牛乳鍋

1




 「波を見ろ! 波!」


 「まえを向け! まえ!」


 波をかく。

 こいでこいでこいで、


 「おそい!」

 波においていかれて、

 「はやい!」

 波に巻かれて、


 オレはなかなか波にのせてもらえないでいた。


 「波を見ろ、」

 見れば

 「まえを向け!」

 で、混乱するけど、こわくてパパには逆らえない。




 じぶんで波を捉えるのは、見ているよりずっと、ずっとむずかしかった。

 プッシュしてもらったときにはそこそこ才能があるんじゃないかと思っていたじぶんを殴りたい。


 波を捉えなきゃはじまりもしてないのだ、サーフィンとゆうスポーツは。




 パパと、穏やかな冬の陽のした、水平線に向かう。


 緩く揺蕩ううねりにまったりとしてくりけれど、


 「小さく見えてもパワーがある」


 伊豆の波は侮れない。


 「友だちになれそうな波を選べ」

 パパが、舘ひろしの声で『友だち』、とかゆうのがおかしい。

 笑うと拳銃がでてきそうだから、眉間に皺を寄せて堪える。


 「あれ、はどうすか」

 「われない」

 「あれは、」

 「ここからじゃパーリングする」

 「あれでいきます」

 「いい」


 友だちになれそうな波を見つけてパドルをはじめても、


 「波にあわせろ!」


 パドルに必死になりすぎると筋トレの甲斐ありすぎて、


 「っ、」


 波のまえにでてしまう。

 テイルを波に持ち上げられて世界が反転する。


 あぁ、


 「胸反れ! 重心をテイルにずらせ!」


 初心者にそんなこと要求しないでほしい。

 パパの激が聴こえたときにはもう目のまえに上下逆さの世界が見えている。


 くる衝撃に備えて手で頭を覆う。


 くるっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る