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「よぉ、」
どうしたらいいものか、店の入り口で呆然て突っ立ったると(補足すると、パパは、ダウンと手袋とマフラーでやっぱり雪だるまみたいになってる雪の写メを連写するのに必死で、おばちゃんの勘違いどころじゃないらしい)、唐突に声をかけられてふりかえる。
知り合いなんていないはずだ。
なのに、
「いまからかよ、坊主」
どうやら知り合いになったらしいきのうの職質お巡りさんがニヤニヤしながらそこにいた。
オレよかずっと小柄なのに真っ黒に日焼けした、スポーツ刈りに黒いタイトダウンを着こなした出立はなんだか無駄に強そうだ。
お巡りさん用カブにまたがってるのにジーンズに長靴で、釣竿とクーラーボックスをぶら下げている。
「え〜と、はい」
「ユリさんにすきはねぇら。ひひ」
「え〜と、はい」
一瞬パパの肩がこわばった気がして冷や汗がでる。
「坊主はいねぇのかよ、ツレは」
「え〜と、雪が、」
お巡りさんが目を丸くする。彼女がいたことはない。いたことがあるらしいんだけどじぶんが生きる以外に興味がなかったから自覚もない。
となりにいるだれかが大切だなんて、雪がはじめてだ。
「それだら、波乗り、がんばるしかねぇな」
「え〜と、はい?」
「ユキちゃん、ほらこのボードならいいじゃんね! あら、あらぁ、平井さん、はやいねぇ!」
なんで波乗り? て、とこで、引っ込んでいたおばちゃんがまた転がりでてきた。
お巡りさん…平井さん、が手だけで応える。
「小野さんそのボード、キッズてなによ、」
「あらぁ、きょうからユキちゃんが波乗りはじめるってゆうのよぉ」
「ユキちゃんがかい!」
「あい!」
「え〜と、」
「こりゃいい!」
平井さんがうれしそうに膝を叩く。
「あのピンクの浮き輪は坊主のだったのかい!」
「ピンクの浮き輪?」
「え〜と、」
「おはようございます!」
「お、」
「あらまぁ」
え?
さわやかな声にふりかえると、いつ現れたのか、漁業専有道路から同世代くらいだろう男ふたりが、サーフボードを抱えてこちらに手をふって駆けてくるのが見えた。
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