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 「『お兄ちゃん』なんて、ナンセンスなこと教えるからだろ」

 「え? なんせ…? …なぁ、雪、おにいちゃん、いってみ?」

 「ああああぁぁぁあ!

(怒)」

 「っぶ!」

 かわいい『おにいちゃん』を期待してたのに、苛立たしげな雪の手から算数ドリルがとんできた。

 「ユキちゃん。た、か、し。こいつはタカシだ、いってみな? バカタカシ!」

 「てめ、生徒にバカとかゆうなよ!」

 「ああ(バカ)ああい(たかし)!」


 えぇ⁉︎


 「うまいぞ、ユキちゃん!」

 「ああし!」

 「タカシじゃねぇよ、おにい、」

 「ああぁ(怒)」

 「ええ⁉︎」

 「タカシ、ほら、ユキちゃん」

 「ああい! ああ、ああし!」


 マジか…


 「雪…ゆきぃ…」

 「あああああ!」

 「おまえ、ユキちゃんをいじめんなようざいうざすぎる」

 「オレがいじめられてんだよぉ…」


 *


 「それはなんかさ、ことば以前の問題なんじゃない?」

 「う、」

 ユリさんの純朴な疑問が痛い。

 「たかし、は、はなせたんでしょ? すぐ覚えるわよ! ね、ユキちゃん!」

 「あい!」

 「ユキちゃんはかしこいんだから! ね?」

 「あい!」

 「じゃ、あしたからお兄ちゃんとことばのお勉強しましょうね」

 「ぶぶぅ」

 「あら!」

 ユリさんが楽しそうに声を上げた。


 ことばをしらない。

 はなせるのに、理解できるはずなのに、この歳になってもことばがでない。


 その意味するところをわかっていてなお、ユリさんは楽しそうだった。


 「大丈夫、これから。ユキちゃんの時間は、これからよ!」


 て、ふわり、花を咲かせる。

 「…はい」

 「あ!」

 「うぉ!」

 からの、素っ頓狂な声に顔を上げると、


 「♬」

 「あぁあ♪」


 マテができなかったパパと雪が、チキンに手を伸ばしていた。

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