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 『波乗りは麻薬だ』


 梅ちゃんのはなしの通りだった。


 まず、ひとは海にとりこになる。


 多々戸ブルー、あの、ひかりを透かす青に。


 それを見ているだけでしあわせだ。


 ただ護岸に腰掛けて海を眺めているだけのひともいる。たまに、なんか小さなギターみたいのを弾いたりしている人もいる。

 そうやって、海上がりの時間を、みんな暗くなるまで過ごしている。


 ボードを手にすれば、波にのる感覚がくせになる。

 ボードが波に押される浮遊感と、波と海と一体になるスペシャルな感覚、それが忘れられなくなる。


 波の上から見た海の色。ボードの上から見る水平線と迫る波の色も。


 ただ広く広がる海にボードひとつで向かう、緩くうねる海に、ときにおし返すように波を散らす海に、身を任せる爽快感を。


 とくにまだ波をじぶんで捉えることができないオレみたいなやつはプッシュで覚えたその感覚を、また得たくて必死に波をかく。


 つぎこそは、つぎこそはっ、て。


 ジャンキーだ。


 しかも、金で手に入るような、もんじゃない。


 これは、きっとやばいもんに手をだした。けど、




 「楽しい、す」

 「ユキちゃんも、楽しそうだしね」

 「はぁ、あ、」

 大切なことを思いだして手をとめた。

 「ん?」

 「雪に、」


 きょう、見たもの、


 「海のなかを見せたいんすけど、」

 「なか、」

 ユリさんも、皿を拭く手をとめてこちらに顔を向けてきた。


 目がくりくり、きらきらしてて、かわいい。


 パパの好みなんだろうな、すっごくよくわかる。


 ユリさんはどうなんだ? こんなかわいいひとが、あんなワルイオトコで、


 「寒いから、ね、」

 「あ、え?」

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