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 動画が、迫力ある音楽で始まる。


 ハワイの、青い空と海。

 死と無縁に見えるのに、


 これが?


 そこに立つ波は、


 怪物、だ…


 白く砕け散るしぶきを上げておしよせる、巨大な壁の、生きた怪物だった。


 巻きながら、虫ケラみたいなサーファーを呑み込みボードをはじきとばして砕け散る。


 この波を喰らえば、たしかに、死ぬ。


 なんにんのサーファーをこの波は、呑み込んできたんだろうか。


 英語のアナウンスが流れるなかホーンが鳴り一斉にサーファーがパドルアウトしてゆく。


 MCが興奮してなにか叫ぶ。

 「あ、ぁ!」

 あわせて、雪も叫ぶ。

 「とらえた、」

 ひとりのサーファーが、試合終盤のビッグウェーブを捉える。


 三十フィート…四階建てビルほどの高さもある波のトップから、低く姿勢をとったサーファーが、落下するみたいに滑り降りてゆく。


 観衆が息を呑む。


 波が崩れスプレーを撒き散らす。


 白く泡立つ波のなかから、サーファーが姿を表す。ボードに腹ばいに、ふりおとされまいと必死にしがみついて浜に戻ってくる。


 大歓声が上がる。

 MCが叫ぶ。

 「ああ〜!」

 雪も立ち上がりスタンスをとり、お尻をふりふりエアウェイブにのる。


 ヤバい、だろ、


 雪はくりくりの目をキラキラにして見えない波にのっている。


 「ユキちゃんならスーパーヒーローだ」

 「ユキちゃん! こっち向いて!」

 「ユキちゃん! シャカちょうだい!」


 こんな波、生半可な気持ちじゃ、のれねぇだろ。


 のりたい?

 のりたいのか、雪は、こんな波に、いや、


 「あ、ぁ♪」

 雪はボードの上でバランスを取るだけだ。ボードをとりまわりしたりはしない。

 リンさんが野良犬ノラ子を長いボードの先に波にのるのを見たんだろう。ノラ子は巧みにバランスを取るけどスタンスはかえない。


 雪はオレが操るボードの先に、のっているのだ。


 「オォー! ゴゥォー!」


 波にのるのは、オレだ。オレが、


 知らぬ間に、箸を、にぎしめていた。


 雪をワイメアに、連れていくんだ。


 だれかのためにじぶんの未来を考えるなんて、生まれてはじめてだった。

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