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 それなのに、


 「えーと、あの、」


 パパの視線が痛い。


 オレの左胸、の少し上。

 心臓のあたり。


 「…ません。これ、とれなくて、」


 黒く掘られた剣の向こうから睨みつける、立髪のある若いライオン。


 フェイクです。なんて誤魔化せないリアルな芸術。


 中学卒業の祝いに親父が一流彫り師に頼んで、彫ってもらったやつだ。

 その翌日から、親父はアパートに戻らなくなった。おまえはもう大人なんだ、ひとりで生きていけ、そういわれたんだとわかった。


 知らず、視線が下がる。


 「…お客さんには、見せないんで、」


 トン、


 「?」



 見ると、そこに、パパの大きな拳があてられていた。


 顔を上げる。


 「あの、」


 その瞬間パパの目は、やっぱり、慈愛に満ちていて、


 「あの、あっ、ぶっ!」


 と、思ったがはやいか、顔面に、


 「ちょっ!」


 水…お湯鉄砲⁉︎


 「あぁぁぁあ!」

 「ゆっ、」

 雪も真似して、手の水鉄砲を組み小さな噴水をぶつけてくる。


 「すきを見せるな」

 「⁉︎」


 いま、しゃべった⁉︎


 が、ふい、と、すぐ雪を抱きなおして海を向いてしまう。


 聞き間違いだった?


 「あと、な、」


 あ、やっぱりしゃべった。声小さっ! つか、なんか目ぇつぶると舘ひろしさんがいる! ゴルゴじゅーさん的な…


 「パパさん、しゃべれ…」

 「ユリちゃんを、」

 「はい?」

 「一秒以上見つめたら、ころす」

 「はい⁉︎」


 理不尽っ!

 梅ちゃんっ!

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