白浜マリーナ

1

 ボードを脇に海へ踏みだす。


 「波、よく見て」

 ヤンくんはいいながら、水平線から目を離さない。


 踏み入れた足をシュワシュワ、崩れた波のかけらが、くすぐる。


 波を透過した冬の朝の陽が揺蕩い足元で揺れる。


 海の水は透明で、陽の光に発泡するガラスみたいだ。


 「なかの方があったかい」

 「そう、海水温は三ヶ月遅れだからいまが九月」

 「温水プールみたい」


 緩く腕に絡む海をかく。


 「波乗りは、どう?」

 「悪くない」

 「くせになる、でしょ?」

 「ワックスのかおりは、くせになる」

 「違いないな」


 海の懐に、なにも纏わず、なにの力もかりず、板と身一つで漕ぎだす。


 それはたしかに、くせになる遊びに違いなかった。

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