第3話 いろいろ重くて、いろいろにぶい
リリシャ王女の到着を翌日に控え、城はますますあわただしい。
サリーユも三日前から文官の仕事から外してもらい――とはいえ、自分の持ち分については前倒しで片付けられるものについては片付けておいた――歓待準備のほうで全日働いている。
王女の到着は昼前と連絡を受けているので、今日の夜は早めに休み、明日は早朝から出迎えや王女が滞在する部屋の最終チェックの予定だ。
ふぅ、と息をつくと、迎賓館の与えられた部屋へ向かう。
ふだんは王城に隣接している官吏用宿舎の女性棟で寝起きしているサリーユだが、今日からリリシャ王女の滞在中は迎賓館の端にある高級侍女用の部屋のひとつで過ごすことになっている。「お話相手」としてお召しがあったときにすぐ参上できるように、という意図での部屋の割り当てではあるものの、広さはそれほどではないものの官吏用宿舎と比べれば華美な内装の部屋は落ち着かない。
本当はリリシャ王女の到着前夜である今夜までは宿舎で過ごしてもよかったのだが、迎賓館の内部に慣れておかなくては王女や彼女の一行から何かあったときに対応できないかもしれない。そのための一日早い迎賓館入りだ。
王女や、彼女の侍女や護衛が滞在する部屋だけではなく、迎賓館全体の造りや設備、置かれているものを確認したし、頭に叩き込んだ。とりあえず今日済ませておくべきことは、あとひとつだけだ。
部屋に入ると身を清めて、大きなクローゼットを開く。中にはドレスが何着も吊り下がっている。ドレスと合わせて用意された靴や手袋、宝飾品もある。
すべて、リリシャ王女の「お話相手」という職務のため、サリーユに合わせてあらかじめ用意してあった「仕事道具」だ。
「お話相手」は侍女ではない。ただお世話をするのではなく、歓待側の一員として賓客の興味を引く話題を提供し、賓客から質問されたときには正確な情報を答え――その質問が自国の不利に働くものであったら、そうとは気づかれないように話を誘導し――、賓客から何か希望や不満が伝えられた場合には女官長に直接改善を要求し、ある程度の自己裁量権をもって動くことができる。
大切なお役目だ。求められるのは高い教養と機転。加えて表立って賓客の隣に居ても恥ずかしくないよう、賓客よりは目立たない、しかしきちんとした装いも求められる。
「だいじょうぶ、かな」
ドレスと用意された小物類を順番に身にまとい、姿見の前で少しでもみっともないところはないか、自分の姿勢と併せて確認する。
これといった特徴のない紅茶色の髪は直毛過ぎてまとめてもすぐに滑り落ちてきてしまうのでしっかり結い上げ、華やかではないけれど品のいい髪飾りで留める。今は亡き祖母から受け継いだ紫色の目はやさしげに垂れていた祖母とは違って、猫みたいに丸く少しつり上がっている。そのせいできつく見えがちだから、つねにやわらげるように意識して。仕立てのいいドレスに着られないように、きちんとした姿勢で立つように。細いヒールの靴を履いていようとよろめかないよう、視線は一点に固定する。
ドレスを身にまとうのはひさしぶりだが、なんとかなりそうだ。ドレスにもその他の品にも問題はない。
鏡に映るのは、いっぱしのご令嬢に見える。左手首の細い金の鎖のブレスレット――祖母の遺品――だけがいつもの自分の名残として残っている。
今日まで指導がてら交流していた侍女たちならば、目を輝かせてドレスの裾をひらひらと翻して回るのだろう。用意されていたのは、中流貴族でもそう簡単には仕立てられない、着れば気分が浮き立つような一級品のドレスだ。
でも、サリーユはたまらなく窮屈に感じてしまう。
自分はもう、あの家の、サリーユ=アルノ=シュアランではないというのに。
ふ、とため息をついたところで、部屋の扉がノックされた。
現時点でサリーユがこの部屋にいることを知っているのはエンファ以下女官や侍女たち、それから本来の職場の上司である宰相ユーイエくらいだ。今日の昼間に文官部屋に顔を出した時にはユーイエはいまだ退院してきていない、とのことだったので、来るとしたらエンファか。
何か明日以降の予定で変更点でもあったのだろうか。
首をかしげつつ、扉を開けたサリーユはそこに立っていた人物に目を見開いた。
「……陛下?」
見間違いではなく本物だろうか、むしろ夢でも見ているのだろうかと、手袋に包まれた右手の甲を左手でこっそりつねる。
痛い。見間違いでも、夢でもなさそうである。
「どうなさったのです、陛下。このようなところへ足をお運びになるなんて」
今日も今日とて見目麗しいロンシンは、サリーユのことを頭のてっぺんからつま先まで見下ろし、見上げ、深い深いため息をこぼした。
「きれいだね、サリュ。このままどこかへさらってしまいたいくらい」
「ありがとうございます?」
とりあえず無難な社交辞令から始まった会話に、サリーユも当たり障りなく礼を述べておく。
「だからこそ、こんな簡単に扉を開くものじゃない」
不機嫌そうな口調に改めて彼の顔を見れば、とてつもなく不満げにむくれている。
どうなさったのだろう、と首をかしげつつ、一国の主を立ちっぱなしにしておくわけにもいかず、身を引いて入室をうながした。
「陛下をお招きするには狭い部屋ですが、とりあえずお入りください。すぐにお茶をご用意いたしますので」
「あぁ、たまに君ってとんだ悪女なんじゃないかって思うよ……」
ぼやきながら部屋に入ってきたロンシンは、扉を完全には閉じずに薄く開いたままにする。
迎賓館の個室の扉は大きく開いたままの状態から手を放しても、ゆっくりと閉じていくし、勝手に完全には閉まらない細工がされている。閉めるにはさらに扉に力を込めて引くなり押すなりしなくてはならない。
サリーユだってその意味を理解していないわけではない。
「悪女だなどと心外です。わたくしはいつだって忠実な陛下の臣下でありたいと願っております」
深くロンシンを信じているし、彼が自分を求める以上にひとりの人として尊重してくれることを知っている。そんな彼だからこそ、心から尽くせるのだ。
彼は、たとえ密室にサリーユとふたりきりになろうと、同意がなければ無体を働いたりなどしない。
「君の信頼に応えたい。でも同時にもっと衝動的に行動できたらって私だって思ってるんだけどね」
あーあ、と部屋のテーブルセットのソファに腰かけたロンシンが大きく伸びをする。
丁寧にお茶を淹れ――備え付けの茶葉は迎賓館にふさわしく、それなりにいいものだった――彼の前にカップを差し出す。
「それで、このようなところに、どのようなご用でおいでになったのです?」
「サリュの顔を見に来たんだよ? 悪い?」
間髪入れずに言い返され、一瞬言葉に詰まる。
「……ご冗談を」
「冗談なんかじゃない。連日の激務で疲れ果てた私を癒してもらおうと思って」
だからそれはサリーユの役目ではない、と答えるより早く、伸びて来た腕に腰をさらわれ、ソファの上――ロンシンの足と足の間に着席させられる。まるで背後から抱きしめられているような格好だ。
いやでも先日のことを思い出すが、あのときと違ってサリーユとロンシンを隔てるものは何もない。
「へ、陛下」
これまでになく密着する姿勢に、さすがに声が上ずった。
ロンシンはサリーユに無体を働いたりしない――同意がなければ。
くっと下唇を噛み、自分が余計なことを言ったりしないよういましめる。
「君が好きだよ、サリュ」
これまではっきり告げなかったことを、今、ここで、この体勢の耳元でささやくのか。
背後からサリーユの腹へ回されていた彼の腕にぎゅっと力がこもる。
かっと頬も首筋も熱くなった。きっと耳だって赤く染まっている。背後からだってそれは見えてしまっているだろう。
でも、サリーユは何も答えない。右手でブレスレットごと左手の手首を押さえ、ただ、じっと嵐が去るのを待つように沈黙する。
「愛しているんだ」
鼓膜を揺らす甘い言葉に、切望の響きに、頭がくらくらしてきても。
全身を強ばらせて、ただぎゅっと奥歯を噛み締め、一言ももらさずにだんまりを決め込んだサリーユの細い首筋に額を押し当て、ロンシンもしばらく黙ってじっとしていた。
心臓が早鐘のように打って、全身が燃えるように熱いのに――心のどこかは恐怖で凝っている。
だめ。だめ、だめ、だめ。だめなのだ。
サリーユの気持ちなど関係なく、サリーユはだめだ。
ロンシンのためにならないから、だめなのだ。
だから、早く、あきらめて。
何も反応を返さないサリーユにあきれて、先ほどの言葉を撤回して。
そう、祈ったというのに。
「……返事はまだいらない」
ロンシンは低い声でうめいた。
「君はきっと『うん』と言ってくれないから、まだ何も答えてくれなくていい」
彼は「まだ」と言うけれど、「いつか」なんて来ないのに。
黙り込んだままのサリーユの首筋から額を離すと、ロンシンは指先でそっと後頭部の髪をすいてきた。もともとまとめてもゆるみがちな髪が、彼の指の動くたびにさらさらとほどけていってしまう。
「ただ、覚えておいて。この先何があろうと、私が愛しているのは――妻に迎えたいと思っているのは君だけだよ、サリュ」
そんなのは、だめなのに。
でも、どう言い返せばいいのかわからない。
結局黙っていることしかできなかったサリーユの左腕が背後から持ち上げられる。
「あと、これを渡しておこうと思って」
腕に感じるロンシンの手の熱に、つい先日思い切り彼の手を叩き落してしまったことを思い出す。さすがにあれはまずかった、と後から反省したところだったので、手荒に振り払うこともできず抵抗が鈍った。
その隙に、ロンシンはどこからともなくブレスレットを取り出すと、サリーユの手首――祖母の遺品のブレスレットに重ねづけるようにして巻き付けて留めてしまう。
祖母のものよりも赤みがかった金の鎖に、ところどころに紫色の結晶がつなぎとめられた優美なデザインのそれは、間違いなく高価な逸品だ。
またこの陛下は。
「ですから、理由もなく高価なものをいただくわけには――」
「理由があればいいんでしょ?」
たった今までの動揺を押し殺して、いつもどおりを装ってサリーユは声をとがらせた。さらに振り返って背後のロンシンをにらみつけたが、彼は涼しい顔でほほえんでいる。
「これはお守り。いくつか魔術がかけてあるんだ。いつもと違うことばかりで何があるかわからないから、しばらくつけておいてよ」
今回の件が済んだら外していいから、と重ねて言われ、窺うように目を細める。
「外して、お返ししてもよい、ということですね?」
「もらってくれてもい「お返しします」
きっぱりと言い切ったサリーユにロンシンは声を立てて笑う。
「サリュは欲がないなぁ」
「……そんなことは、ありません」
欲深すぎるから、自分を律しなくてはならないだけだ。
左腕を掲げると、鎖に連なる紫の結晶が光をはじいて美しく光る。
「……きれいですね。魔晶、ですか?」
魔素が凝って生み出される魔晶は宝石と同じように地中から産する貴重品だ。宝飾品としてだけでなく、魔術や魔法の媒介としても重用される。
「うん。サリュの目みたいできれいだよね」
「いえ、単純に結晶が、というお話を――」
隙あらばぐいぐいくるロンシンにいつも通りに言い返しながら、ふと何か違和感を覚え、視線を閉じ切っていない扉へと向けたサリーユは――そこからこちらを覗き込む顔と目が合った。
「……っ!」
突然全身をびくりと跳ねさせたサリーユの視線をたどり、ロンシンもため息をこぼす。
「来るのが早い」
彼のぼやきと同時に、部屋の扉がばーんと開いた。
「陛下、みつけましたよ!」
純白の長髪に、青みがかった銀の目、片眼鏡(モノクル)をかけたやさしげな風貌の長身の青年――透けるように白い肌、という表現があるが、彼の場合は本当に全身がうっすらと透けて身体の向こうがぼんやり見える。身にまとう紅の上下と黒のマントだけが空間を鮮やかに切り取っていた。
「病み上がりのボクに仕事を押し付けて、自分はうちのかわいい部下にちょっかいをかけてるなんて、許せないんですけど」
「……ユーイエさま」
ひさびさに見た上司の姿に軽く目をみはる。
ぎりぎりでリリシャ王女の到着に間に合ったらしい。
「ご退院、おめでとうございます。おかげんはいかがですか?」
「ありがとう、サリーユ。開口一番に具合を訊ねてくれたのは君が初めてだよ」
みんな仕事のことばっかりでさ、と遠い目になった宰相閣下は今日も今日とて両手に重そうな量の書類を持っている――先ほどの扉は、足で開いたのか、魔術を使ったのか。
「もう十分サリーユで癒されたでしょう。早く戻ってください。たんまりお仕事を執務室に積み上げておきましたからね!」
はいはいはい、と手を叩かれ、ロンシンよりも先にサリーユがソファから飛び上がった。
ロンシンの足の間に座ったままだった。座ったまま退院の祝いを述べたりしてしまった。サリーユの胴を拘束していたロンシンの腕はとっくに外れていたというのに。恥ずかしい。
「えー」
顔を真っ赤にして壁際まで移動して控えたサリーユを一瞥し、ロンシンは不満そうに唇を尖らせた。
「私が働くと、つまりユーイエも働くことになるんだよ? それこそもう少し休んだら?」
「ボク、お仕事ダイスキですし! そもそも休んでもお仕事はなくならないんですよ、陛下」
ただ溜まるだけです、と目を伏せて首を横に振ったユーイエの姿は悲哀を感じさせる。
「ボクのサイン待ちだった書類はぜんぶ処理して陛下に回しておきましたから、ほら、行ってください!」
入院中、依り代の小鳥のぬいぐるみ(最終的に愛称はピッピとなった)を通じて細々とした仕事の指示は送ってきていたものの、責任者として宰相の許可を求める書類だけは彼のサインが必要なため、溜まる一方だった。彼の執務机の上だけでは足りず、執務室の床にも芸術的なバランスで積み上げられた書類の山が乱立していたはずだが――昼過ぎに帰ってきて、すべて目を通したというのか。
ロンシンも化け物級に有能だが、ユーイエも十分すぎるほどの化け物だ。
「あーめんどうくさい」
うーんと伸びをしながら立ち上がったロンシンが、サリーユに向かって小首をかしげてみせた。
「サリュが励ましてくれたら、もうちょっとがんばれるかも」
「ですから――」
「ちょっとくらい、いいんじゃないですか? 円滑に仕事を進めるお仕事だと思えば」
いつものように跳ねのけようとしたのだが、思わぬところからロンシンの援護をする伏兵が現れた。
「君がちょーっと励ましてあげれば、たぶん馬車馬のように働きますよ、陛下」
はははは、と聞きようによってはとんだ不敬発言をしているユーイエにサリーユは眉をひそめた。
「ユーイエさま」
「別に『かわいらしく』とか、『陛下に媚びろ』とか言ってるんじゃないんですよ。ふつうに仕事が終わらない、ってよく叫んでるうちの同僚を励ます感じでいいんです」
同僚が叫んでいるとき、それはサリーユ自身もかなり追い込まれているときなのだが。
「……わかりました」
その程度の励ましでロンシンがやる気を出して、つつがなく仕事が終わるのならば。
「陛下」
ロンシンに向き直ると、彼はわくわくした表情で言葉を待っている。
そんなに期待されても、たいしたことは言えないのだが。
こほん、と空咳をついて、口を開く。
「陛下ならやりとげられるとわたくし存じております」
「うんうん」
「あと、終わらないと帰れません!」
「うん?」
「手を動かしていればいつかは終わりますので!」
「う、うん」
「さあ、まずは始めましょう!」
最初はうれしそうに聞いていたロンシンが、サリーユが語り続けるにしたがって顔を曇らせていった。
「……ねえ、ユーイエ。今度、君のところの労働環境についてちょっと本格的に検討しようか」
「……ああ、はい、うん、そうなりますよね」
はははー藪蛇、と笑ったユーイエが、「それはそれとして」とぐいぐいロンシンの背中を押して部屋の外へと向かわせる。
「サリーユは約束通り陛下を励ましたんですから、陛下は仕事に戻ってくださいね」
馬車馬のように働いてください、と部屋から押し出された彼がサリーユを振り返ってにこりと笑う。
「また会いに来るよ、サリュ」
結構です。いつものように言い返そうとしたのに、ロンシンの笑みに細められた目の奥に熱を感じて、ぱっと彼の視線から逃げるようにうつむいてしまった。
これは、よろしくない傾向だ。
「陛下、もう行きましたよ」
うつむいたままぐっと唇を噛み締めていたサリーユに、ユーイエが声をかけてきた。彼もロンシンといっしょに仕事に戻ったのだと思っていたので、驚いて顔を上げる。
よいしょーと手にしていた書類をテーブルの上に下ろした上司は、さきほどロンシンが座っていたのとは反対側のソファに腰を下ろした。
「ねぇ、サリーユ」
「はい」
先ほどの励ましがいまいちうまくいかなかった件だろうか。
だが、職場の励ましなんて「君ならできる、わたしならできる、つまり終わる!」だとか「帰るためには手を動かせ」「手を動かしても終わらぬ仕事はあるが、手を動かさず終わる仕事などない」だとか「まずは始めろ、泣くのも愚痴もそれからだ」だとか、そんなものばかりである。
「サリーユは陛下のことが好きなんですよね」
が、思いもしない問いかけが襲ってきた。
これは、どういう意図の問いかけで、どう答えるのが正解なのか。
逡巡して口ごもったサリーユだったが、自分をまっすぐ見つめるユーイエの静かで澄み切った目に腹をくくった。
魔王の懐刀。冷静沈着な鏡の宰相。
そう呼ばれる彼を相手に隠しごとは叶わない。
「……はい、お慕い申し上げております」
大きく深呼吸して、ロンシン相手には決してもらさない本心を告げる。
「そう。それは、恋愛対象としてですか?」
その質問に答えるのは、少しむずかしい。うつむいて、しばし考えこんでから、サリーユは素直な気持ちを口にのせた。
「すべてです」
そっと胸に手を置いて、自分の気持ちを確かめるようにひとつずつ言葉にしていく。
「命の恩人としても、仕えるべきお相手としても、おそれ多いことですが――その、恋愛の対象としても」
一目見ただけで外見的な魅力的はじゅうぶん感じられた。でも、最初に胸に抱いたのは恐怖、続いて救われたことに対する感謝。彼の庇護を受けてこの国へやって来てから、彼の「魔王」としての仕事ぶりを見て、折々に見せる自分へのやさしさに触れて、それは甘い色を帯びていった。
「陛下がお求めになるなら、この命、捧げる覚悟です」
彼が「死ね」と言うなら、サリーユは迷いなく命を差し出すだろう。
「んー重い。というか、ちょっと待ってください」
額に手を置いたユーイエがこむずかしい顔をして眉間にしわを寄せている。
「命を捧げる覚悟はあるのに、陛下の熱烈な求愛は無下にするんですか?」
「わたくしでは、陛下のお相手にふさわしくありませんので」
何を当たり前のことを。
きょとん、と目を丸くしたサリーユに、ユーイエが口をぱくぱくさせる。
「陛下にはこの月燐花の主としてふさわしい方をお迎えいただかなくては」
そのせいでサリーユの恋心が少しばかり痛もうと、そんなのは些末な問題だ。
サリーユは、ロンシンに救われた。
サリーユの実家――シュアラン家は月燐花に接する、とある土地の領主だった。
サリーユは兄とともに、領主である父の初めての子ども――双子として生を受けた。
兄は跡継ぎとして領地を守り、サリーユはいずれどこかの貴族へ嫁いでシュアラン家に有利な縁を結ぶ――一度に男女の子を得た父も、一族もおおいに喜んだという。だが、それもサリーユが「魔族返り」だとわかるまでのことだった。
魔族返り。かつて先祖のどこかにいた魔族の特徴が強く出た子のことを人間はそう呼ぶ。
人間と魔族がわかれて暮らすようになってから、まだたったの数百年。かつては当たり前のように交流があったのだから、それも当然のこと。両親ともに人間であろうと、魔族の性質が子に現れることは珍しくない。
サリーユの場合、感情が高ぶると紫色の目が金色に変わり、その目で見たものは人も物も凍ったように時を止めた。
魔族返りの中でも、魔法を宿した魔族返り――「災いの子」。
サリーユの感情が落ち着いて目の色が戻るころには何の異常もなく動き出すのだが、家族は皆サリーユを恐れ、気味悪がった。加えて、それほど熱心ではないとはいえ、エリム教を信仰している手前、魔族返りの娘が生まれたことは外聞が悪かった。
家族の中で唯一サリーユに寄り添ってくれたのは、祖母だけだった。
身体の弱い――強い日の光に当たることもままならない祖母の話し相手兼世話役。サリーユは領主の娘としての社交をほぼすべて免除され、祖母とともに屋敷の奥で外部の人目に触れないようにして過ごした。
屋敷から遠くから離れた場所へ遊びに行ったのは、一度だけ。祖母とともに避暑用の屋敷に出かけたのが最初で最後だった。
それが嫌だったわけではない。調子がいいときの祖母は貴族の娘としての行儀作法や知識を与えてくれたし、兄のところに来ていた家庭教師もこっそり招いてくれた。兄は勉強に熱心ではなかったらしく、せっせと学んでは質問するサリーユのほうが教えがいがある、と変わり者の家庭教師はよろこんだし、本来ならば家を継がない貴族令嬢には必要のないさまざまなことまで教えてくれた。
だが、サリーユが十五の年に祖母が亡くなり、彼女の庇護を失ったサリーユの環境は一変した。
家庭教師から聞いていたとおり、兄は勉強ができなかった。やる気もなかった。最低限の領地経営すらできそうになかった。
それを憂えた父は、祖母や家庭教師から伝え聞いたサリーユの能力に目をつけた。
『今日から、おまえは兄の影だ』
そう言って、父はサリーユを屋敷の離れに幽閉した。祖母といた頃は屋敷の中であればそれなりに自由に過ごせたが、離れには見張りが置かれ、滅多に外に出ることも叶わなくなった。
やるのは、兄にはできない領主の補佐としての仕事。時として、父がするべき仕事も。運び込まれるそれを、片っ端からさばいていく。それだけの日々。
家族には会わない。父にも、母にも、兄にも、後から生まれた弟妹にも。
それでも、送られてくる書類からわかることもある。
シュアラン家は困窮しているわけではないが、豊かとも言えない。本来であれば少しずつ余裕が生まれる程度の収入があるというのに、家族の、特に兄の放蕩によって財産を食いつぶしている。それどころか、ところどころ本来であれば領民のために使うべき金に手を付けた形跡すらある。
こんなことでは、早晩、領地経営は立ち行かなくなる。
何度も手紙をしたため、父と兄に訴えたものの、彼らからの返事はなく――シュアラン家は崩壊を迎える。
後から知ったことだが、兄は本当に愚かで、己の放蕩に使える金が少ないことにいらだって、手を出してはならない領域に手を出したのだ。
彼はひそかに月燐花へ人をやっては、魔族――人型ではなく、あまり強くない獣型の魔族を捕えて、愛玩奴隷として密売していた。
そして、それは当然のようにロンシンの耳に入り、彼の不興を買った。
一年前、春の花の盛りも過ぎた、風の強い夜だった。
シュアラン家は、ロンシンと彼の近衛隊――百にも満たない人数に攻め込まれた。
家族は全員捕えられ、そしてサリーユは初めて「魔王」に出会った。
あの時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
何かが崩れる大きな音や、悲鳴が本邸の方から聞こえてきて、何ごとかと書類仕事の手を止めたときだった。
ばーん、とも、どがっ、とも言いがたい、鈍く大きな音がして、サリーユのいた部屋――二階角部屋の壁に巨大な穴が開いた。
ひゅっと息を呑み、左手首の金鎖のブレスレットを右手で押さえつける。祖母の死に際してひとつだけ形見分けを許されたそれはサリーユのお守りだ。
さすがに動揺を治めきれず、じわりと目に熱が集まるのを感じる。発動した魔法がサリーユに向かって飛んできた壁の破片を宙にとどめた。
『え、人いたの?』
ひょっこりと穴の向こうからこちらを覗き込んだ黒髪に藍色の目をした美青年が、ぎょっとしたように声を上げた。
『窓に鉄格子はまってたから、物置か何かだと思ったのに』
君だいじょうぶ? 怪我は、と大穴から室内に入り込んできた彼の姿を呆然と眺める。
これまで見た、どんな人よりも美しい。それに、たぶんまだ目の色が変わったままのサリーユが見つめているのに、彼は動いている。
この数秒間に起こったことの情報量が多すぎて固まってしまったサリーユに構わず、室内の様子を確認した彼は宙に浮かぶ瓦礫片にちいさく首をかしげてから、あらためてサリーユを見つめた。
空いた穴から風が吹き込んできて、どこかからやって来た無数のちいさな花びらが雪片のように暗い色彩を宿した美しい青年の周りを舞う。
それは絵のように完璧で、悪夢のようにおそろしく、麗しかった。
しばらく無言で互いを見つめ合っていたが、一歩、二歩、とゆっくり足を踏み出した青年が瓦礫片を避けながらこちらへ近づいてくる。
やはり、彼にサリーユの魔法は働いていない。
そう言えば、と家庭教師がかつて持ってきてくれた本に書いてあったことを思い出す。魔術も魔法も、より強い力の前には無効化される、と。
「君は、魔族返りなんだね。それも、かなり強い」
書類机の前に座ったままだったサリーユの前に立つと、彼は腰を折って顔をのぞき込んできた。ついで頬に触れようと伸びて来た腕に、サリーユはびくん、と身をすくませる。
「ああ、いきなり触れようとするなんて、女性に対して失礼だったね」
苦笑を浮かべた青年は、一度姿勢を正すと、胸に手を当てて優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります、黄金色の目のきれいなお嬢さん。私はロンシン。月燐花を預かる魔族だよ」
人間は「魔王」って呼んだりするね、といたずらっぽく笑う彼を、信じられない思いで見つめる。
月燐花に領地を接しているとはいえ、「魔王」の存在はおとぎ話のようなものだ。
それが、目の前にいるなんて。
荒唐無稽すぎて、ふっと張り詰めていた緊張が途切れた。すっと目から熱が引いていき、宙に浮いていた瓦礫片が地面に落ちる。
「ああ、その目の色が君の本来の色なんだ? 黄金も、紫も、どっちもきれいだよ」
にこにこと笑うロンシンが再度腕を伸ばしてきて、軽々とサリーユを抱き上げた。
「ねぇ、君の名前を訊いてもいい?」
サリーユの名前と、ついでに事情も訊き出したロンシンは、彼女を自分のそばに置き、月燐花に連れ帰り――今に至る、というわけである。
あのままあの家にいたら、サリーユは一生飼い殺し――もしくは必要なくなれば実際に処分されていただろう。
そうでなくとも、月燐花に牙向いた一族としてロンシンに処刑されていてもおかしくなかったのだ。
今のサリーユは実家にいた頃とやっていることこそ大差ないが、これは対価のある仕事で、行こうと思えばどこにだって行ける。誰もサリーユを恐れないし、疎まないし、閉じ込めようとしない。
それが、どれだけサリーユにとって幸せなことか、きっとロンシンは知らない。
でも、すべて彼が与えてくれたのだ。
これ以上を求めるなんて、おそれ多い。
それに、かつて魔族を物のように扱ってロンシンに滅ぼされた家の娘――いまや貴族でもなんでもないただの一文官なんて、月燐花の君主の妻にふさわしくない。
王族の結婚は政治なのだから。
「わたくしは、陛下にありとあらゆるものを手に入れていただきたいのです」
そのためにサリーユにできることがあるのなら、力は惜しまない。命だって奉げてみせる。
「陛下は世界の半分をくださるとおっしゃいましたけど――」
当然それはお断り申し上げたけれど。
「もし陛下御自身が望むのならば、それが世界のすべてであっても、わたくしは手に入れるために尽力いたします」
自分に思いつけるありとあらゆる手段を講じて、彼の望みをかなえるべく動こう。
なるべく、平和的な、でもきれいなだけではない方法で。
「ですので、わたくし――サリーユという駒は、使い捨てにできる場所に置いておいた方が効率的かと」
にっこりとユーイエに向かって笑って見せると、彼は深いため息をこぼし、再び額に手を置いて頭を振った。
「うん。君がめちゃくちゃ陛下のこと好きなことはわかったんですけど――」
うーんこれは、とぶつぶつつぶやいてから、ため息をこぼし、ユーイエは顔を上げた。
「まあ、うん。確認できてよかったです」
ふわりと笑みを浮かべた上司が、机の上に置いていた書類を持ち上げる。
何が確認したかったのかはわからないが、とりあえず話は終わったらしい。
「あの、執務室までごいっしょしますよ」
「いいですいいです。あっちまでいっしょに行ったら君、ちょっとだけとか言って仕事しちゃうでしょ。明日に備えて早めに寝てください」
途中で崩れてしまわないか不安になる書類の量に申し出たのだが、こちらの性格を見越した理由で断られた。まったくもって否定できなかったため、すごすごと引き下がる。
「ねえ、サリーユ」
サリーユが開いた扉を出たところで、ユーイエが足を一度止めた。
「君は覚悟を決めておいた方がいいですよ」
とてつもないいい笑顔で言い放たれたが、何のことなのかちっともわからない。
「ユーイエさま?」
「じゃあ、おやすみなさい。いい夢を」
説明してほしかったのに、上司は書類を抱えてよたよたと立ち去ってしまった。
覚悟、とはどういうことだろう。
自分の胸に宿った恥知らずな恋心を殺す覚悟なら、ずいぶん前にしたのだが。
すこし考えてもわかりそうにないことは、とりあえず保留だ。言われたとおり、早めに寝たほうが建設的でもある。
「よし」
切り替えの早さには自信がある。
きっぱりと今日のもろもろは棚上げして、サリーユは寝る準備に取りかかった。
***
廊下の角を曲がったところで、長い足を組んで壁に寄りかかった主の姿を見つけ、ユーイエは「やっぱり」とため息をこぼした。
「聞いてらっしゃったんでしょ」
「当たり前だろ。相手がおまえとはいえ、サリュと誰かをふたりきりにするなんてするもんか」
ちらり、とユーイエを一瞥したロンシンは指をぱちん、と鳴らした。それだけでユーイエの腕の中にあった書類は消え失せる。高度な空間移動魔法だが、ロンシンにとってむずかしいものではないし、それは強い力を持つ魔族であるユーイエにとっても同じことだ。
彼が常に山のような書類を持ち歩いているのは「忙しいボク」の演出のためにすぎない。
「盗み聞きとかどうかと思いますけど」
あとちゃんと仕事しに行ってくださいよ、サリーユに応援してもらったでしょ、とぼやくユーイエにくぎを刺しておく。
「サリュには言うなよ」
ちょっと冷たい目で見られるのもきらいではないが、サリーユの中の「陛下」像を傷つけたくない。
めんどくさいなぁ、と言わんばかりの視線を寄こしたユーイエが廊下を歩きだす。
「よかったですね。これ以上なく愛されてますよ」
「ふふん」
それを追って歩きながら、ロンシンは先ほど聞いた(盗み聞きした)部下と想い人の会話を思い出す。
直接ではないとはいえ、「お慕い申し上げております」という言葉を聞けたことでかなり上機嫌だ。
「でも、まだ足りない」
浮足立つ足どりでユーイエを追い抜く。
「サリュにはもっともっと私に夢中になってもらわなくちゃ」
唇の端が笑みにつり上がっていく。
「もっと、もっと私のことを愛して――死にすら別たれたくないと望むくらいに」
ロンシンがサリーユの命を望むことなんて決してないけれど、命だって奉げる、なんて、簡単に言ったりしないくらいに。
忠誠心なんてかすんでしまうくらい、独善的に求めてほしいのだ。
「もうちょっと本気出されたらどうです?」
「いいだろ、純情ぶっても」
先ほどからあきれを隠そうともしない口調のユーイエに、ふん、と鼻を鳴らす。
確かに他にやりようはいくらでもある。サリーユに自分の妻になることを承諾させるだけなら、今日明日にだって実現できる。
でも、こんなに手を尽くしているのは、サリーユの気持ちに合わせているのと――。
「最初で最後なんだから」
彼女との距離を縮めていく過程が、ロンシンにとってもかけがえのないものだからだ。
彼にとって、これは初めての本気の恋で、おそらく最後の恋になる。
あの夜――サリーユと初めて出会った夜、無防備に金色の目を見開いて自分を見つめていた彼女を見たとき、ロンシンは恋に落ちた。
見た目はすこしばかり容姿の整ったどこにでもいる乙女だった。
でも、彼女の目は――おそれと驚愕をあからさまに浮かべながらも、決して自分から目をそらそうとしなかった黄金の目は――人間にしては強すぎる魔法を宿しているだけでなく、どこまでも透き通っていて、知性と意志の強さを感じさせた。
一目惚れだなんて、自分がするとは思っていなかった。
何かの気の迷いかもしれない、と彼女を連れ帰ってそばに置いたけれど、知れば知るほど想いは募ったし、いとしさはこの先も冷めそうにない。
遠慮がちで、理知的な彼女の壁を壊して、理性と欲求のはざまで揺れてぐちゃぐちゃになった目で求めてもらいたい。
「知ってはいましたけど、陛下もくそ重いですよね」
「恋したら誰だってこんなものだよ」
すました顔で言い放つ。
「ところで、陛下」
背後から改めて呼びかけられ、ちらりと振り返るとユーイエが笑うのを必死にこらえていた。何ごとだ。
「ほんとにあの子に世界の半分をあげる、って言ったんですか?」
「うん。だって、おまえがそう言えば、サリュがなびいてくれるって言ったんだろ?」
ちっとも効果なかったぞ、とむくれたロンシンにユーイエは「ぶくふぅ」と変な具合にふき出した。それから肩をすくめる。
「まあ、そんなものになびく子だったら、陛下とのこと、ボクの命にかけて阻止してますし」
つまりはロンシンで遊んだということか。いい根性だ。
「サリーユはいい子ですよ」
「知ってるよ」
あまりにいい子すぎて、じれったくなるくらいに。
もっと包みこんで大切にしたいけれど、逆にすべてを暴いてしまいたくなるくらいに。
「泣かせたら、陛下とはいえ容赦しませんから。本気のボクとやりあうこと、覚悟してくださいね」
ロンシンほどではないが、かなり強力な力を持つユーイエをやりあうとなると(主に周囲の)被害が大きすぎて後処理が大変になる。お互い、避けたい事態だ。
「泣かせるわけないでしょ」
どんなにぐちゃぐちゃにしたくても、暴いてしまいたくても、結局ロンシンはサリーユを大切にすることしかできないのだから。
「あーあ。サリーユも魔王なんてとんでもないものに見初められちゃって」
大変ですねぇ、とのぼやきは聞かなかったことにする。
彼女はずっと魔族返りの「災いの子」と呼ばれ、生家でうとまれてきた。魔法を扱う子どもなど、コントロールを教えることのできる仲間もいない人間の中に生まれてしまえば疎外されることは想像に難くない。
今や世界宗教となっているエリム教が魔族と魔法を「悪」としているのだから、魔族返りなど一族内から出すわけにはいかない。名家に生まれた分、彼女は家族にとっての「お荷物」として扱われたはずだ。
価値のない娘。唯一の存在意義は、無能な兄や、時に父の職務を代行する道具。
そういうふうに扱われてきた彼女が、自分を無価値だと思い込むのは仕方ないことなのかもしれない。
「陛下にふさわしくない、なんて、ぜんぜん、そんなことないんですけどねぇ」
ロンシンの内心を読んだように、ユーイエがつぶやく。
確かに彼女の実家は魔族を敵に回したし、それゆえにロンシンが滅ぼした。
だが、いくらかの根回しは必要だが、今の彼女にだってじゅうぶんロンシンの隣に立つ資格がある。教養、行儀作法、領地経営ひいては国営にかかわる政務に携わる手腕――加えて彼女自身は嫌がるだろうが家柄についても周囲を黙らせる価値はあるのだ。
何より、月燐花の王――魔王であるロンシンが彼女を求めている。
それだけで、すべては押し通される。
月燐花の王が白だと言えばすべては白――黒だって白になるのだから。
「サリュとのことについてだけは、おとなしく母上に位を押しつけられておいてよかったって思うよ」
さっさと引退したい、というだけで息子に位を押しつけた母のことはしかたない人だと思っているが、そのおかげでサリーユとの結婚に障害はないに等しい。
あとは彼女がうなずいてくれさえすれば、万事すべて順調に整うのだ。
「あー、このまま何にも気づかないほうが幸せってこともありますよね」
訳知り顔にうなずいているユーイエに向かって問いかける。
「なに? 私とサリュとの結婚、反対なの?」
「いいえぇ。まっさか、とんでもない。賛成ですよ! 陛下にとっても、サリーユにとっても、いい縁談だと思いますし」
ぶんぶんと両手を振ってから、すんっとユーイエは真顔になる。
「ただ、サリーユがにぶくてよかったな、と思っただけです」
魔王という存在のおそろしさにも、愛の重さにも、気づかないほうがサリーユの心は平穏に保たれる。逆に気づいてしまったら、彼女であっても逃げ出しかねない。
が、ロンシンは余裕の笑みを唇に刷く。
「ふふん。私はサリュの『完璧な陛下』だからね」
それくらい隠し通してみせるさ、と。
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