第2話 父の話
私の父は、ごく普通のサラリーマンだ。
朝から夜までよく働いた。
そして無口だが、行動力に溢れ、好奇心が多い人だ。
父は、いわゆるエンジニアだった。
工業高校を卒業して、就職しエンジニアになった。大卒でなければ、決して進学校の出身でもない。だけど今は大卒でしか入社できない程の大手で働いていた。「昔は学歴なんか関係なかったのに……」そんな話を嬉しそうに話していた。
きっと父はエンジニアである事、この会社に入社した事が嬉しかったのだと思う。
父は仕事に関して、愚痴や悪口、弱音までも言わない人だった。会社が好きなのか、会社の同僚が好きなのか、どちらにせよ会社の「仲間」が家族と同じぐらい大切だったと思う。
そんな父は、誰にでも優しかった。誘われれば夜中から釣りに行く事もあれば、次の日には家族とお出かけ。
待った無しの人生である。
そして父は人一倍遊びが好きだ。
女には興味がまるでなかったが、多趣味であった。パチンコ、釣り、ゴルフ、車、バイク、…とりあえず何でもやりたがるのだ。
そして何でも器用にやり遂げる。苦手なものが見つからない程だった。
歌も大好きでカラオケは家族で何回も行った。
歌が上手かった父は、昔スナックで「お兄ちゃん!歌うたって!」とお願いされ、自分の結婚式に自分が歌をうたい、会社のカラオケ大会も張り切っていた。
父はいつも衝動的だった。
「今」という時間を本当に大切にしているかの様に猛スピードで人生を歩む。
テレビで見た海鮮が食べたくなったら、今すぐに行きたい。その為に家族はいつも振り回された。だけど、母も私もそんな父が頼もしく面白くて目が離せなかった。
無口で優しかったが、信念は頑固だったに違いない。自らがやりたい事に対しては1歩も引かないのだ。だから家族も忙しい。だけどその忙しさは今となっては楽しい思い出でいっぱいだ。
娘の私には、完璧すぎる父だった。
父の涙するところも見た事は1度となく、弱音を吐くところも風邪や熱で寝込んでいるところも1度も無かった。
とりあえずタフだった。ずっと動いている…そんな人。
そんな父が良く言っていたのは
「俺は止まったら死ぬねん!」
リビングはいつも父の一言で笑いが起きた。
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