6


 ワゴンはやがて国道を外れて果樹園のあいま、急峻な坂道をブゥブゥいいながらのぼりだす。


 いよいよ怪しい。


 なんかこいつを殴れるもの…雪の手にあるプラレールに目がいく。

 それに手を伸ばしたところで、


 ガッコン


 「うぉ!」

 「あぁ〜♪」


 ワゴンが前触れなくとまった。

 急停車すぎて思いきり後頭部をシートにぶつける。


 「雪っ! ゆきっ、」


 て、雪に手を伸ばすけど

 「きゃぁぁぁあ!」

 雪はちゃっかり男の腕のなかに収まっていた。



 「ちょ…、てめ、」

 マウントを取られるまえにプラレールを掴んで、が、


 バンッ


 唐突に助手席があいた。


 「ぎゃっ!」


 席からぶざまに転がり落ちてまた雪が笑いだす。なんだよこのギャグみたいな、


 「おかえり!」


 え?


 「ユキちゃん! 天くん!」


 えぇ?


 そこには、笑顔が眩しいポニーテールのお姉さん。これがきっと太陽みたいな笑顔ってやつだ。


 リカちゃん人形みたいなぱっちりお目々をキラキラさせて、頬は興奮するでうっすら紅潮している。ゆったりしたラインのワンピースが揺れる。ユリの香りが鼻をくすぐる。


 「おかえり! ようこそ、」


 その向こうには真っ白に塗りなおされた小さな古民家。庭に木漏れ日を落とすフェニクス。サーフボードを模した虹色の看板には、


 「ゲストハウス ビーチグラスへ!」


 『Guesthouse Beachglass』


 明るいブルーでそうレタリングされていた。

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