第11話、天狗

姫歌の一件から半年が経過し、美波たちは二年生に進級していた。

そして学園の二年生になると、生徒の間で徐々に格差が生まれ始める。

美波はアイドルなのに漁業関係に詳しいということが取り上げられ、テレビに出演する機会が増えていた。

華夜は相変わらずダンスに力を入れており、ライブをやる際にはセンターを務めている。

そしてここ数ヶ月で一気に知名度を上げた生徒がいた。

美波のクラスメイト、緑川三葉だ。

今まで目立たない生徒だったが、番組でギャルメイクをする姿が放送されたところ、これが学生に大受けした。

今ではテレビに出るだけでなく、雑誌でモデルも務めており、二年生の中では頭一つ抜けた存在になっていた。


──そんなある日のホームルーム。

三葉は皆より遅れて教室に入ってきた。

「ウィース、皆おはよう。」

三葉は艶がかったジャケットに加えて、大きなサングラスをかけていた。

「三葉それどうしたの?」

「給料で買った。」

アイドル学園では在学中であっても、生徒に給料が支払われる。身なりから察するに、三葉は相当な金額を貰っているのだろう。

「よーし、全員集まったな。今日は皆にお知らせがある。なんと三葉がドラマに出演することになったぞ。」

「マジか……。」

華夜はかなり驚いている様子だった。一方の三葉はサングラス越しでも分かるくらいに、したり顔を決めていた。

「撮影が終わるまでの間、授業も休みがちになるだろうが、みんな理解してくれよ。」

茂が話し終わると、美波はパチパチと拍手をした。

「三葉、おめでとう!」

続いて香織も拍手をすると、悔しそうにしつつ華夜も拍手を送った。

数ヶ月後、三葉が出演しているドラマの放送日を迎えたため、美波、香織、華夜の三人で鑑賞会をすることになった。

ドラマの内容は恋愛物であり、主役の友人役が三葉だったため、出番もかなり多かった。

「男優の岸本くんカッコいいな。」

テレビっ子の香織は、ドラマを食い入るように観ていた。

「三葉も演技上手だね。」

「わわっ、顔近い!こっちまで熱くなるよ。」

一方の華夜はそもそも恋愛ドラマが好みではないようで、携帯を触りながらチラチラと観ていた。

ドラマを観終わると、それぞれが感想を述べていく。

「私もドラマみたいな恋がしてみたいな。」

鑑賞が終わったあとの余韻に、香織は浸っていた。

「あんなナヨナヨした男のどこかいいんだよ、恋愛物は展開が焦れったくて苦手だな。」

その反対に華夜は退屈そうにしていた。

二人の会話を聞いていた美波は、以前から疑問に思っていたことを華夜に質問する。

「そういえば、華夜は男子と付き合ったことあるの?」

「……え。」

幼い頃からダンスに打ち込んでいた華夜は、恋愛の経験がなかった。

「いや……ないけど。」

「へぇ、ちょっと意外かも。」

こういった恋愛の話になると、香織はグイグイと首を突っ込んでくるタイプだった。

「ちなみさ、華夜はどんな男の人がタイプなの?」

「まぁ……付き合うなら、男らしくて私を引っ張ってくれる人が良いな。」

「そうなんだ!ちなみに、ちなみにだけど、俳優だと誰?」

「そうだな……俳優だと……って、そんな話どうでも良いでしょ!」

「えー、良いじゃん教えてくれも。」

学園では恋愛が禁止されているわけではない。だが、こういった話をするのは久しぶりだった。

──もし普通の高校に通ってたら、男子と付き合ったりしてたのかな?

特に深い意味もなく、美波はそんなことを考えるのだった。


その後、放送されていたドラマが終了しても三葉の勢いは止まらなかった。

特に女子学生からの支持が厚く、メディアへの露出がどんどん増えていった。

「皆!今日は私のおごりだから、じゃんじゃん食べてねー。」

次第に三葉は授業をサボるようになり、ドラマや雑誌の撮影で知り合ったモデルと関係を持つようになった。

「ねぇ三葉さ、あんたアイドル学園の生徒なんでしょ?行かなくていいの。」

「いーの、いーの、あんな芋みたいなやつらと絡んでられないよ。」

三葉は天狗になっていた。

そんな生活を送っていた三葉に、学園から連絡が送られてきた。生徒全員が参加する、大型のライブが開催されるらしい。

ドームを貸し切り集客人数は五万人を超えると記載されていた。

「……ふーん、これなら出る価値あるかも。」

三葉は重い腰をあげて、学園に登校した。

「今回のライブのセットリストを発表します、一曲目は──」

「あー、久しぶりの学校だるい……。」

連日遅くまで遊んでいた三葉は、うなだれながらライブの予定を聞いていた。

ミーティングの後に一通りレッスンを済ませると、休憩を兼ねてクラスメイト全員で食堂に向かった。

「三葉、久しぶりだね。ドラマ凄く面白かったよ。」

「んー、あぁども。」

美波が三葉に話しかけるが、三葉は素っ気ない返事を返す。

「私も最後まで観たよ、男優の岸本くんどうだった?やっぱり生で見ると違う?」

香織はドラマに出演した三葉に興味津々だった。だが質問をされた三葉は一切返事をしない。

「ちょっと三葉、香織が話しかけてるでしょ。返事くらいしたら?」

華夜が三葉を指摘するが、三葉は華夜の方を見ることなく話し始める。

「私、自分が認めた人としか話したくないの。」

「……どういうこと?」

「美波と華夜は良いよ。美波はたまにテレビ出てるし、華夜はダンス上手いから。でもさ香織って何も特徴がないじゃん、うちら二年の中でも一番売れてないし。」

三葉のとんでもない発言に場が凍りつく。

「……アンタいい加減にしなよ!ミーティングの態度も悪いし、香織に対する言い方もどうかと思う。謝りなよ。」

華夜が怒りをあらわにするが、その矛先である三葉は髪の毛をクルクルと弄りながら、携帯を見ていた。

「ていうかさ、華夜だって私より売れてないでしょ?少しダンスが上手いくらいで調子乗らないでよね。」

この一言に華夜がブチギレる。

三葉の方へ向かうと髪を掴み、座っていた椅子から引きずりおろした。

「痛ッ……テメェ何してんだ、コラァ!」

三葉は華夜を押し倒し、取っ組み合いの喧嘩が始まった。

食堂には美波たち以外の生徒がいたため、辺りは騒然となる。

「ど……どうしよう。」

自分では手に負えない、そう判断した美波は茂のもとへ向かった。

「おい!二人とも何やってるだ。」

間もなく茂が到着して、その場は事なきを得た。しかし、喧嘩の当事者である三葉と華夜は謹慎処分となった。

「クソが!あのブス、アイツのせいで髪の毛が傷んじゃねーか。あー腹立つわ。」

謹慎中の三葉は全く反省しておらず、ストレス発散のため今日も夜遅くまで遊び歩くのだった……。

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