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 *


 「はあぁぁ…」

 「あぁぁあ…」


 雪とふたり、ほうけたみたいにそれを見上げる。


 オレと雪の新生活の舞台…『GuesthouseBeachglass』…は、バス通りを外れて果樹園のあいだを登る山道の中腹にあった。


 世界が違う。

 いろんな意味で。


 なにもない田舎だと思っていた下田に、ここはたしかに波乗りの聖地だ、といわんばかりに小さなその家は立っていた。


 古民家を改装した木造二階建ての一軒家は真っ白に塗装されいて、田舎のみかん畑のなかにそこだけ、南国の風が吹いている。


 ブロック塀を取っ払った土台に虹色に塗られた木の柵がぐるりとまいていて、大きく『TATADO BeachGlass』て、眩しいブルーでレタリングされている。


 木の柵の向こうではフェニクスの大きな葉が、カサカサ乾いた音を立ていた。


 玄関横にはシャワーと、何本かサーフボードがあって、あぁ、ここは波乗り向けの宿なんだな、て、納得する。


 「遠くから、疲れたでしょう、ユキちゃん、」

 「あい!」

 ちっとも疲れたって顔じゃない雪とユリさんが民家にまわろうとして、


 「おぉい! 坊主!」


 げっ


 ブロロロロ、て、とろいカブの音とともに現れたのは、


 「坊主!」


 『はとや』ではちあったお巡りだった。

 「こんなとこまで追いかけてきやがっ、」

 「あら、平井さん、」

 「え?」

 「坊主よぉ、」

 「あ、」


 『平井さん』は錆びたポリスカブをとめると見覚えのあるカバンを手に叫んだ。


 「坊主、カバン、おいてっただらぁ!」


 はとやのお巡り…平井さん…はオレにバックパックを押し付けると、

 「高嶺の、花」

 「あ?」

 「ひひ、」

 肩をあてて、マフラーがこわれたヤンキーもどきなカブで悠々と、下田駅へ戻っていった。




 「平井さん、なんて?」

 「あ、や、…んでもないっす」


 こうして、オレと雪の最高なシモダLifeが幕を開けた。

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