第2話 クリーニング屋の仕事 春。
私が担当した業務はこんな感じだった。
1、汚れた服、シーツ、じゅうたん、毛布、布団を預かる。
2、預かった物に番号札をつける。
3、番号札と同じ番号のシールに「預かり日」、「お客さんの苗字」、「預かった物」を書く。
4、預かった物を種類や仕上がり希望日に分けて袋に入れる。
(ワイシャツは青い袋、その他の衣類はオレンジか黄色の袋、当日仕上げ希望は白いネットに入れるなど)
5、工場の職員が社用車で来たら預かった物を車に運ぶ。洗い終わった物を受け取る。
6、洗い終わった物にシールを貼り、店内に陳列する。
7、お客さんに洗い終わった物を返す。
8、2週間受け取りに来ないお客さんに電話をかける。
(高齢者が多く暮らす地域だったので見守りも兼ねていた。連絡がつかない場合は地域包括センターか交番に連絡して安否確認をお願いする。)
・・・もう10年くらい前なので多分今はシステムが変わっていると思う。
「見てよ、さっき来たTシャツ濡れてんの。」
「最悪ですね。干しましょう。」
私のバイト先に限ったことかもしれないが、預かる物は完全に乾いた状態で工場に送る決まりになっていた。
雑菌の繁殖、色落ち、色移りを防ぐためらしい。
確かに雑菌増えたり、色落ち、色移りなんて自分の家でもあったら萎えるもんね。他人の衣類でなるのはまじ勘弁だわ。と思っていた。
起こったら最悪訴訟になるらしい。
濡れたまま預かったらレジ裏のハンガーラックに掛けて乾かす。
洗濯しても破れない紙でできた番号札を、預かった物の襟についた紐とかリボン(首タグって名前らしい)と脇についた絵表示のタグにホチキスで付ける。
「あら、お客様!素敵なファーですね。キツネかな?」
「やあねえ。化繊よ。」
「ちょっと表示見ますね。ほら、キツネだってよ。」
店長はお客さんの嘘の材質申告に騙されない。
私はペーペーなせいか5月だけで4回騙された。
悔しかったのでお客さんが途切れた時に「利き材質」の練習をした。
「動物の毛皮は春を逃すと秋口まで触れないから覚えときなよ。」
「はい。」
先輩のパートさんが次々上等な毛皮を触らせてくれた。
キツネ、タヌキ、テン、チンチラ、ラビット、ムートン、ミンク・・・
さすがに触っただけで「この動物ですね〜」と当てる域に到達するのは2年くらいかかったが、動物の毛はフェイクファーより柔らかく、艶がいいことはすぐ覚えた。
鈍い私でもすぐに気付けるほど大きく違うのだ。
実際、お客さんに聞いたら「動物のファーはすごくあったかいし、肌触りもいい。」らしい。
「・・・荒井ちゃん・・・。」
荒井は私の苗字。
「・・・はい・・・」
「あんた、釣り銭出したのにカンカン(釣り銭の小銭を入れてるお菓子の缶)に総額のメモ貼り忘れたでしょ!!!」
「すみません・・・」
「レジが合わないとあんたも上がれないし他の人も困んのよ。」
「すみません・・・」
初めのうちは色々注意された。
悔しいから直した。
直しても不十分なところはまた注意された。
褒められることは少なかった。
バイトをして初めてもらったお給料では服を上下買った。
高校の時から気になってたけど手が出なかったブランドだった。
たまに大学にも着て行き、おしゃれな人になった気分を楽しんでいた。母校の文化祭もその服で行った。
この頃、大人になった気分ですごく楽しかったのを覚えている。
自分で稼いだお金で服を買うこと、おしゃれして出かけることにここまでわくわくしたのは多分、初めてで新鮮だったからだろう。
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