ワイメア

1

 「あぁあぁ♪」


 こいでこいでこいで、


 波を感じたら立つ。


 「あぁ♪」


 畳の上で雪はひたすらそれを繰り返している。ただ、


 「うしぇいっ! うっしぇいっ!」


 雪ののる波はよほどいいらしく、一度立つとたっぷり一分はお尻をふりふり波にのっている。


 「ご機嫌だな雪、」

 「うっしぇ!」

 (きょう雪が覚えた単語は「うるせぇ」だ。パパはろくなことを教えない)


 スマートフォンのムービーをとめて、オレもとなりに寝転びエア・海をこぐ。


 こいで立つ練習、一日十回、三セット。

 さらに腕の筋トレ百回。


 ふざけてる。けど、


 「雪のためだからな、」

 「あ、ぁ♪」

 「やるしかねぇな」


 *


 「陸でできないことは海でできない」

 て、きょうは浜辺でひたすら、こいで立つ、練習だった。

 「え、海…」

 海には一歩も入らなかった。

 なんのためのウェットスーツだったのか…波乗りジョニーへの道は険しい。


 「ださ、」


 イモな男らに笑われるけど、

 「集中しろ、身体の軸がブレてる」

 「…ません」

 「あいつらみたいになりたいのか」

 パパの視線を追うと、さっきのやつらがスポンジみたいなボードと一緒に波打ち際でひっくり返っていた。

 「は、ださ、」

 「ださくはない、必死なだけだ。波打ち際で、ヒトは溺れる」


 結局、イモ男たちがそのあと浜に姿を現すことはなかった。


 『死ぬぞ、』


 パパのゆうことはしっかり聴こうと思った。


 *


 「雪は天才だ」

 「あ、あ♪」

 「雪ならワイメアの波ものれる」

 「あぁ♪」


 いま雪のまえにはきっと、ハワイのとびきりスカイブルーとマリンブルー、そして、壁みたいな波が迫っているに違いない。


 「グォー!」


 オレののるガンの上で声を上げる。


 テイクオフ。


 波を捉えたら舞うようにボードにのる。


 空を見てまえを見て波の壁を滑走する。


 きっと最高に気持ちいい。


 「にいちゃんが連れていってやる、ワイメアに、」


 お汁粉をすすりながら見た、ワイメアの動画を思いだして身体が震える。

 エキサイティングなその動画に雪はゾッコンだ。

 じぶんが、…いや、オレがエディみたいにワイメアで英雄になるって、たぶん信じてる。


 『だってオレの兄貴なんだろ? 波乗りジョニーなんだろ?』


 「そうだ、にいちゃんが、連れていってやる」


 「にいちゃんは雪のためならなんだって、できるんだぜ」


 *


 「わ、」

 「ワイメア」

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