5

 「あ、え?」


 あわてて意識を戻す。


 「ユキちゃん、喘息でしょ? 風邪ひいたら大変だし、五月くらい、あったかくなるまでまったら?」

 「あ、はい」


 あれ? オレたち五月までここにいんのか?


 「それまで、これ!」

 「あ、はい、…え?」


 て、目のまえにだされたのは、


 「ビーチグラス、」


 淡いブルーの、ビーチグラスだった。


 キッチンの端につくられた飾り棚に、インテリアで並べられているやつだ。


 ソーダ水色に発泡する、ガラスのかけら。三十年、波に洗われて海色に染まったやつ。


 「これ、海のなかと、おなじ色じゃないかな」

 「そうかも、」

 手のひらにのせて、灯りにかざす。


 白熱灯の灯りを透かして、なかでぱちぱち、泡が弾けるみたいだ。


 「海の色、多々戸の、」

 「はい、」

 「あ、ビーチグラスで思いだした。勘違いしてるみたいだけど、さきにパパを好きになったのは、わたしの方なの」


 はい?


 「えへ、」


 ユリさん、真っ赤だ、女子高生みたいだ。


 「ほら、パパて優しいしステキでしょ?」


 はい⁉︎


 「むかしはなんてゆうか、ガラスのカケラみたいに純心だけが尖ってるような感じだったけど隠しきれてない優しさがきらきらしてる、てゆうか、」


 はいぃ⁉︎


 「あ、でね、」


 真っ赤になってすぐ険しい顔になる。すごいじぶんの世界に入ってる。


 「でね、わたし、思うんだけど、」

 ひとり百面相だ。

 「パパはまだ、」


 「きゃぁぁぁぁぁぁあ♬」


 「雪!」

 「ユキちゃん!」


 いまなんか、ユリさんが大切なことをはなしたそうな雰囲気を醸しだした、て、とこで雪の奇声が割り込んできた。


 ドタバタ、風呂から降りてきて、

 「ママぁ!」

 「あらぁ、ユキちゃん、」

 「雪! パンツはけ!」

 素っ裸でユリさんに抱きつく。おまえ…わかってやってるだろ!

 「風邪引くわよ、ユキちゃ、あ、パパ」


 雪のあとをあわてて追いかけてきたパパも、

 「パパ、パンツはいてください」

 「パパも、風邪引く!」

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