3

 布団をかける手がとまる。


 「ちょっと待てよ、おまえ…」


 やっと目が合う。


 くりくり栗色、真ん丸の目。


 ふんわり柔らかそうな栗色の髪。人形みたいに白い肌に、ほっぺがマシュマロみたいだ。


 女の子じゃんか、

 まだ小一かそこいらか?


 「名前は?」


 こんな色白で丸い目は明らかにオヤジの子じゃねぇな、女の連子とやらか。

 まぁ、いい、オレが見つけたんだオレのもんだろ。


 「オレは、タカシ。天国の天、で、タカシ、な? おまえは?」


 バイト先から頂戴したポッキーをカバンから引っ張りだす。なんの感情もなくポッキーを見つめているガキの手を包んでさする。


 もちもちの白い手は水につけてたのかってくらい冷たい。


 「名前、ないのかよ。じゃぁ、オレがつけてやるよ」


 きょうはいい日だ。


 テストヤバかったのも、

 タバコ没収されたのも、

 むかつく客に怒鳴られたのも、

 ぜんぶ帳消しだ。


 「おまえの名前は、ゆき、雪、な? 白くてキレイでキヨくて正しい」


 くりくりの目は、ポッキーから離れない。


 「かわいいな、おまえ、」

 「……、」

 「ラーメンつくるけど、とりあえずポッキーくうか」


 雪独特の静寂にしゅんしゅん、ヤカンの立てる音が心地いい。


 石油の香りと炎の暖かさに、部屋は包まれてゆく。


 高二の冬、雪の日に天使が降ってきた。横浜田舎の片隅、飯場の隅っこ、オンボロアパートに。


 「オレはおまえの、にいちゃんだ。よろしくな」


 *


 「バカなうえにロリコン変態だったのかお前は」

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