3

 *


 パパは庭へまわると雪を降ろしてさっさと外階段から風呂場へ上がっていってしまった。


 「ぱぱぁ! ぷぅっ」

 雪がパパを追いかけるのを、ユリさんが首根っこを掴んでとめる。意外に乱暴だ。

 「ユキちゃんはママと入りましょう?」

 「うあぁぁぁあ♪」

 雪がそれを聴いて目をらんらんに輝かせる。ついでにユリさんの脚に抱きつく。

 「ちょ! ユリさん!」

 「?」

 「あの、雪、男、なんすよ」

 「あら、」

 ユリさんは目を丸くするけど、

 「大丈夫よ、まだ小さいし」

 「いや、あの、もう、五年生、なんす」

 「保育園?」

 「いや、小学校、」

 「あら、」

 ユリさんが愉快そうに目を丸くした。

 「あらあら!」

 「あぁ」

 「意外に、お兄さんだったのね!」


 『余計なこと、いいやがって』


 雪の、きょう一番の不機嫌な顔がクソかわいかった。




 …オレの初恋は、なんと女の子じゃないしじつはそれほどチビでもなかったのだ。




 十七年の人生で一番の衝撃。

 あの雪の日…


 *


 「とりあえず風呂入ろうな、風邪ひいちまうよ」


 布団から顔だけだして、いましがたオレの『妹』になったガキは仔犬みたいにポッキーをかじっている。めちゃくちゃかわいい。


 「台所、使っていいからな」

 ガキとはいえ女の子だ。脱衣所みてぇのがないから台所を使わせようとして、


 「バ、バッカ!」


 なんと、風呂だと聞いて雪はポッキーを口に入れたまま、潔く素っ裸になりやがったのだ。


 「ここで脱ぐな! おまえ!」


 あわてて目を逸らし、…あ?


 ついてる…? え、ついてる⁉︎


 くりくりの目でオレを一瞥すると、雪は残りのポッキーを箱ごとつかんで、呆然とするオレの前を風呂場に走っていった。


 *

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