ふたりぐらし

パパ

1

 「パパが塗りなおして、パパのお友だちがなかをなおしてくれて、ぜんぶ、」


 ゲストハウスの間取りはごく一般的な日本のおうち…のび太んちみたいな感じで、それが腕利きな『パパ』とおともだちにより、白が基調のお洒落な空間にリノベーションされていた。

 「なんか、いっすね」


 知らない世界だと思った。


 「そうでしょう?」

 ユリさんが歯を見せる。

 「パパは世界一の塗装工なの」


 眩しい。


 眩しい笑顔ってのは、きっとこれだ。はじめて見たな。


 知らない、知らない世界だ。

 陽のあたる世界だ。

 まっすぐ、太陽の陽が届く、


 無意識に、胸に拳を押しつけている。左胸の、少し上。


 「疲れたでしょ? 天くん、パパとお風呂、入っちゃって? ユキちゃんは、先におやつにしましょうね」

 「あい! おぁ、しゅ!」


 おやつと聞いて雪は小躍りしている。

 なにか優しい時間だ。あ、そうだ、やっぱり、のび太んちだ。学校から帰っておやつ食うやつ…学校から帰ってどうしてママがいるのかすごく不思議だったけど、


 「天くん、どうしたの? どっか痛いの?」

 「は?」

 気づくと、膜が張ったみたいな視界の向こうでユリさんと、雪のくりくりの目がオレを見上げていた。

 不意に、雪が小さな手に握ったポッキーの箱をおしつけてくる。


 「…、や、なんでも、」

 そのポッキーの箱を掴むと、あわてて二階へ駆け上がった。


 一部屋しかない二階の部屋の襖を引く。


 「…、っ、」


 「あ、そうだ!」

 階段の下からユリさんの声が追いかけてくる。

 「『天』くんがくるってゆうから、パパ、お部屋は天くん仕様にしてくれたのよ!」


 膝が折れてその場に座り込んだ。


 ポッキーの箱を握りしめてうずくまる。声を堪えるのに涙は堪えきれない。


 「…っ、」


 二階…のび太の部屋には、壁一面の青空に、ポッカリお菓子みたいな雲が、浮いていた。


 横浜はまだ雪が降ってたつのに、


 シモダは、知らない春みたいに、暖かかった。

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