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 *


 「ちょっと、タカちゃん、」


 海から上がり、おばちゃんはいったようにお汁粉を用意してくれていた。


 「ユキちゃん、あついからね」

 「あぁ! ぽきー!」

 「お汁粉だよ、雪」

 「ぽきー!」

 甘いものはとりあえずポッキーらしい。


 あずきとお餅がごろごろのお汁粉を、ショップのとなり、いまは閉まっている『海の家まるかわ』の軒先で頬張る。


 なんの意味もないしあわせな時間。


 意味のない時間て、そうか、しあわせなのか。


 たしかに意味なく雪の意味ない小躍りを眺めてるときもしあわせだな。


 などと、口の周りをお汁粉だらけにしている雪を写メしていると、

 「タカちゃん、これ見てよ」

 おばちゃんがスマートフォンを押しつけてきた。

 「あ〜…」

 「お汁粉おかわりは?」

 「あ、す、」


 見るしかないのか…


 タイトルは英語で正直わからないけど、英字の背景には、日本にはないだろうって波が炸裂していた。

 災害レベルかよ、て、思うけど、空はピーカンに晴れている。


 「ワイメア、」

 「わ、?」

 「あいえあ!」

 「そうそうユキちゃん。ワイメアの動画、大会の」


 パパが雪に刷り込んでいるワイメアでは大会があるらしい。


 「ワイメア」

 「あいえあ♪」

 「最高峰、の、大会」

 「さいこうほう…」

 「ビッグウェイブの、」

 と、

 「それ、ユウくんのやつだ」

 「あっぶね!」

 カイトがおもむろに覗き込んできた。犬みたいに腕のあいだに首、突っ込むんじゃねぇよ、こぼれんだろ! サーファーフリーダムかよっ。

 「ユウくん? なに、友だち?」

 「小野ユウジ、ポスター見なかったの?」

 すっごい非常識だ、みたいな目で睨み上げてくる。


 あの、レジ横のジョニーか。


 「わたしのね、」

 おばちゃんが口をすぼめる。

 「わたしのせがれじゃんね」


 おばちゃんの⁉︎


 どうやったらおばちゃんからジョニーが生まれんのか。


 目をスマートフォンに戻す。


 「ワイメアベイ。ハワイ、」

 「…はわい…」

 サーファーてのは金持ちなのか?


 画面の向こうでは、筋骨逞しい男たちが大ぶりな花の首飾りを首から下げて、輪になって座っている。


 青い空と青い海、だけど浮かれた雰囲気は少しもない。真剣な眼差しで司会者を見つめるサーファーたちからは、ただならないものが揮発している。


 「エディ・アイカウ、」

 「え、?」

 「大きな波にのる、大会」

 「エディ…だれ? 偉い人?」

 「いまにわかる」

 ヤンくんが歯を見せる。


 「その大会、」


 パパが顔も上げずに呟く。


 「のれば英雄、」

 「英雄、」

 「のれなければ、死、」

 「死、」

 「ほんの数秒で、人生が変わる」

 「数秒、」


 「それが、波乗りだ」

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