ぼくのおにいちゃん

1

 「す、すげぇ…」

 「あぁ♪」


 風呂から上がりキッチンへ降りると、


 「ようこそ、多々戸へ〜!」


 わ〜い、て、拍手するユリさんのまえ、丸いテーブルからはみだすくらいのご馳走が並べられていた。


 パパはすでに席にかしこまっていて、鼻をクマみたいにひくひくさせながらテーブルの上の料理を眺めている。

 「ユリさん、すごいすね」

 すなおにパパに耳打ちする。ほめたつもりなのにすっごい睨まれた。

 「あ、いや、んでもね、す…」


 四人、食卓を囲んで背を伸ばす。

 「「「いただきます!」」」

 「あ、あ、あ、あ、あ!」


 *


 雪は意味のあることばがでてこない。


 「なぁ、ぜんそくよか、こっちのがやばいんじゃねぇ?」


 なんかい「おにいちゃん」を教えてもでてこないのがこわくなって梅ちゃんにはなすと、梅ちゃんは目を丸くして言い放った。

 「そんなこといったらうちの生徒みんなやばいじゃん」


 うちのガッコの半数は、『ことば』がはなせなかった。


 漢字の読み書きができない、日本語が理解できない、理解度はわからないがとにかく発話できない。そのいずれかだ。ちなみにオレは漢字わからない組だ。じぶんの名前とバイトしてる居酒屋のメニューしかわからない。

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