第12話 宴会だぁぁ

「おーい! 兄ちゃん達こっちに座れよ!」


 おっちゃんに案内されたのは会場のど真ん中。


 領主から開放されたこの街の人達がいてもたっても居られずにテーブルと椅子を出して街全体で宴会を始めたのだ。


 しかも、その真ん中に俺達を置いた。

 その結果、ひっきりなしにお礼を言いに来る人達。

 休む暇がない。


「にぃちゃん! 強いんだな! 助かったよ! まっ、飲みな飲みな」


 エールをつがれる。

 この世界は15歳が成人だ。

 だから、冒険者にもなれるのだが。


 自分の事には自分で責任を持つという事だ。

 もちろん、命に関しても。


「あっ、いえいえ、良かったです」


 おじさんを軽くあしらうと今度はおばちゃんが話しかけてきた。

 

「あんた強いんだねぇ! 解放されて良かったわぁ! あたしももう少し若かったらねぇ」


「お前がもう少し若くてもどうにもならんわ!」


「うっさいわねぇ!」


 取っ組み合いをしている。


「まぁまぁ」


 一応落ち着かせようとするが、聞いちゃいない。


 はぁ。

 他所でやってくれよ。

 皆で楽しみてぇのになぁ。


「クーヤ、よくあの屋敷に私がいるってわかったねぇ!?」


 身を乗り出して聞いてくる。


「宿屋のおばちゃんが教えてくれたんだよ。マリアを拐うのを容認したようなもんなんだから、後ろめたい気持ちがあったんだろう」


「ふーん。でも、早く来てくれてよかったよ……あそこは何もされないけど地獄だった。ご飯くれないし」


 まぁ、マリアがまだ何もされてないってだけの可能性が高い。

 女を集めてたあたり、そういう事をするのが目的だったんだとは思うが……。

 捕らえられてた人達は家族の元に帰ったようで、今はゆっくりと休んでいることだろう。


「あぁ。助けることが出来てよかったよ」


「僕達も頑張ったんだよ!?」


「そうなんだな! オデ達も頑張ったんだな!」


「そうだよねぇ。ありがとね。みんな」


 アークもドンガも得意げな顔をしている。


 よかったな。

 二人も頑張ったもんな。

 背中を任せてよかった。


「私も飲もったかなぁ!」


 マリアが立ち上がって酒を取りに行こうとする。


「待てって! まずなんか腹に入れてからじゃないと悪酔いするぞ?」


「そうなの? なんでそんなに詳しいのよ?」


「いつもいつも酒を飲んだくれてる師匠と過ごしてたからだよ。あの人は口を開けば酒持ってこい。珍しく飲んでないかと思えば二日酔いで気持ち悪くなってる。とにかくろくでもない人なんだ」


「そ、そっか! うーん。じゃあ、少し串焼きとかパンとか食べてからにしようかな!」


「ぼ、僕も、その方がいいと思うよ」


「オ、オデもその方がいいと思うんだな」


 三人はよくわかっていた。

 このモードになったクーヤには口答えしない方がいいということを。


 以前、口答えをしたら三人は酷い目にあったのだ。ながーいお説教だった。あの時の事はもう思い出したくないほどに。


 マリアがそそくさと食べ物を取りに行った。


 いない間もエールが注がれて飲む。


 うん。

 エールうまい。

 前世のビールもこんな感じなのかなぁ?

 飲んだことないからわかんないけど。


 マリアが戻ってきたんだが、皿に色々てんこ盛りで帰ってきた。


「マリア、凄い量だな?」


「なんかぁ、美味しそうだなぁと思ってこれもこれもって取ってたら、こんなになっちゃった」


 テヘッとお茶目に笑う姿が可愛いが、こんなにホントに食べれるのか?


「ハムッ。んー! 美味しいぃー! ムシャムシャ。んー。これもおぉいしぃ!」


 凄いペースで食べ進めている。

 これには驚いた。


 そうか。

 普段は節約のために食べるのセーブしてたのか?

 でも、今回は我慢しなくていいからいっぱい食べちゃおうと、そういう事だな?


 山盛りになっていた料理がもうあと少ししか残っていなかった。


「あぁぁぁ。いい感じにお腹が膨れた。じゃあ、エール貰ってこよっと!」


 立とうとすると、近くにいたおじちゃんが声を掛けてくれた。


「お姉ちゃんも飲むのかい? ついであげるよ」


「ホントですか? 有難う御座います!」


 ビンからエールがグラスに注がれる。


「ゴキュッゴキュッ……ぷはぁー! うまい!」


 それを見て急に心配になった。


「アーク? マリアってお酒強いの?」


「えっ? 知らないよ。飲んだことないもん」


 おぉう。

 マジかよ。

 これ弱かったらヤバいぞ。


「グビッグビッ……ぷはぁ! もっと持ってこーい!」


「ハッハッハッ! お姉ちゃん、いい飲みっぷりだねぇ! おーい! こっちにエール何本かくれぇ!」


 おじちゃんが気を利かせて沢山エールを持ってくるように言ってくれた。

 果たして大丈夫だろうか。


「マ、マリア? 少し食べた方がいいんじゃないか? ほら!」


 串焼きとホットドッグを皿に乗せてあげる。


「んー? そうねぇ。ハムッ……モグモグ……ハムッモグモグ……ングッ……あー美味しかった」


 ホットドッグは二口で終わり、串焼きは一口で終わったのだった。


 再び飲み始めた。

 これは……嫌な予感が……。


◇◆◇


 少し時間が経つと、隣ではへべれけになったマリアがいた。


「くーや! もっとのめ! れんれんよっぱらっとらんやぁらいかっ!」


 呂律が回っていない。

 しかももたれかかってきているのだ。


「マリア? もう終わりにした方がいいぞ?」


「らんでー………………ぐぅぅぅ」


 寝ちゃったよ。

 運ぶしかないか。


「すみませーん! 俺達はこの辺で! この子寝ちゃったので宿に戻ります!」


 昨日泊まった宿に再び行くことにした。

 着くとおばちゃんが駆け寄ってきた。


「昨日は、本当にすみませんでした! どうか! どうかお許しください!」


 いきなり土下座しだした。


「ちょっ! 結果、この街を救えたんですから良いんですよ! マリアも何ともなかったですし! こうして、酔っ払って寝ちゃってますから……他に知ってる宿屋なくて……」


「うちでいいなら何泊でもしていって! 料金はもちろんいらないから!」


「そんな! それじゃ、おばちゃんが生活できないんじゃ……」


「今はね、領主に渡すお金が必要なくなったから大丈夫なの。そもそもねぇ、あの領主は勝手に領主を名乗ってただけなの」


「えっ!?」


「そもそも領主なんてさいしょはいなかったの。なのに、お金で冒険者達を雇い力づくでこの街の領主として君臨していたのよ」


「そうだったんですね……」


「私達は、常に監視されていて他所から来た人に助けを求めようとすると、罰として金を奪われ、街から逃げようとして捕まれば金を奪われ。生きていくのが苦しかった……」


「でも、今は開放された。生きてて良かったですね! また自由に生活できるじゃないですか!」


「そうね。また自由に生活をおくれる! それが楽しみね! 自由国家フリーダムはこうでなくちゃ!」


 自由国家フリーダムは世界の半分の面積を持つ国である。

 自由国家と名前の通りに自由なのだ。

 強盗、殺人、窃盗、誘拐……等。

 誰も取り締まるものがいない国。

 無法地帯。


 平和に好きに暮らせればいいが、こういう国では力が左右するとこが多い。

 所謂、弱肉強食の世界なのだ。

 強い者は自由に出来るが、弱い者は搾取されるしかない。

 この街も力で支配されてしまった街。


 こういう街が無いようにキチッと統治する者がいればいいのだが。


「では、部屋借ります」


「自由に使ってちょうだいな!」


 こうして怒涛の一日が終わった。

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