8
*
「はあぁぁ…」
「あぁぁあ…」
雪とふたり、ほうけたみたいにそれを見上げる。
オレと雪の新生活の舞台…『GuesthouseBeachglass』…は、バス通りを外れて果樹園のあいだを登る山道の中腹にあった。
世界が違う。
いろんな意味で。
なにもない田舎だと思っていた下田に、ここはたしかに波乗りの聖地だ、といわんばかりに小さなその家は立っていた。
古民家を改装した木造二階建ての一軒家は真っ白に塗装されいて、田舎のみかん畑のなかにそこだけ、南国の風が吹いている。
ブロック塀を取っ払った土台に虹色に塗られた木の柵がぐるりとまいていて、大きく『TATADO BeachGlass』て、眩しいブルーでレタリングされている。
木の柵の向こうではフェニクスの大きな葉が、カサカサ乾いた音を立ていた。
玄関横にはシャワーと、何本かサーフボードがあって、あぁ、ここは波乗り向けの宿なんだな、て、納得する。
「遠くから、疲れたでしょう、ユキちゃん、」
「あい!」
ちっとも疲れたって顔じゃない雪とユリさんが民家にまわろうとして、
「おぉい! 坊主!」
げっ
ブロロロロ、て、とろいカブの音とともに現れたのは、
「坊主!」
『はとや』ではちあったお巡りだった。
「こんなとこまで追いかけてきやがっ、」
「あら、平井さん、」
「え?」
「坊主よぉ、」
「あ、」
『平井さん』は錆びたポリスカブをとめると見覚えのあるカバンを手に叫んだ。
「坊主、カバン、おいてっただらぁ!」
はとやのお巡り…平井さん…はオレにバックパックを押し付けると、
「高嶺の、花」
「あ?」
「ひひ、」
肩をあてて、マフラーがこわれたヤンキーもどきなカブで悠々と、下田駅へ戻っていった。
「平井さん、なんて?」
「あ、や、…んでもないっす」
こうして、オレと雪の最高なシモダLifeが幕を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます