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*
ユリさんと並んで流し台に立つ。
オレがすすいだ皿を、ユリさんが拭いてテーブルに重ねてゆく。
カチャカチャ くすぐったい皿の音と、古いエアコンのポンコツな機械音が心地よい。
「手ェだすなよ」
オレに釘を刺して、パパは二度目の風呂へ雪に拉致られていった。ユリさんが心配でも雪には逆らえないらしい。
オレがオトナノオトコならはなしは別なんだろうけど。パパにとってオレはまだその程度だ。
そのくらい、パパの背中は広いしユリさんの懐も広い。
*
きょうの夕飯は、
「きょう、タカシくん、がんばりすぎたから、」
て、波に酔ったオレの代わりにユリさんが鍋をしてくれた。
鍋なんてはじめてだった。
テレビCMの世界だけだと思っていた、そんな、絵に描いたみたいなしあわせ、は。
白菜となんかとなんかと、鶏肉ダンゴの、ミルク鍋。
ふわふわ暖かい湯気といいにおいを、四人で囲む。
ママが取りわけるのを従順に待つパパと、「おいしぃ」をくり返す雪と、うれしそうに笑うママと、腹がいっぱいになる以上の夕飯も。
野菜も肉も、最後の雑炊とうどんまで、雪はびっくりな勢いでよく食べてご満悦だ。
腹ごなしに謎の小躍りを披露すると、(カイトが泊まって以来、思いきり楽しかった日の〆イベントにしているらしい)おやすみまえのお風呂、に、パパを連行していった。
「ユキちゃん、たくさん食べたしたくさん運動? してるし、安心だね」
ユリさんも満足そうだ。
「お兄ちゃん、がんばってるからね」
「あ〜…」
残念なことに、オレは兄貴らしいことをなにもできていない。
梅ちゃんや担任、パパ、ママ、ノラ子だったりカイトだったり…きょうだって、デザートのお汁粉はオノロアサーフのおかぁさんが持たせてくれた。
「お兄ちゃん、がんばってるから、」
ユリさんに二度いわれて、頭をかく。そんなふうにいわれたことがないから、どうしたらいいのかわからない。
「波乗りは、楽しい?」
「それは、はい」
「そっか、なら、よかった」
「はい、」
波乗りは、楽しかった。
麻薬。
『波乗りは麻薬だ』
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