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布団をかける手がとまる。
「ちょっと待てよ、おまえ…」
やっと目が合う。
くりくり栗色、真ん丸の目。
ふんわり柔らかそうな栗色の髪。人形みたいに白い肌に、ほっぺがマシュマロみたいだ。
女の子じゃんか、
まだ小一かそこいらか?
「名前は?」
こんな色白で丸い目は明らかにオヤジの子じゃねぇな、女の連子とやらか。
まぁ、いい、オレが見つけたんだオレのもんだろ。
「オレは、タカシ。天国の天、で、タカシ、な? おまえは?」
バイト先から頂戴したポッキーをカバンから引っ張りだす。なんの感情もなくポッキーを見つめているガキの手を包んでさする。
もちもちの白い手は水につけてたのかってくらい冷たい。
「名前、ないのかよ。じゃぁ、オレがつけてやるよ」
きょうはいい日だ。
テストヤバかったのも、
タバコ没収されたのも、
むかつく客に怒鳴られたのも、
ぜんぶ帳消しだ。
「おまえの名前は、ゆき、雪、な? 白くてキレイでキヨくて正しい」
くりくりの目は、ポッキーから離れない。
「かわいいな、おまえ、」
「……、」
「ラーメンつくるけど、とりあえずポッキーくうか」
雪独特の静寂にしゅんしゅん、ヤカンの立てる音が心地いい。
石油の香りと炎の暖かさに、部屋は包まれてゆく。
高二の冬、雪の日に天使が降ってきた。横浜田舎の片隅、飯場の隅っこ、オンボロアパートに。
「オレはおまえの、にいちゃんだ。よろしくな」
*
「バカなうえにロリコン変態だったのかお前は」
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