第13話、承認欲求
「……うちのクラスも寂しくなったね。」
三人しかいない教室を眺めながら、美波がポツリと呟いた。
「二人とも学園の看板に泥を塗ったんだ、仕方ないよ。」
美波たち二年生は入学した段階では15名だったが、今では8名しか残っていない。
しんみりとした空気の中、華夜が口を開く。
「他の人のことなんて気にしないで、トレーニングに行こう。」
更衣室に向かおうと廊下に出ると、三人は茂とすれ違った。
「おい美波、今日は番組の打ち合わせじゃないのか?」
指摘を受けた美波は、ハッとする。
「そうだった!急いで行かないと。」
美波は必要な荷物をまとめると、慌てて学園を出ていった。
「美波は忙しそうだね、今日は二人でやろうか。」
「……うん。」
香織と華夜はボイスレッスンやダンスのトレーニングを済ませると、いつも通り寮に帰った。
部屋に戻った香織は一息つくと、何気なくテレビを点ける。
すると画面には、トーク番組に出演している美波が映っていた。
「今日のテーマは私の趣味です。それでは皆さん簡単に自己紹介、お願いできますか?」
司会のフリに対して一番端に座っていた男が話し始める。
「自分は芸人で金沢透って言います。ちなみに僕の名前の透は、親が透明感のある男になって欲しいって意味でつけてくれたんですよ。」
「おいおい、趣味の話やのに名前の説明いらんやろ。」
芸人の小ボケに対して司会がツッコミを入れる。
「それでは次の人、お願いします。」
「はい、私はアイドル学園の二年生、潮岸美波です!ちなみになんですけど、私の名前は美しい波のように育って欲しいっていう──」
「いやだから、名前の話はエエて言うてるやろ!」
美波が前の人と同じボケ(天丼)をすると、スタジオが笑いに包まれた。
「……美波、テレビに慣れてきてるな。」
複雑な気持ちになった香織は、思わずチャンネルを変えてしまった。
「私、何やってるんだろ。」
香織は学園から提供された仕事はこなしていたが、それ以外で仕事のオファーを受けたことが一切なかった。
「──目立たない自分を変えたい、そう思ってアイドルを目指したのに、これじゃ意味がないよ。」
思い悩み、深い溝にハマりそうになった香織はブンブンと頭を横に振る。
「駄目だ、もっと前向きに行かないと!」
気持ちを切り替え、香織は作業を始める。
ここ最近、香織は美波を参考にして動画配信をするようになっていた。
「皆さんお疲れさまです。今日はヨガに挑戦してみようと思います。」
少しでも売れるきっかけになればと考え、香織は今日も動画作成に取り組むのだった。
──数日後。
カーテンから漏れ出した朝日で、香織は目を覚ました。いつも通り携帯を開き、配信した動画を確認する。すると……。
「あれ……伸びてる?」
いつもは1000から2000再生だった香織の動画が、一つだけ5万再生を超えていた。
最初は喜んでいた香織だったが、コメントを確認して、その理由を察する。
伸びている動画のワンシーンに、下着が映り込んでいたのだ。それがSNSで拡散されたため、再生数が伸びていた。
香織は慌てて該当の動画を削除した。
その後、自身のSNSアカウントで謝罪をしたのだが、香織に寄せられたコメントは意外なものだった。
「消さないで欲しかった。」
「見ておけば良かった。」
こういったコメントが多く見られた。
「あれ……皆、喜んでる?」
その後も香織は動画配信を続けたが、パプニングが起きて以降、再生数が伸びることはなかった。
その一方で友人である美波はテレビに出演する機会が増えていき、次第に学園で会うことも少なくなっていった。
徐々に香織の瞳は濁っていく。
「……皆が必要としてくれるなら、そういうのもアリなのかな。」
──不穏な風が香織に吹き始めていた。
アイドル学園 そういち @SOUITIX
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アイドル学園の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます