第3話

「おねぇさんは、あ、おねぇさんでいいのかな」


「いいよ」


 通信端末が帰ってくる。

 もういちど、撮影モードに切り替え。


「写真、好きなの?」


「好きだね」


「なんで?」


「なんでって」


 まぁ。

 いいか。

 どうせ、この場だけの関係だし。


「写真はね。嘘だから」


「うそ?」


「写真の風景って、本当に存在してるでしょ。たとえば」


 1枚、撮る。


「この写真。これは、この実在してる風景を撮ってる」


「うん」


「でもね。この写真は、データだから。本当には存在してないんだ」


「うん?」


「目の前にあるこの雪原が本当で、写真は嘘。虚像。でも、本物に似せた、とても本物に近い、にせもの」


「ううん」


「わかんないか。そりゃそうか」


「うそが、好きなの?」


 そう来たか。


「いや、まあ、ええと」


 そうか。それでいいか。


「まあ、そうだね。嘘が好きなんだ」


「うそつき」


 うそつきか。


「あっごめんなさい」


 おっと。

 また暗い顔したかな。だめだな。雪装備のせいか、表情をあまり気にしてなかった。


「じゃあ、わたしもいていいかな?」


「えっ。わたし訊かれるの」


 なんて嬉しそうなんだ。


「あなたは、なぜここに?」


「雪が好きなのっ」


 おお。食い気味の回答。


「雪が好きで、ここに?」


「うん。いろんなところに行ってね。ここの雪がいちばん好きなの。暖かいの」


「暖かい」


 雪が。

 暖かい?


「だから、ここで遊んでた。雪大好き」


「へぇ」


 相当に雪が好きなのかもしれない。じゃあ、ここの雪を撮りに来たわたしは、間接的に大当たりだったのか。良い雪に当たった。


「次は。次の質問は?」


 嬉しそう。

 ええと。

 どうしよ。


「お名前は?」


「滴雪」


「かなゆき?」


「うん。滴雪」


 雪の上に、彼女が文字を描く。

 滴に、雪。

 本当の名前ではないだろう。

 適うの適を、滴にして、その上で、雪、だろうか。よく分からない。


「いつもは、何をしてるの?」


 これでどうだ。

 月並みだけど、そこそこ良い質問でしょ。


「雪で遊んでる」


 あっさっきと同じような回答。


「いつも?」


「いつも」


「雪が、融けたら?」


「雪のあるところに行くっ」


 もしかしたら、けっこう余裕のある類いなのかもしれない。なんかやめよ。この質問。

 ええと。違う質問。

 違う質問か。

 じゃあ、これでどうだ。


「雪。なんで好きなの?」


「え」


 あれ。

 これは悩むのか。


「雪。雪のことが、なんで好きか。ううん」


 困っちゃった。


「理由ないんだ?」


「ううん。わかんない。すぐに浮かんでこない」


「理由はあるけど、分かんないんだ?」


「うん。そんなかんじ」


 そんな感じか。


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