#3 不良少女達の四重奏 -quartet of bad girls-

AM8:30 2-A教室・ホームルーム───


今日はいつにも増して騒がしい。

それもそのはず、今日は転校生が来る日。

話が尽きることは無く。

「聞いた?今日転校生来るって」

「マジで?男?イケメンかなぁ?」

「アンタってホントイケメン好きよね…」

などという女生徒の会話が絶えない。

男子は男子でその逆をしている。


ガラガラガラ…

「ほら座れー、静かにしろー。ホームルーム始めっぞー。」

担任到着、席に着く生徒達。


「おぉ?珍しく水瀬がいるじゃないか。」

「何、居たら悪い?」

少しムッとした感じで返す氷華。

「いや、むしろ嬉しいよ。ちゃんと来てくれて。続いてくれたらもっと嬉しいけどな、ハハハ。」

黒板に何やら書きつつ笑う担任。

「今日は転校生を紹介する。新たにクラスメイトが増えるって訳だ。」

「センセー、転校生って男?それとも女?」

「男だ。残念だったな野郎ども!ハハハ!」

落胆する男子達、反面女子は大盛り上がりだ。


「入ってきていいぞー」

ガラガラガラ…

転校生がクラスに入る。瞬間、皆静かになる。

「それじゃ、自己紹介してもらおうかな。」

転校生はチョークを手に取り、黒板に名前を書く。

「蒼葉六駆です。趣味はギター。よろしく。」

女子がまたザワつく。

「ねぇ、結構イケメンじゃない!?」

「確かに、爽やか系って感じ?」

などという会話が聞こえ始める。

「ほら静かにしろー。という事で今日から仲間になる蒼葉君だ。皆仲良くする様に。」

はーいと返す生徒達。

ザワつきはまだ収まらない。

「そしたら蒼葉君の席は…窓際右奥、水瀬の隣かな。」

「お断りします。」

「知り合いなんだろう?隣でいいじゃないか。はい決まり!」

「うわウッザ…」

顔をしかめる氷華。

面倒事がまた増えたと言わんばかりに溜息をつく。


「よろしくな、氷華。」

「アンタは黙ってて。学校内で絡んで来たら殺すわよ。」

今日はやけにツンツンしている。

氷華なりにプライバシーはある、それを守りたいのだろうと言う所で六駆は溜息をつく。

「わかったわかった、善処するよ。」

「分かればよろしい。」

ホームルームが終わった瞬間、氷華は教室を出た。



授業中・屋上───

物陰から声がする。


「アンッ…んっ、もっとぉ…♡気持ちよくしてぇ…♡」

「ウォッ…桃香、それヤベぇ…!」

行為に及ぶ男女。

この子にとっては日常になっている様だ。


卯花桃香、16歳。

氷華の幼なじみで不良仲間。

校内カーストで割と上の方にいるギャルでもある。

彼女もまた、氷華と共に時の人になる未来が待っているが、今はまだ知る由もない…


「桃香…俺、もう…!」

「アハッ…♡出る?出ちゃいそう?いいよ、モモの中に出してぇ…♡」

一段と激しく腰を振る桃香。

男生徒はそれに耐えきれず、果てる。

「ウォッ…!」

「アッアッ、イくイくイく…アァァッ!!!」

同時に桃香も果てる。

果てると同時にいそいそと服を着直す。

「桃香…めっちゃ良かった…」

「アハッ☆当たり前じゃん、モモの中だよ?気持ちよく無いわけないじゃん。それじゃ、今日の分ちょーだい?」

「ああ…また頼むよ。」

男生徒は財布から1万円を出すと、桃香に渡して立ち去った。

「毎度ありー☆」

桃香は笑顔で手をヒラヒラと振る。

愛嬌はいい、どうやらこれが人気の秘訣らしい。


カツカツカツ…

誰かが屋上に来たようだ。

「ん…この足音…」

桃香は服を着直すと、物陰から表を伺う。

「相変わらずね、モモ。」

ニコ…と笑う氷華。

「ひーちゃん!!ひーちゃんだぁ!!!♡」

氷華を見るや飛びつく桃香。

そう、桃香は氷華が大好きなのである。

「ちょっと…そんなにはしゃがないの。制服がシワになるわ。」

「とと、ごめんごめん。嬉しくてつい…と言うか、珍しいねひーちゃんが学校来るなんて。」

「面倒なのが増えてね…サボれなくなったのよ、学校。」

明らかに分かるように疲れた顔をする。

会長ですら面倒だというのに、といった顔だ。

「会長以外に面倒なの…あ、もしかして六駆君?戦地から帰ってきたとか?」

「ほんと、モモは鋭いね…その通りよ、しかも同じクラスに転校してきたって訳。」

「アチャー…それは何とも…。でもいいじゃん?ひーちゃん、六駆君の事好きじゃん?」

「バッ…!!!///そんなんじゃないわよ!!!///」

「んん〜?顔が赤いですぞひーちゃん?」

ニマニマしながら周りをクルクルと回る桃香。

氷華のことはなんでもお見通しと言った感じだ。

「今朝だってアイツノックもなしに部屋入ってきて…」

「寝起きでパンツ見られたってわけだ!アハァー☆ラブラブだねぇ☆」

「もう、モモ!!!笑い事じゃないんだって!!!」

「今日は黒の日だ!!!」

そう言ってバサッと氷華のスカートをめくる桃香。

ご名答と言った感じで、今日の色は黒で大人しめな下着だ。

おそらく勝負下着の様なものだろう。

「〜〜〜ッ!?///」

咄嗟にスカートを押さえる氷華。

「アハッ☆大正解〜!☆」

クルクルと周りながら階段へ向かう。

このまま学校をふける流れだろう、氷華に声をかける。

「モモ、この後もう1人といつものヤったらスタバ経由してスタジオ行くね!それじゃ、ばいにー!☆」

タタタッと軽やかなステップで走り去る。

氷華は顔を真っ赤にして物陰にへたり込む。

「後でお返しにあの胸揉みしだいてやる…」

そう言って懐からタバコを取り出し、火をつける。

「フゥ…騒がしくなったなぁ…」

降り注ぐ春の陽射しに、タバコの煙が立ち上る。

氷華達の不可侵の領域であるこの屋上。

柔らかな陽光に包まれて、氷華は少しの眠りについた。


PM14:30 屋上───


「お、居たぜ。眠り姫がよ。」

「よくまぁバレなかったね1日…」

2人の女生徒が氷華の前に姿を現す。

「んぅ…あら…彩葉に茜じゃない。」

声で目を覚ます氷華。

「ようやくお目覚めか。おはよう氷華。」

「今日練習だろ?桃香は…いつものアレしてからか。」


黄桜彩葉、16歳。

見てわかる通りのヤンキー。

氷華と同じく店の娘で、幼なじみで家も割と近い。

バイクが趣味で、よく氷華を連れ回している。


神崎茜、16歳。

氷華達とつるんでいる不良少女。

よく彩葉と行動しており、喧嘩もしばしばやっているとか。

スタジオでバイトをしており、氷華達の練習場所の提供をしている。


彼女達も後に氷華と時の人になるメンバー。

だがまだ、その話は先の話である…


「そうだった…いつも通り荷物だけ先にスタジオ置いといていいかしら?」

「ああ、構わないよ。クローク入れとく。」

「いつも悪いわね、はいこれクローク代。」

氷華は財布から200円を取り出し、茜に渡す。

「サンキュ、先払いで助かる。そしたら後で荷物だけクラスに回収に行くよ。」

「こっちも助かるわ、それじゃよろしく。」

氷華はそう言って立ち上がり、クラスに戻って行った。

「氷華、相変わらずみたいだな。六駆が戻ってきてから少し丸くなったか?」

彩葉は誰から聞いたのか、六駆が戻ってきた事を察知していた。

こう見えて実は情報屋だったりする一面もある。

「どうかな…確かにでも丸くなったって言えばそうかもね。音、合わせれば分かるんじゃない?」

「だな、後で分かるか。」

2人もそう言って、氷華の後を追っていった。


PM14:35 生徒会室───


「行かないと煩いよなぁ…葵…」

生徒会室の前で立ちすくむ氷華。

今朝の件で行くべきか悩んでいる様だ。

「はァ…面倒くさ…」

ガチャリとドアを引き、中に入る。

葵の趣味だろうか、生徒会室とは思えないアンティーク調の部屋になっている。

まるで校長室だ。

「ちゃんと来て偉いですわね、水瀬さん。少し見直しましたわ。」

「るっさいな…早く終わらせてよね。この後用事あるんだから。」

客人用のソファに座る氷華。

見た目よりふかふかしている、これも葵の趣味だろうか。

「貴女がちゃんと学校に来ていればこうもなりませんでした事よ?」

そう言って氷華に紅茶を出す葵。

「グッ…」

「…まぁ、気持ちは分かりますわよ。お父様を亡くされて滅入ってしまって、と言うのも。でも貴女には持っているスキルと成績がある。私はそれを評価していますのよ?」

「煩いよ、何も知らないくせに…」

氷華は拳を握りながら涙目になる。

葵はそれを見て続ける。

「貴女がもし、まだ夢を諦めていないのであれば…私は貴女の夢を応援してます事よ。協力だって惜しみませんわ。今一度、自分の気持ちに素直になってみてはいかがでして?」

「夢…ね…」

そう言って紅茶を啜る。

美味しかったのか、少し驚いた顔をする。

「お口に合ったみたいで良かったですわ。」

「ん…」

「ともあれ、私は貴女達の味方だと言うことだけは覚えていて頂戴。去年の学祭のライブ、今でも覚えています事よ。あの盛り上がり、あの歓声…あれはまさに本物のソレでしたわ。」

「!」

見ていたとは思っていなかったのだろう、さらに驚く氷華。

「貴女が描く夢は、きっと本物なんだと…私はその時思いましたのよ。この子達の為なら身を呈してもいい、と。だから、諦めていないのであれば…私は貴女を支えたい。協力も惜しみませんわ。ですから、今一度考えてみてはいかがでして?」

紅茶を飲み終わり、ティーカップを置く。

「…葵がそこまで本気なら、考える。」

そう言って部屋を出る氷華。

「お膳立てだけはしてあげましょうかね…」

物憂げに便箋を書き始める葵。

この手紙が、氷華達の運命を変える手紙になるのであった…


PM15:00 正面玄関───


「氷華、今日1日授業も受けずにどこいってたんだ?」

「六には関係ないでしょ、私がどこで何してようと。」

靴を履き、トントンとつま先を突く氷華。

外は相変わらず晴れている。

「関係ないことは無いだろう、風紀委員だしな。」

「はァ!?アンタ風紀になったの!?」

驚いた顔で振り返る氷華。

そのままノーモーションで六駆のネクタイを掴む。

「いい?私の事が好きだって言うなら、風紀委員長の翡翠には絶対に私の事は黙っててよ?分かったわね?」

「グォゥ…!?わがっだ、わがっだから離せ…!」

物凄い力で引っ張られ、ネクタイで首を締めあげられる。

黙っててという氷華の目は、真剣な目の色をしていた。

「フンッ…分かればいいのよ。さ、スタバ奢ってもらおうかしら?」

「ゲホゲホ…分かったよ、新作な…」

くるりと踵を返し歩き始める氷華を追うように、六駆も歩き出す。


一体風紀委員長と何があったのか…

六駆は不思議に思いながら放課後の街に向かった。

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