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 「パパは?」

 「あ〜、なんか、忙しいみたい、す」


 お買い物、のまえでも波乗りの練習はある。


 早朝、海岸にでて、ところが、


 「あの、パパ、ません、」

 「うっせえいまいそがしい」

 「うっしぇ!」


 どうしよう雪が口の利き方もわからねぇ子どもになっちまう…


 新しい服を買いにいくまで『とりあえず』パパのだぼだぼトレーナーを着ている雪を、パパはボードを持たせて写メるので忙しい。波乗りどころではない。


 オレのパーカーを着せるといったのは、『横浜北部文化を持ち込むな』て、却下された。すっごい偏見。


 で、

 「きょうはぼくといこうか」

 て、ヤンくんがスクールを申しでてくれた。


 が!

 「あの、波、でかくないすか?」

 「まだ胸だよ? これから上がるみたいだけど」

 「胸、」

 「あ、サイズ、波の。たったときに、胸にくる高さ」

 「はぁ、」

 いまいちピンとこないけど、いままでの海に比べると波の押し迫る感がある。

 グワァ、と、波にボードごと持ち上げられて、ダッパンッ、て、落とされる。波の上から見える景色がいつもよりだいぶいい。


 しかも、


 「…あの、いつもはもっと手前? で練習、してんすけど…」

 「アウトにでないとあぶないよ。大丈夫、きょうはわれないから、波がきてもこわがらないでパドルして?」

 「こ、こわくはないんすけど、」


 いや、こわい。わりとこわい。


 ヤンくんは、いつも練習してる『足がつく場所』を素通りしてがんがん、沖へ漕いでゆく。

 とたんに心細くなる。

 いまさら、じつはパパがかなり配慮していてくれたんだと知る。


 「あ、」

 不意に、まえをゆくヤンくんが声を上げた。ボードの上に伸び上がり手でひさしをつくると、水平線を見つめる。


 「きた、」

 「え?」

 「ドルフィン、できる?」

 「え? …、ぷはっ、なんすかそれ、」

 波がたまに顔を叩いてくる。


 「できない? それは困った」

 「え?」


 困られてももう、浜に戻るもボードを降りるもできない。


 ボードから顔を上げて沖を望むと、


 「セットが入ってきた」

 「はっ、」


 デカい波の壁が容赦なくほれたがって、こちらへ向かってくるのが見えた。

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