第10話 悪徳冒険者

「どこでその話を聞いた?」


 後ろを振り返ると細身の男がたっていた。


「あなたに関係ないだろ?」


「関係あるんだよ。冒険者なものでね」


「俺も冒険者だが?」


「ん? 見ない顔だな」


「さっき来たばっかりだからな」


「そういう事か。君、俺と一緒に領主様のところに来ないか? 金には困らないし、自由に暮らせるぞ?」


 はっ!

 そんなきなくせえ話お断りだ。


「あー。俺達は来たばっかりで街に定住するわけじゃないから」


「そうか。だが、断ってタダで自由にさせてるわけが無いだろう?」


「エアバレット」


 即座に魔法を放つ。


「防御結界」


 見えない壁があるようで空気弾を防ぐ。


「爆ぜろ」


ドドドドォォンッ


「ビックリしたなぁ」


 平然としている男。


「結構頑丈なんだな」


 剣を抜き放つ。


「やめやめ! こんなに強いとは思わなかった! 若いのに凄いね。今はよそう」


「今は?」


「まぁ、好きに過ごしてるといいよ」


 手を振ると背中を見せて去っていく。


「エアバレット」


 後ろから空気弾を放つと、その男はパチンッと指を鳴らした。


ドドドドッ


 見えない壁に阻まれる。


「アイツ強そうだな」


「僕達になんの用だろうね?」


「さっき話そうしたのは、冒険者達をここの領主が集めて好き勝手やってるみたいなんだ」


「そうなの?」


「あぁ。その話を聞かれた訳だが……また会いそうだな」


「どうしてなんだな?」


 ドンガが不思議そうに首を傾げて聞いてくる。


「んー。アイツが領主側に居るということは、領主に目をつけられたら、戦わざるを得ないってことだ」


「そうなったらどうするんだな?」


「そんなの抵抗するに決まってるだろ?」


「そうよ! どうしようと私達の自由じゃない!」


 マリアもヒートアップして来たようだ。

 鼻息を荒くしながら串焼きを食べている。


 俺はというと、さっき戦ってしまったから串焼きを投げてしまったのだ。


 なんか飯買ってこよう。


 メインの通りに出る。

 いい匂いがそこら中からしている為、迷う。


「おばちゃん! ホットドック四つ頂戴!」


「はいよ! 四つ買ってくれるなんて有難いよ! はいどうぞ!」


「ありがとう!」


 三人に一個ずつ配り頬張る。


「んー! うまい!」


 ウインナーが口の中でパリッと弾けて肉汁が飛び出してくる。

 固めのパンに汁が染み込んでうまい。

 

 ケチャップとマスタードがあればなお良かったんだけど、異世界だからしょうがないか。


「オデ、これ好きなんだな!」


「うまいよな? 俺も好きだぜ!」


「たしかに美味しいわね」


 みんなも納得のいくホットドックだった。


「おばちゃん。何か困ってる事ない?」


 店のおばちゃんに探りを入れてみる。


「何にもないよ。あんた、気をつけな」


 話すのをバレることを警戒していた。


 何処かで聞いているやつがいるのか?

 監視されてる?

 だから、さっきも路地裏に行った直後に接触できたのか?


 「うん。ありがとう!」


 屋台を後にして宿屋を探すことにした。


 少し外れにある宿屋を見つけた。

 中に入ると綺麗な所だった。

 受付にいたおばちゃんに空きを聞いてみる。


「こんにちは! 部屋は空いてますか?」


「あぁ。空いてるよ。けど、料金は前払い。そして、一人五シルバーだよ」


 たかっ!

 普通一泊二シルバーが相場だろ!


「そうですか。他を当たっ────」


「どこに行ってもこの値段さね。この街では料金が決められてんのさ」


 宿代が決められてる?

 領主が決めていて、固定で金が入るようにしてるってことか?


「わかりました。じゃあ、泊まります。四人分で二ゴールドです」


 袋から金を出して渡す。


 この街には長居できねぇな。

 金がかかりすぎるわ。


「はいよ。四人分の鍵ね」


「有難う御座います」


 鍵を受け取るとそれぞれの部屋に行く。


「僕、もう眠い……」


「オデも朝早かったから疲れたんだな……」


「ふわぁぁぁ。むにゃむにゃ」


 マリアはもうほぼ寝ている。

 部屋に入っていく三人。


 俺も部屋に入る。

 窓から外を見ると街の様子が少し見える。

 少し先の路地に荷物を抱えて歩いている男女がいる。

 周りをキョロキョロして隠れながら走っていた。


「ん?」


 こんな時間にどこ行くんだ?


「エアウォーク」


 空中を歩いて空から様子を見ると。

 荷物を抱えた男女は街の門へ向かっている。


 ん? 街から出る気か?

 なんで夜逃げみたいに……


 すると、門の外からは冒険者風の男達が三人やって来た。

 何やら揉み合っている。


 少し近づく。


「エアバレット」


 冒険者風の男達は足を抑えて倒れ込んだ。


 男女は慌てていたが、そのまま門をくぐって逃げていった。


 アイツらが領主の元にいる冒険者なのか?

 ただのゴロツキみたいだが……


 帰ろうと、踵を返そうとしたとき。

 俺に攻撃した男がやって来た。

 いきなり地面をのたうち回っていた男達を蹴り飛ばし出した。

 何やら罵倒しているようだ。

 キョロキョロと周りを見ている。

 暗いから見えないと思っていたが。

 目が合った気がした。


 そのまま宙を後ろに飛んで行く。

 何やらあの男は項垂れているようだ。

 バレたかな?


 部屋に戻って休むことにする。

 硬いベッドでよく寝られなかった。


「あ゛ぁぁぁぁーー。身体がいてぇ」


 身体を伸ばして硬くなった体をほぐす。


「ったく! これで五シルバーとかぼったくりもいい所だぜぇ」


 首や手を伸ばして行く。

 部屋を出ると同じ様にしている二人がいた。

 アークとドンガである。


「ベッド硬かったよな?」


「うん」


「なんだな」


「あれ? マリアは?」


 コンコンッと戸を叩く。


「マリア?」


 ガチャッと扉が開く。


 そこはもぬけの殻だった。


「あれ? マリア?」


 そこには荷物がそのままでマリアだけがいなかった。


 なんで居ない?

 鍵がかかってたはずだ……。

 思い当たるのは。


 部屋を出るとずかずかと受付に行く。


「おばちゃん? 俺らと一緒に来た女の子知らない?」


「知らないね」


「そっかぁ。でもさ、窓とか扉が破壊されてたら連れ去られたのも分かるんだけど、鍵空いてたんだよね」


「だから何さ?」


「誰かに鍵、渡したでしょ?」


「なんの事かね?」


 身体が震えている。

 喋ると何かされるから脅えてる?


「(ボソッ) どこで見られてる?」


 カウンターの下で指さした方向には窓があった。


 外から見張られてるってことか。

 入念なことで。


 カウンターに置かれている紙に書くことにした。


『どこに行った?』


 おばちゃんは外を見て少し躊躇うが、震えた手で書き始めた。


『りょうしゅてい』


 天井を見上げてしまった。


 はぁ。

 結局領主と関わんのかよ。


「どうも」


 宿を出ていく。

 領主邸はメインストリートの続く先。

 正面に見える。

 デカい豪邸だ。


 メインストリートを歩いていく。

 冒険者風の男が立ち塞がる。


「どこにいくつもりだ?」


「エアバレット」


 身体に穴を開けて血だらけで倒れる。


「立ちはだかる者は、全てぶっ潰す!」


 

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