3

 *


 『知ってますよ、ユリさん』


 そういってやりたいのを、なんとかこらえる。


 パパが、お母さんを殺っちゃったことも。チビたちをけしかけてることも。


 ユリさんとの関係に、一線引いてることも。


 「家族をもつ資格なんかないって、考えてるみたいで、」


 『ユリさんに、失礼、すよ』


 そういってやりたい。

 だけど、




 じぶんが刃にかけた母親の亡骸をまえに、幼い男の子が、立ち尽くしている。


 「大丈夫よ、大丈夫、」

 優しく笑む女性が手を差し伸べる。

 「わたしはキミが優しい子だって、知っているの」


 けれど男の子がその手を取ることはない。


 なんといってもぼくは母親を殺してしまったんだ、ぼくは、


 「キミはキミの人生を歩む権利があるよ」


 ぼくは母親でさえも愛せなかった。


 「愛したんだよ、せいいっぱい、じゅうぶんだよ。わたしは待ってるよ、キミがキミを許せる日がくるまで。そうだな、三十年、」


 三十年?


 「ガラスの破片が、宝石にかわるまでの時間なんだ」


 *


 ユリさんが待つなら、オレはなにもゆうことなんて、できない。


 「…パパて、なまえ、なんてゆうんすか?」


 パパがゆっくり、目を開く。


 「……、」

 「え?」

 「ユリちゃん、ツナマヨ、入れてくれたな」


 「入ってたと、思いますよ…」


 やっぱりいつか、バラしてやろうと思った。


 *

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る