マリアがゆっくりとやってきた。


「大丈夫か? 歩けそうか?」


「うん。大丈夫だと思う」


「自分に回復魔法かけたらどうだ?」


「!?……その手があった。具合が悪いの飛んでけー!」


 マリアの身体が光った。


「うわー! 凄い楽になった! ありがと! クーヤ!」


「あっ、うん」


 この時、余計なことを言ったことを後悔した。

 これからこの子は二日酔いの度に回復魔法を使って回復するのだろうという事が予想されたからだ。


「よーしっ! しゅっぱーつ!」


 すっかり元気になったマリアが先頭切って歩いていく。

 街ゆく人から礼を言われ、また来いと言われながら街を後にする。


「そういえば、どこに向かうの?」


 そういえば、襲われて逃げてきたのがこの街でちゃんと行先決めてなかったな。


「俺達は十悪会に狙われている。それを解消するためには、頭を叩くしかない」


「頭は何処にいるの?」


「それは分からない。情報を集めながら行くしかないな。ただ、元々いた街は世界の東端に近いはずだ。世界の真ん中を目指して西に進むぞ」


「うん! わかった! あっちだね?」


 東を指している。


「いや、こっちだ」


 反対側を指差す。


「アーク、もしかして方向音痴か?」


 指摘すると俯いて喋らなくなった。


「オデ達も度々困ることがあったんだな。方向音痴すぎて」


「そうなのか?」


「スラムの自分達の居場所も何回も何回も迷子になってようやく覚えたんだな」


「そりゃ、相当な方向音痴だな」


 アークがガバッと顔を上げた。


「だから、ついて行くだけにするもん! 分かってるよ! 方向音痴だって!」


「まぁ、そう怒るなよアーク。だれも悪いって言ってないだろ? ちゃんと付いてくるんだぞ?」


「分かってるよ!」


 プイッとそっぽを向きながらこちらに付いてくる。


 腹を立ててしまったようだ。

 ドンガを見ると肩を上げて呆れた顔をしていた。

 少し時間が経てば機嫌も直るだろう。


 街道を歩いていく。

 誰も人はいない。


 日中はずっと歩き続けたが、街は見えてこなかった。

 少し外れの森の中に身を隠して野営をする。

 道中にとった鳥を捌いて飯にした。


「見張りはいつも通りアーク、俺、ドンガでいいか?」


「いつもクーヤが負担が多い時間帯だけど、大丈夫?」


 歩いて機嫌が直ったアークが聞いてきた。


 見張りをする際は、真ん中が一回の睡眠時間が短く、一度寝てから見張りをしてまた寝るので慣れない人には辛いのだ。


「俺は真ん中に見張りをしてもちゃんと寝れるから大丈夫だ。そういう訓練をして来たからな」


「そうなんだ。凄いなぁ。じゃあ、お願いするね! おやすみ!」


「あぁ。何かあったら起こせよ?」


◇◆◇


 トントンッ


「交代か?」


「うん。何も起きなかったよ。でも、不思議なんだ。凄い静かなんだよね……」


「静か?」


 バッと外に出て周囲を確認する。


「ソナー」


 返ってきた反応で確信した。


「アーク、何者かに囲まれてる。皆を起こせ」


「えぇ!? わ、わかった!」


 剣を構える。


「おい! 取り囲むとは何事だ!? 敵対するなら容赦はしない!」


 周りの者たちに忠告をする。


「ハッハッハッ! ガキがいきがってんじゃねぇよ! お前達に何が出来る!? 黙って金と女置いてけ。そしたら命は助けてやるよ」


 ゾロゾロと周りから男達が歩いてきた。

 服装を見るにみすぼらしい格好をした奴等だった。恐らく盗賊の類いだろう。

 

「エアバレット」


「ぐわぁぁ!」


「なんだ!? 何が起きた!?」


 盗賊が狼狽えている。


「黙ってろ! 取り乱すんじゃねぇ!」


「お前魔法が使えるからって調子乗んなよ? 八つ裂きにしてやるよ」


「はぁ。相手の力量も分からねぇのか。かかって来いよ雑魚が」


「生意気なんだよ! クソガキが!」


 ボロボロの剣を振り下ろしてくる。

 根元を狙い剣を叩きつける。


ガギィィィンッ


 盗賊の男の剣は根元からポッキリと折れていた。


「なんだ!? くそが!」


ブスッ


 胸を一突きする。


「グフッ! し、死にたくねぇ」


「世の中、そんなに甘くねぇんだよ。人から何かを奪うなら、自分も奪われる覚悟を持てよ」


 剣を抜くと男は倒れて動かなくなった。


「お前らまだやるのか?」


 サァッと男達は引いて行った。


「居なくなったね?」


 アークがテントから顔を出す。


「俺は奴らを追う。根城ごと始末してくる。待っててくれ」


「手伝う?」


「俺の事より、マリアを守ってやってくれ」


「うん。任せて」


 男たちの後を全速で追う。


「トランスエアー」


 走りながら魔法をかける。

 この魔法は空気になる魔法だ。

 存在自体が気薄になり、見た目も薄くなる。


 隠密行動にはうってつけだ。

 しかし、これは自分にしかかけられない。

 それもあってアークとドンガは置いてきたのだ。


 しばらく追うと、洞窟の中に入っていった。

 追って入る。


「ダルが殺られただと!? それなのにしっぽ巻いて帰ってきたのかテメェらは!?」


 仲間が殺られたのに何もせず帰ってきた事を怒っているようだ。


「次は俺も出る。必ずダルを殺った奴は殺してやる!」


 奥に行くと開けたところに出た。

 ホールのようになっていてそこでみんなが集まっているようだ。


 魔法を解除して出ていく。

 

「その必要はねぇよ。来てやったから」


「あぁん!? あと付けられてんじゃねぇかお前達! 何処まで使えねぇんだ!?」


「ゴチャゴチャうるせぇ。お前達はここで死ぬんだ。喚いてもそれは変わらねぇ」


「お前みたいなガキにダルがやられるだと? そんなの認めん!」


「認めてもらわなくて結構だ。エアバレット」


 空気弾をばら撒く。

 次々に倒れていく人。


「このガキがぁぁぁ!」


 斧を構えて走ってくる大きい男。

 さっき大勢の男達を怒ってた所を見るとこいつが頭だろう。


「フッ!」


 斧のような大きい得物は懐を突かれるのが弱い。一気に肉薄して胸に突きを放つ。


「がぁぁぁ!」


 斧で剣を弾き飛ばされた。


 こいつ。

 なんて馬鹿力なんだ。


「オラァァァァ」


 返す刃で横に斬り裂いてくる。

 その更に下に身を沈ませ男に再び肉薄する。


「震掌(しんしょう)」


 最近あみ出した技なのだが、以前腕を震わせて技を放ったことがあったのだが、自分にもダメージがあるので、改良したのだ。


 掌の前の空気を震わせる。

 そしてその空気を男に叩きつける。


ズゥゥゥゥンンッッ


「ゴフッ……な……にを?」


「さてね。もう終わりだ」


 バタンッと倒れた頭の男はピクピクしているが息絶えていた。


 ここからは掃討の時間だった。

 盗賊なんぞ生かしておく価値はない。

 全滅させた後に洞窟から出ると仕上げをする。


「エアボム」


 洞窟の中の座標を指定し、空気圧縮による爆発で洞窟を崩す。


「さて、戻るか」


 テントに戻ると盾を構えているドンガがいた。


「どうした? 敵か?」


「違うんだな。クーヤに任せれたからには守らなきゃと思って盾を構えていたんだな」


「そういう事か。盗賊は片付けた。もう大丈夫だ。マリアは?」


「マリアは……寝てるんだな」


 すげぇマイペースだな。

 流石です。


「後は俺が見張りするから寝てていいぞ」


「わかったんだな」


 ドンガも寝に入った。


 あんな盗賊がこの国には数え切れないくらい居るだろう。

 遭遇したら片付けないとな。

 それが、この国の平和の為だ。

 

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